大谷翔平大活躍! でも“この記者会見”では何を聞く?

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【報道部畑中デスクの独り言】

「大谷翔平選手のことを聞いてみたらどうなりますかねえ?」

アメリカ・メジャーリーグ、エンゼルスの大谷翔平選手は投打に大活躍、ご存知の通りですが、今月上旬、7回を1安打無失点、12個の三振を奪う快投を見せた日、ニュースデスクからこんな相談を受けました。
「わかりました」…と言いたいところですが、相手は経済界のトップ、経団連の榊原定征会長、この日は定例の記者会見があったのですが、いくら話題のこととはいえ、縁もゆかりもない経済界のトップに聞くのはどうか…うーん、正直戸惑いました。
実はこのようなスポーツ関連の質問は、錦織圭選手の活躍があった時、榊原会長の出身企業である東レがパンパシフィック・テニスを主催している関係で質問した“実績”はあるのですが、さすがに今回は…でも単なる「ご意見番的」な質問は避けたい…。

「いや、(質問)できたらでいいからさ…」

その後、デスクも難しい事情を慮ってくれましたが…聞くべきか否か、ギリギリまで決めかねていました。

経団連 定例会見

経団連定例会見 2017年1月10日撮影

午後3時半、いよいよ記者会見の時間。定例ですので質問は自由ですが、経団連会長の会見です。経団連も含めた経済関係の動向についての所感が主な質疑になります。この日、経済関係についてはそれなりに話題はありました。米中貿易摩擦、日銀の黒田総裁二期目、働き方改革法案と昨今の国会審議を絡めた質問、公文書改ざん問題や日報問題をめぐる官庁や国会の対応について…。各社の“正攻法”の質疑応答が続いて、一段落がしたところで、結局、こういう聞き方しかないかな…思い切って手を挙げました。

「話ガラッと変わって…海の向こうで大谷翔平選手が大活躍を見せています…」

そこかしこで記者からクスクス“ほぐれた”笑いが聞こえます。でも仕事です。恥を忍んで続けます。

「企業経営でも“二刀流”というのはあり得るのか、難しいとは思いますが…どうでしょうか? こうした視点も含めて、会長のご所見を…相変わらず“変化球”の質問ですみませんが…」

榊原会長はにこやかな表情で次のように回答しました。

「いや本当に、暗い話題が多くて明るい話題が少ない中で、大谷翔平…投手というのか選手というのか、あの…ホホホホ(笑)ああいったメジャーリーグでの活躍っていうのは、明るい話題だと思います。ぜひメディアの方も大きく扱っていただいて、国民に明るい風を吹き込んでいただきたいと思います。本当に素晴らしいと思っています」

まずは活躍そのものについての所感、私どもメディアにもチクリとやった後、「二刀流」について…。

「企業はすべて二刀流でして、社員にはいろんな社員がいていいわけですが、企業としてはもちろん、ピッチングできて打撃もできると、守りも攻めも両方できるというのが企業だと思います。したがって企業を統括する社長というのは、俺は守りだけで打撃が下手だとか、そういう人は経営者には不適切なんだろうなと、経営者はやはり守りも攻めもできる人でないといけないと思います」

そして、あらためて活躍について締めます。

「非常に明るいニュースであって、これからの継続的な活躍を期待したいと思うし、ま、そうやって明るいニュースを、暗いニュースばっかり報道せずに扱っていただきたいと思います」

経団連 定例会見

経団連定例会見 2017年1月10日撮影

榊原会長は質問にしっかり向き合ってくれましたが、回答は今のところ「一般論」、私は“悪ノリ”して畳みかけました。

「会長自身は、二刀流はバッチリ…?」
「僕は左手も右手も書けますので、左でも右でも字を書けますし、ご飯も食べられますから、そういう意味では二刀流ですね、ハイ」

確認する限り、さすがにこのやり取りについて報じるところはなく、恥ずかしながら小欄でお伝えすることにいたします。でも質問により、榊原会長が“両利き”であることを知り、「企業、社長は二刀流でなくてはならない」…榊原流の経営哲学の一端を垣間見ることができたと思います。
東レは榊原氏が社長時代、炭素繊維の開発で業績を大幅に向上させたことで知られています。あわせて榊原氏は理系出身、攻め・守りとともに、技術と経営を知っている…ある意味これまた「二刀流」、榊原会長らしい回答だったと言えるかもしれません。

記者会見で質問をする時は、どんな聞き方をすべきか知恵を絞ります。結果「空振り」に終わることも多いのですが、今回は私の中で不思議と胸にストンと落ちた…そんなやり取りだったと思います。

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