フィリピンの“ビサヤ犬”の自由で豊かな南の島ライフ

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【ペットと一緒に vol.69】

ビサヤ犬 イヌ 犬 いぬ フィリピン セブ島

世界各国で犬の取材をしてきた筆者が、ときどき思い出す犬がいます。それは、フィリピンのセブ島で出会った“プーさん”です。日本の犬たちとはまるで違う暮らしを謳歌する“プーさん”に思いを馳せるとき、筆者は日本の犬の幸せについて考えずにはいられません。

今回は、南の島のプーさんの暮らしぶりをご紹介したいと思います。


“ビサヤ犬”とは?

スキューバダイビングをするためにセブ島を訪れた筆者は、あるダイビングショップの営業部長を務めるという“プーさん”に会いに行きました。プーさんの飼い主さんは、日本人の女性オーナーであるセシリアさん。

「フィリピン人の友人宅で生まれた子犬を譲り受けたのですが、当時、“くまのプーさん”にそっくりだったので命名しました」とのこと。

プーさんは“ビサヤ犬”なのだそうで、その理由は「セブ島はビサヤ諸島に浮かぶ島。そんなビサヤ文化にどっぷり浸かっている犬だから(笑)。実際にビサヤ犬という犬種が存在するわけではありません」と、セシリアさん。

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「こんにちワン」byプーさん

ワクワクしながら筆者が初対面を果たしたプーさんは、期待を裏切らない典型的な“東南アジアの犬”でした。筆者の主観ですが、“ミックス犬”と表すると、純血種同士の交配によって誕生し、犬種の特質を残している印象を持ちます。けれどもプーさんは、種々雑多な土着犬の血を受け継ぐバリバリの“雑種”。それでいて、おでこと口角にちょっと情けない表情にも見えるシワがあり、しっぽが長く、短毛という、東南アジアでよく見かける犬の風貌を完璧に備えていました。なるほど、まさに“ビサヤ犬”と言えます!


プーさんの自由なマリーンライフ

プーさんは、天気のいい日はほとんど、ダイバーやリゾーターと一緒に船に乗ります。フィリピンには、ロシアのように船の守り神として犬を同船させる文化はないとは思いますが、筆者のダイビングツアーにもプーさんは同行してくれました。

勝手知ったる船上で、プーさんはすぐに横になると、ウトウト……。

「船酔いはしないし、船上でのバランス感覚もバッチリ。だけど、泳ぐのは苦手なんだよね(笑)」と、船長さんは笑っていました。南の島で暮らしているのに泳げないとは、驚きです。

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「ワォーン! 実はボクは泳げないのだ~」

筆者たちと一緒に、ランチ休憩のために無人島に上陸したときは、プーさんは日陰から出てこようとはしませんでした。「陽光照りつけるビーチは、足の裏が焼けちゃうからかな? なにせ、プーさんは海で泳がないからなぁ(笑)」と、ダイビングのインストラクターたち。

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「日陰が一番快適だもん」

「実は、ある島には恋人(恋犬!?)がいるんですよ(笑)」と、セシリアさんから聞いていましたが、その島に上陸する際は、プーさんは船から身を乗り出すようにしてしっぽを振り、「ワォ~ン」と力強い雄叫び。

上陸するや、まずはせっせとあちこちにマーキング。

そして、恋人を探しあてると、さっそくぴったり寄り添うようにしてアイランドデートを楽しみます。「この島は、3日ぶり。かわいい彼女に会えて、うれしそうだね」と、船長さんやインストラクターも微笑んでいました。

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恋人とアイランドデートを満喫。このひとときばかりは日なたもOKのよう


幸せそうな笑顔のプーさんにならって

個性豊かなキャラクターも手伝って、プーさんがツアー参加者の心を毎回ガッシリとつかんでいるというのも、うなずけます。プーさんに会うのを楽しみにしているリピーターも、少なくないとか。

それにしても、プーさんの毎日は刺激的で自由。リードにもほとんどつながれることなく、自分の意思で思いのままに行動ができているように、当時、日本で留守番中の筆者の愛犬と比較して感じたのを思い出します。「愛犬のリンリンは、1日1~2時間しか外出もできず、多くの人と触れ合うこともあまりなく、自宅で寝ている時間がプーさんよりも多いなぁ……」と。

とはいえ、日本では、筆者と愛犬のような暮らしをしている人がほとんどのはず。犬文化も飼い主もライフスタイルも違うので、プーさんと日本の犬たちを比較することすら無意味かもしれませんが、プーさんの1日がとても充実しているように見えたのは事実です。

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「あれ? このシーン撮っちゃう? えへへ」

一方で「プーさんは、フィリピンの犬にしては実は珍しく、混合ワクチンや狂犬病の予防接種も欠かしていません。貧富の差が激しいフィリピンでは、ワクチンを愛犬に接種させる金銭的なゆとりのない人が多いのも現状なんです。満足な獣医療を受けられないことのほうが多いフィリピンの犬は、だいがいは10歳まで生きられないかなぁ」という、セシリアさんの言葉も忘れられません。

筆者がプーさんに出会ったのは10年ほど前。プーさんは今、快適なシニアライフを過ごしているでしょうか?

人や犬を取り巻く環境は、国や地域でそれぞれ異なります。当たり前のことですが、人のすぐそばで生きる犬たちは、地域の生活文化の映し鏡となり、そこで健気に生きています。

フィリピンからの帰国後、筆者は愛犬のリンリンに「ちょっと国事情は違うけど、プーさんみたいに笑顔あふれる日々を過ごせるように飼い主としても工夫するからね。楽しい時間をたくさん共有しよう!」と、声をかけました。

連載情報

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ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!

著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。

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