人の命も脅かすマダニの恐怖!ペットについていても取らないで!【ペットと一緒に vol.26】

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ノミに寄生された筆者の体験談もご紹介しましたが、今回はマダニについてお伝えします。筆者への寄生体験はゼロですが、寄生された犬を見た経験は少なくありません。
実は愛犬の体表にいるマダニを見つけても、飼い主さんが取るのはNG! その理由や、命に関わるような「人と動物の共通感染症」を媒介するマダニについて、ぜひ知っておいてください。
なお、マダニとダニは全く異なる種類です。

耳にタコ!?いやいや、マダニ!

筆者が東京都中央区で経営している「犬の幼稚園」では、犬たちは登園するとすぐにトレーニングの一環としても「健康チェック」を受けます。
一度、幼稚園生ワンちゃんの耳にタコのようなものがあり、よく見てみると……。吸血して10mmほどの大きさに膨らんだマダニでした!
「え?東京中心部なのにマダニ!?」と、かなり驚いたのを覚えています。

もし、犬や猫についているマダニを見つけても、引っ張って取ったりしてはいけません。無理に引き離そうとすると、ペットの体内に口器だけが残って炎症を起こす可能性があるからです。
マダニは十分に血液を吸うと自然にポロリと落ちることがありますが、まずは飼い主さんに電話連絡を入れて、可能であれば動物病院に急行するようにおすすめしました。
その後、動物病院ですぐに処置ができたようで、駆虫薬をスプレーすることで、マダニが自ら愛犬の皮膚から離れたそうです。

耳や目や鼻のまわり、背中、足先などはマダニが好んで寄生する部位。散歩後はぜひ寄生していないかチェックを

耳や目や鼻のまわり、背中、足先などはマダニが好んで寄生する部位。散歩後はぜひ寄生していないかチェックを

「いやぁ~、都心在住なので油断していました。フィラリアの予防薬は毎月飲ませていますが、マダニ&ノミの駆虫薬はトリミングとどう兼ね合いを取ろうか調べようと思っているうちにタイミングを逃して、予定よりも2週間ほど遅くなっていたんですよ」と、飼い主さん。
ちなみに、スポットオンタイプの駆虫薬の投与後、およそ24時間で全身に拡散する成分は、シャンプーをしてもほとんど影響を受けることはないそうです。なので、投与後3日目以降ならばシャンプーをしても問題ないと言われています。

マダニが媒介する恐ろしい伝染病

マダニが原因の感染症は多数存在します。
マダニは、草木の葉先などに潜み、寄生できる人間や動物がやってくるのを待ち構えています。山林のほうがマダニの数は多いことが推測されますが、都会の公園や川原の草むらにもいるので要注意!
日本には10種類以上のマダニが、沖縄から北海道まで生息しているのだとか。

山林や草むらがマダニの生息域。飼い主さんも薄着は危険かも……

山林や草むらがマダニの生息域。飼い主さんも薄着は危険かも……

犬や猫に寄生したマダニは、口器を体内に差し込んで吸血しますが、それによって痒いという症状が現れることはありません。
けれども、貧血、アレルギー性皮膚炎、ダニ麻痺などの病害が生じる可能性があるほか、犬では重度の場合は死亡する危険性のある「バベシア症」や、人にも共通の「ライム病」の病原体を媒介するので注意が必要なのです。

●犬バベシア症
マダニを媒介して犬の体内に入ったバベシアと呼ばれる原虫が、赤血球の中で増殖。貧血や赤い尿が主な症状で、重症化すると嘔吐や下痢や発熱を起こして死亡する危険性もあります。

●ライム病
マダニが媒介するスピロヘータという細菌による、人と動物の共通感染症。
免疫力の弱い子犬やシニアドッグが罹患した場合、数日から数年の潜伏期間を経て、発熱、元気消失、食欲不振、神経症状などが現われます。
人に感染した場合は、神経過敏や歩行異常などの神経症状、多発性関節炎、皮膚症状などが見られます。

●猫ヘモバルトネラ症
猫にヘルバルトネラ フェリスという菌が、マダニやノミを媒介して感染して発症します。貧血、元気消失、体重減少などが見られ、免疫力が落ちると症状が悪化します。

これらの感染症にペットをかからせないためにも、動物病院で処方されるチュアブルタイプやスポットオンタイプのマダニ&ノミの駆虫薬を定期的に投与して寄生を予防したいものです。
マダニの寄生自体は駆虫薬では防ぐことはできないのですが、薬剤の成分がペットの体にあれば、24~48時間以内にマダニは死ぬため、感染症に罹患するリスクも低くなります。

愛犬や愛猫に合ったマダニ対策をかかりつけの獣医さんと相談して、定期的に行いましょう

愛犬や愛猫に合ったマダニ対策をかかりつけの獣医さんと相談して、定期的に行いましょう

飼い主はSFTSや日本紅斑熱にも要注意!

人では死亡例のある、「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」や「日本紅斑熱」も、マダニによって媒介される感染症です。

SFTSは、2017年3月29日現在までに、日本で230例の感染報告があり、そのうち53例が死亡しています(国立感染症研究所による報告)。今のところ西日本以南の感染例が多数を占めますが、SFTSウイルスを保菌するマダニの生息は多くの都道府県で確認されているため、全国的に注意が必要だと言われています。
SRTSの人から人への感染は確認されていますが、犬での発症は現在のところ認められていません。

6日~2週間ほどの潜伏期間を経てSRTSを発症すると、発熱、消化器症状、頭痛、神経症状、筋肉痛、意識障害、リンパ節の腫れ、皮下出血などが出現。致死率は約7~30%にのぼります。

日本紅斑熱は、細菌の一種であるリケッチアの感染によって引き起こされる感染症です。リケッチアを保有したマダニに咬まれると、2~8日ほどの潜伏期間ののち、頭痛、全身倦怠感、高熱などをともなって発症。紅色の発疹が手首や足首から体に向かって広がるのも特徴です。

SFTSは今のところ対症療法しか施せませんが、日本紅斑熱は抗菌剤による治療が可能です。けれども、発見と治療が遅れると重症化して死亡する危険性もあります。

マダニによる感染症を、飼い主さんもペットも予防するには、春から秋にかけてのマダニが活発化する時期には、なるべく散歩などで草むらに立ち入らないのがポイント!
さらに、草木の多い場所では飼い主さんは肌を露出しないようにしましょう。マダニに効果のある虫除けスプレーも活用すれば安心です。
愛犬とハイキングなどのレジャーに出かけるならば、昆虫の付着しにくい洋服を着せるといった工夫も有効と言えます。

熱中症対策にもなるクールタイプの洋服を、外出時はマダニなどの寄生を予防するために着用させるのもおすすめ

熱中症対策にもなるクールタイプの洋服を、外出時はマダニなどの寄生を予防するために着用させるのもおすすめ

春から秋にかけては、マダニやノミの寄生の予防と駆虫対策を万全にしておかねば!と、あらためて筆者も実感しています。

連載情報

ペットと一緒に

ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!

著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。

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