元WBC世界バンタム級王者・山中慎介 プロになることを決めた大学での国体初戦敗退

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山中慎介 TKO

2回TKO負けし、リングを後にする山中慎介=2018年3月2日両国国技館 写真提供:共同通信社

どんな偉大なスポーツ選手でも、いつかは現役引退を迎えます。昨日、試合に敗れた1人の偉大なボクサーが引退を示唆しました。日本歴代2位の12連続防衛記録を持つ、山中慎介選手・35歳です。

身長、171センチのサウスポー。強烈なストレートは「神の左」と呼ばれ、KO劇を量産してきました。アメリカの権威あるボクシング誌が選ぶ「パウンド・フォー・パウンド・ランキング」、簡単に言うと、体重差が無かったと仮定して、全階級を通じて最も強い選手を選ぶランキングでトップ10入りを果たしているのですから、どれほどスゴイ選手なのかお分かりでしょう。

山中選手は、滋賀県甲西町、現在の湖南市の出身。「浪速のジョー」こと、辰吉丈一郎選手に憧れて、高校からボクシングを始め、高校3年の時には国体優勝を果たしました。それほどの実力があれば、オリンピックやプロのチャンピオンを目指すのかと思いきや、「ここが自分の限界だろう」と、ボクシングは、高校までで辞めようと思っていたそう。ところが、専修大学からスポーツ推薦の話が舞い込んできたことがきっかけで、「授業料も全額免除だし、まあ、東京に行ってみようか」という軽い感覚で入学。練習にも今ひとつ身が入らず、ボクシングは、大学で最後と決めていたそうです。

転機となったのは、4年の時に出場した国体でした。高校と大学、7年間のボクシングの集大成とした臨んだ大会でしたが、結果は初戦敗退。「このままでは終われない」と、プロボクサーになることを決意。数々のチャンピオンを排出した名門・帝拳ジムの門を叩いたのです。プロ入り後は、一撃必殺の左ストレート「神の左」を武器に、KOを量産。2011月、かつて憧れの辰吉選手が巻いていたWBC世界バンタム級王座を獲得すると、去年8月まで、6年もの間、ベルトを巻き続けました。

そんな偉大なチャンピオン、山中選手の現役最後の試合となったのが、昨日、両国国技館で行われたWBC世界バンタム級タイトルマッチです。山中選手は、前王者のルイス・ネリ選手・23歳に第2ラウンド、3度のダウンを喫してTKO(テクニカル・ノックアウト)負け。王座返り咲きはなりませんでした。

ただ、スッキリしない理由が、対戦相手のネリ選手には色々とありまして…。
山中選手が去年8月、具志堅用高さんの持つ日本記録に並ぶ、13回連続の防衛をかけた試合でストップをかけたのが、このネリ選手だったのですが、なんと、試合後、ネリ選手にドーピングが発覚、今回の再戦となったわけです。

にも関わらず、このネリ選手、今度は、大幅な体重オーバーをやらかしました。バンタム級のリミット53.5キロを一度目の軽量で、2.3キロ。2時間後の再計量でも1.3キロオーバー。結局、戦わずして世界チャンピオンのタイトルを剥奪されたわけです。

これ以上無いヒールとなったネリ選手を「神の左」でマットに沈めてハッピーエンド…。フィクションであればこういう結末だったはずですが、現実は誰も望まぬバッドエンド。試合後、涙を流しながら引き上げる山中選手には、会場から万雷の拍手。一方、セコンドに肩車されリング上で拳を突き上げるネリ選手には、容赦ないブーイングが飛びました。試合後、山中選手は、

「試合でこうしておけばという悔いはありません。もうこれで最後です。終わりです」

と、現役引退を表明。

プロ生活12年、31戦27勝2敗。敗れたのは、“いわくつき”のネリ選手のみ。山中選手がチャンピオンとして積み上げた12連続防衛という偉大な記録は、ファンの記憶に確かに残り続けることでしょう。

3月2日(金) 高嶋ひでたけのあさラジ!「スポーツ人間模様」

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