米沢駅「牛肉どまん中(カレー)」(1,250円)~駅弁屋さんの厨房ですよ!(vol.6新杵屋編⑤)

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【ライター望月の駅弁膝栗毛】

E3系「つばさ」

E3系「つばさ」、奥羽本線・板谷~峠間

中央分水嶺・奥羽山脈にある「板谷峠」。
福島側に降った雨は阿武隈川から太平洋へ流れ、山形側の雨は最上川から日本海に注ぎます。
そんな険しい板谷峠を越え、軽やかに下ってきたのは、E3系・山形新幹線「つばさ」号。
かつて峠越えの各駅にはスイッチバックがあり、EF71形、ED78形電気機関車による客車列車が運行され、旅情を誘ったもの・・・それも既に四半世紀あまり前のお話です。

舩山栄太郎

新杵屋・舩山栄太郎社長

奥羽本線を客車列車が行き交った時代、実際に米沢駅で、暑い日も寒い日も、昼も真夜中も、ホームに立って駅弁を売った経験を持つのが、「新杵屋」の舩山栄太郎社長(79)。
そんな立ち売りの鋭い観察眼とお客様想いの優しい気持ちから生まれたのが、米沢の名物駅弁「牛肉どまん中」シリーズです。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第6弾・新杵屋編、いよいよ本日、完結です。


●増える「どまん中」シリーズ!

 

牛肉どまん中

牛肉どまん中(カレー)

―「牛肉どまん中」は今年で25周年! 最近はラインナップが増えていますよね?

(舩山百栄専務から)
「どまん中」1本ではお客様も飽きてくると思うのと、「どまん中以外にも・・・」というお客様の声を受けてのラインナップです。
その意味では、「牛肉どまん中」という駅弁を長く愛していただけるようにするための1つの方法だと思っています。
現在は「しお」「みそ」「カレー」に加えて、去年からは「三味どまん中」、あと首都圏向けに肉と海鮮を合わせるなどした「どまん中百選」も作っています。
肉があまり食べることが出来ない人向けの駅弁ですね。

牛肉どまん中

牛肉どまん中(カレー)

―いろんな味が楽しめるのはイイですよね?

車内販売をはじめ、駅弁売場でも各社さんが新しい駅弁を出して、競争が激しいのが現状です。
「しお」や「みそ」など、いろんな味を試していただいて、気に入った味を見つけてくだされば、それでいいし、やっぱり元の「どまん中」がよければ、そちらに戻っていただいてもいいと思います。

牛肉どまん中

牛肉どまん中(カレー)

(望月の解説)
決して辛くなく、子供でも食べやすく仕上がっているのがカレー味。
「牛肉どまん中」のコンセプト、“大人から子供まで楽しめる駅弁”を最も体現しているのが「牛肉どまん中(カレー)」(1,250円)ではないかと思います。
「しょうゆ・しお・みそ」の3つと比べ、若干おかずがアレンジされていて、玉子焼きはそのままに、塩だれきんぴら、しば漬けという構成で、牛肉の上にはグリンピースが載っています。
お子さんの“駅弁デビュー”にもピッタリの駅弁ではないかと思います。


●板谷峠の登り勾配を感じながら「牛肉どまん中」を・・・!

 

牛肉どまん中

「つばさ」でアテンダントさんから手渡された「牛肉どまん中」の温もりがたまらない!

―この「どまん中」ブランドをはじめとした「新杵屋」のこだわりは何ですか?

やはり「地産」ですね。
地産が「駅弁の定義」だと思って作っています。
もちろん肉とお米は、みんな山形産です。
あと、「駅弁」というからには、蒲鉾と玉子は入ってなくちゃと思うんです。
「駅弁らしいもの」を欠かさないようにしなくちゃという思いで作っています。

(舩山百栄専務から)
「載せ弁」でありながら、ちゃんと里芋の煮物や玉子、蒲鉾といった幕の内的なおかずを入れているのは、「牛肉どまん中」くらいではないかと思います。
載せ弁だと、たいてい漬物が入っているくらいのことが多いですよね。

―新杵屋お薦めの「駅弁が食べたくなる車窓」は?

(舩山百栄専務から)
「つばさ」で米沢を出て、関根に向かって山に登っていく途中の旅情がなんとも言えません。
特に米沢で積み込まれた「牛肉どまん中」が、車内の皆さんにいきわたる頃です。
お弁当の温もりを感じながら登り勾配を感じて、板谷峠に分け入っていく感じがとてもいいですよ。
これから冬場は、米沢から乗っていくと、段々雪が増えて、峠を過ぎると、雪が少なくなっていく・・・そんな車窓も楽しめますね。
もちろん、福島で「やまびこ」に連結されてから、落ち着いていただいてもいいんですけど。
あと、山形方面へ蔵王の山並みと田園風景を眺めながらいただく駅弁もいいですね。

新杵屋

新杵屋の厨房から見える米沢駅舎

―今後についてはいかがでしょうか?

やっぱり、お客様との対話の蓄積が、アイディアに繋がると思います。
今年は牛肉弁当60年、会社として50年、どまん中25年と節目の年。
今後も「どまん中」をはじめとした牛肉駅弁のこだわった作り方を変えていくつもりはありません。
速く走る列車もいいですが、停まる列車にもそれなりの楽しみ方があると思います。
途中で停まる駅には違った空気感があったり、違う土地の言葉が聞こえてきたりします。
いろんな方法で、1人でも多くの方が、駅弁のある旅を楽しんでいただけたらと思います。

(舩山栄太郎社長、舩山百栄専務インタビュー、終わり)

E3系「つばさ」

E3系「つばさ」、奥羽本線・赤岩~板谷間

今回、「新杵屋」の厨房を見て「なるほど!」と思ったのは、厨房から米沢駅舎が見えること。
東京からの「つばさ」が着いて、駅前がお客さんでいっぱいになる様子もよく分かります。
つまり「牛肉どまん中」は、常に米沢駅を利用するお客さんの顔を見て作られているんです。
たくさん作られる人気駅弁でありながら全て手作業で、お客さん1人1人の顔を見て(思い浮かべて)丁寧に・・・。
実はこれこそ、「牛肉どまん中」の美味しさの秘訣なのかもしれません。
米沢駅、あるいは「つばさ」の車内販売で手にした「牛肉どまん中」の温もりには、出来たての温かさ以上に、作り手の皆さんの温かい思いが詰まっているのです。

連載情報

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/

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