自己を捨てるということ【瀬戸内寂聴「今日を生きるための言葉」】第168回

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自己をわすれるとは、自己を捨てること、つまり我執(がしゅう)を捨てるということです。
宇宙の真理はそのときにこそ、はじめて自己に語りかけてきます。
道元(どうげん)はそうなったときのことを、
「あきらかにしりぬ。心とは山河大地なり、日月星辰(にちがつしょうしん)なり」
といいきっています。
大自然の雄大さ、美しさが心を満たし、自分という卑小な存在が、山河大地と一体となり、自若(じじゃく)として動じない大安心が得られるように思えます。満天をめぐる日月星辰が光り輝きながら、自分の小さな体内になだれこんで、自分自身が日月星辰になり、はてしない大宇宙を遊泳しているような、晴朗で爽快な気宇に満たされてきます。何という壮大な、そして荘厳なことばでしょう。
捨てはてた後に、心ははじめて宇宙と一体となり、自己の生命が宇宙の生命にひびきあうのです。絶対の心の自由、とはこのことです。

瀬戸内寂聴

撮影:斉藤ユーリ


出典:『生きる言葉 あなたへ』光文社文庫

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