年末年始、にぎやかになってきた日本の宇宙開発

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【報道部畑中デスクの独り言】

ソユーズ宇宙船 Vサイン 金井 宇宙飛行士

ソユーズ宇宙船でVサインの金井宇宙飛行士(NASAテレビより)

2017年末、ここへきて日本の宇宙開発がにぎやかになってきました。

12月17日には日本人で12人目となる宇宙飛行士、金井宣茂さんがロシアのソユーズ宇宙船で国際宇宙ステーションへと旅立ちました。ソユーズ宇宙船飛行中に見せたVサインが何ともほほえましく見えた金井さん、ステーション到着時の交信イベントでは「仕事ばかりでなく、しっかり宇宙経験を楽しんで帰ってまいります」と話していました。約半年間滞在し、数々の実験を担当する予定です。

その中で注目されるのは以前もお伝えしたたんぱく質の結晶生成実験。結晶というのは地上のように重力があるとゆがみなどを起こし、きちんと配列が揃った「高品質のもの」がつくれません。それを無重力の宇宙で実験を行うことによって、ゆがみなく品質のいいたんぱく質の結晶を作ることができる…病気の元になるたんぱく質の結晶構造を正確に知ることができるわけです。具体的にはアルツハイマー病などのメカニズムの解明が期待されています。

金井さんは自衛隊の医師出身。潜水艦乗組員の健康状態も診ています。ニッポン放送のインタビューでは「自分の医者としてのバックグラウンドはサイエンスにあると思っている」と話していました。この実験は金井さんにとってはまさに「うってつけ」のミッションではないかと思います。あわせて、「深海から宇宙へ」というキャッチフレーズの通り、金井さんにとって深海と宇宙の違いは何か? ぜひ聞いてみたいと思います。
年越しは宇宙で過ごす金井さん、地上では婚約を交わしたフィアンセも見守っています。

ソユーズ打ち上げ 瞬間

ソユーズ打ち上げの瞬間(NASAテレビより)

また、12月23日には鹿児島県・種子島宇宙センターから「しきさい」と「つばめ」、2つの人工衛星を載せたH2Aロケット37号機が打ち上げられました。衛星はともに予定の軌道に投入され、成功しています。

「しきさい」は地球温暖化の予測をする上で誤差の原因となっている雲や大気中のちりを観測します。これにより予測の精度が高まるということです。一方、「つばめ」は試験衛星。これまでにほとんど例がない高度200~300キロの低い軌道で衛星を安定運用できるかどうかを調べるというものです。当然のことですが、高度が低いほど、地球に近く、地球の様子がよりはっきりつかむことができるというわけです。いずれも今後の生活につながる重要な衛星と言えます。

つばめ 分離 衛生 JAXA

「つばめ」分離(提供:三菱重工/JAXA)

一方、今回特に注目したのは、H2Aロケットに新たな工夫が加えられたことです。それは、いま述べた2つの衛星を高度の異なる軌道に投入するというもの…いわゆる「衛星の相乗り」です。しかもお互い違う所に行きたい衛星を1つのロケットで届けるという…キャラメルではありませんが「一粒で二度おいしい」技術ということになります。

この相乗り機会実現のために、最初の衛星「しきさい」を分離した後に、第二段ロケットの向きを変え、さらにエンジンを2回噴射しました。また、飛行の際に太陽の光で機体が熱くなり過ぎないよう、タンクを白くコーティングしたり、目標の軌道がずれないようにソフトウェアを改良するなど、数多の対策が施されました。

この「相乗り機会」が定着すれば、上記対策による費用はかかるものの、単純に言えばこれまで2機のロケットで打ち上げていたものが、今後、1機で済むということになります。つまり、打ち上げ費用がこれまでの半分近くまで抑えられることが期待されるということです。

H-IIAロケット37号機 打ち上げ

H-IIAロケット37号機 打ち上げ(提供:三菱重工/JAXA)

今回のH2Aロケットの成功で打ち上げ回数は年間最多の6回となりました。しかし、回数増加による準備期間の短縮で、行程の変更を余儀なくされるなど、当初はかなり厳しい見通しがうかがえました。三菱重工業の二村幸基執行役員フェローも厳しさを認めた上で、「6機打ち上げを示すことができたことに非常に安どしている」と述べました。8月にみちびき3号機を載せた35号機でヘリウムタンクの不具合が見つかり、打ち上げが延期されたのは記憶に新しいところですが、これについても「リスクマネジメントを実例として実感できた」と、今回の打ち上げ成功の糧となったという認識を示していました。

以前もお伝えしましたが、世界に目を転じますと、宇宙ビジネスをめぐる競争は激しくなる一方です。野口聡一宇宙飛行士がインタビューで「宇宙利用がちょっと前まで“金食い虫”だと、“ISSは金食い虫だ”と言われていたのが、いま特にアメリカでは“金のなる木”になってきている」と話していたことを思い出します。そうした中で、年間打ち上げ回数更新と衛星相乗り機会の技術は、今後の宇宙ビジネスにおいて有力なアイテムになる可能性があり、朗報と感じます。

国際宇宙ステーション交信 金井

国際宇宙ステーション到着直後の交信イベント(一段目右端が金井さん NASAテレビより)

残念だったのは、今回打ち上げ成功後の記者会見に大臣・副大臣・政務官クラスのいわゆる「政治家のセンセー方」が出席していなかったこと、年末のさぞかしお忙しい時期ということかもしれませんが、成長戦略と言いながら、センセー方の宇宙ビジネスへの関心はどれほどなのか、このあたりは相変わらず心もとなく感じた次第です。

金井宇宙飛行士宇宙長期滞在、H2Aロケット打ち上げのほか、来年1月17日には高性能小型レーダー衛星、ASNARO-2を載せたイプシロンロケットの打ち上げなどが予定されています。年末年始にかけて宇宙開発の分野は目の離せない状況が続きます。

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