子猫100匹の新しい家族を見つけた、猫ボランティアの10年間

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【ペットと一緒に vol.64】

子猫100匹の新しい家族を見つけた、猫ボランティアの10年間

およそ10年前の野良猫&地域猫のTNR活動から始まり、今は主に子猫のミルクボランティア活動や、愛猫との「人と動物のふれあい活動」をされている墨田由梨さん。今回は、以前この連載でご紹介した美香さんの愛猫の育ての親でもある墨田さんの、猫まみれの生活に迫ってみたいと思います。


自宅で預かった子猫の譲渡率100%

墨田さんは、実は実家ではずっと犬と暮らしてきたという犬派だったそうです。

猫と暮らすようになったきっかけは、里親募集の張り紙を偶然見つけたことに加えて、夫婦共働きの多忙な毎日でも「お散歩が不要な猫ならば、飼えるはず」と思ったことだとか。

「およそ20年前にその猫に出会う前、夫の転勤先のアメリカで、アニマルシェルターでボランティアをしていたんです。それまでは、犬や猫はペットショップで購入するものと思っていたのですが、『世の中にはこんなにも、行き場のない犬や猫がいるんだ……』と、アメリカでの経験で知り、犬や猫と暮らすならばシェルターなどから引き取ろうと思っていました。そうしたら、帰国後に張り紙を見つけたんですよ」と、墨田さんは振り返ります。

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まだ自分で排泄ができない子猫のお世話をする墨田さん

その後、愛猫と一緒のイギリス生活を経て、帰国後に墨田さんは本格的に猫の保護活動を始めるようになりました。

最初は、野良猫や地域猫を捕獲(Trap)し、不妊・去勢手術(Neuter)をしたのち、元いた場所に戻す(Return)ことで一代限りの地域猫にする「TNR活動」を、東京都動物愛護推進員として主に行っていたそうです。

「生まれて間もない子猫を保護するケースも、少なくありません。また、臨月の猫を捕獲することも。臨月の猫は避妊手術を延期して出産させる場合もありますが、母猫が育児をできない場合、人工哺乳で育てることもあります。そうすると、ミルクボランティアが必要になり、私の出番になったわけです(笑)」。そう語る墨田さんは、東京都杉並区の自宅リビングで保護できる範囲で、子猫や里親募集中の猫の一時預かりをして里親を探しています。

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新しく預かることになった子猫のにおいを嗅ぐ、墨田さんの愛猫

この10年間に墨田さんの元から旅立った猫は、100頭ほど。7~8割は、ご自身のFacebookページの投稿記事からご縁がつながって新しい家族が見つかるそうです。残りの3割ほどは、お付き合いのある愛護団体の譲渡会に参加して里親を募るそうです。SNSと譲渡会を合わせた、譲渡先の決定率はなんと100%とのこと。

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ミルクをゴクゴク♪ 頼もしい飲みっぷりです


個性派ぞろいの墨田家の3匹の愛猫たち

これまでの譲渡率100%のうちの3%は、実は墨田家へ。「猫エイズウイルスが陽性だった子や、病気がちだった子、苦労して育てた子、怖がりな子など、ちょっと問題があった猫は、我が家の愛猫になりました」と、墨田さん。現在は3匹の愛猫と暮らしています。

7歳の純一くんは、怖がりで「シャー、シャー」とすぐに怒る子猫だったとか。

「友人が、顔が石田純一さんに似てると言うので、この名前になりました(笑)。確かに怒りっぽいのですが、ミルクボランティアとして預かっている子猫の教育係には最適なんですよ。どういう行動をとったら怒られるのかを、子猫たちに教えてくれています」とのこと。

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頼もしいお兄さん猫になった純一くん

5歳のリリちゃんは、母猫の胎盤とへその緒がついた状態で、母猫と同時に保護した6匹の子猫のうちの1匹。「生まれてすぐにひどい風邪にかかってしまい、目が潰れそうになるほど具合が悪くなり、兄弟のうち1匹は命を落としてしまいましたが、リリはなんとか生き延びてくれて。子猫の面倒見がとっても良く、一緒に遊んだり、グルーミングをしてくれたりするんですよ」(墨田さん)。

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子猫のお世話がじょうずなリリちゃん

3歳のニケくんは、「きょうだいもいなくて、1匹だけで保護した子猫でした。なんだか変わった性格だなーって思いましたね。何に対してもまったく物怖じしないし、驚異的に人懐っこくて」と、墨田さんは語ります。

そんなニケくんは、日本動物病院協会(JAHA)のCAPP(人と動物のふれあい活動)のセラピー・キャットとして、墨田さんとボランティアで訪問活動に参加しているのだそうです。「ゴロゴロと喉を鳴らしながらみなさんに擦り寄るニケと、そんなニケとうれしそうに触れ合ってくださる方々の姿を見ていると、私も幸せを感じます」(墨田さん)。

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CAPPのボランティア猫として子どもたちと触れ合うニケくん


なくならない子猫の殺処分問題を前に

近年、殺処分をゼロにする取り組みが自治体参加でも行われるようになってきたりと、盛んになってきました。ところが、子猫の殺処分はいまだなくなってはいません。墨田さんのところにも、特に2017年は北関東の動物愛護センターから引き出された子猫たちが続々とやってきたそうです。墨田さんだけでは面倒を見きれず、以前の記事でご紹介した獣医師の箱崎加奈子さんなどにもミルクボランティアとして手伝ってもらったのだとか。

「自治体の譲渡会などで新しい家族を募集する犬や猫は、離乳が済んでいます。授乳が必要で手が掛かる子猫は、自治体によっては収容して即日殺処分になることもあるんですよ。実際に、愛護センターに収容されて殺処分になる動物の7割が幼猫だと言われています」。そう語る墨田さんは、殺処分になる子猫を増やさないために、まずは猫の放し飼いは控えて、飼い猫には避妊・去勢手術を徹底させることが大切だと考えているそうです。

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新しい家族になった子どもたちともすぐ仲良しに!

ミルクボランティアを続けてきた墨田さんは、実はあることに気がついたと言います。

「それは、人から授乳されて育てられた猫は、もれなく人が好きになるということなんです。つまり、人懐っこくて、とても飼いやすくなるんですよ。動物行動学者の研究によると、生後2~6週齢の“子猫の社会化期”に人と触れ合ったかどうかで、その後の人との関わり方が大きく左右されると報告されています」と、墨田さんは教えてくださいました。

墨田さんにたっぷり愛情を注がれて旅立った子猫たちの近況写真は、お子さんと楽しそうに遊んでいたり、ご家族のベッドで一緒に眠っていたり……。「いつも人のそばにいて、一緒になにかしている猫たちばかりなんです。そんな写真を見ると、夜中でも3~4時間おきに授乳をしたり、下痢をしたり体調を崩すたびに病院に駆けつけた苦労もすっ飛んで、うれしい気持ちでいっぱいになりますね」と、墨田さんは顔をほころばせます。

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自宅ダイニングで子猫に授乳する墨田さん

連載情報

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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。

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