この一曲が時代を変えた「心の旅/チューリップ」【GO!GO!ドーナツ盤ハンター】

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昨今のアナログ盤ブームで、改めて注目されているのが歌謡曲のレコード(ドーナツ盤)。
デジタル音源より音に厚みがあり、またCDでは味わえないジャケットの大きさも魅力の一つ。
あえて「当時の盤で聴きたい」と中古盤店を巡りレコードを集めている平成世代も増えているようです。

いま、私が構成を担当しているニッポン放送『八木亜希子 LOVE & MELODY』(毎週土曜朝8時半〜生放送)では『この歌詞の、ココが神ってる!』というコーナーがありますが、好評につき12/17(土)の放送ではスペシャル企画をお送りしました。歌詞を書いたアーティストからも直接コメントをいただきましたが、感激したのは、財津和夫さんがチューリップの名曲の歌詞について、創作秘話を直接語ってくれたことです。ヨソではあまり語っていない貴重な話がたくさん聞けましたので、17(土)に放送できなかった分も後日放送する予定ですが、今回は結成45周年、チューリップの持っておきたいシングルをご紹介しましょう。

【ビギナー向け】・・・『心の旅』(1973)

心の旅

チューリップのメジャーデビュー第3弾にして、初のヒット曲。イントロ抜きでいきなり歌から始まり、いきなり「君を抱いていたい」という、当時としては斬新な出だしは「ビートルズの影響です。最初の『あー』は、歌詞が一音足らなかったからで、英語だと一音で『you』とか言えますけど、日本語は一文字しか歌えないですから」(財津)
デビュー曲も2曲目も売れず「これでダメなら福岡に帰るつもりでした」(財津)と、悲壮な覚悟で曲作りに取り組んだそうで、そこで思い浮かべたのが上京前のこと。「当時憧れていた女性に、上京前、一晩だけ一緒にいてほしいと思いを伝えたことがありまして…一晩は付き合ってくれませんでしたが(笑)、話だけは聞いてくれて、そんな思い出を膨らませて書きました」(財津)。
また東芝EMI社内にも、彼らに何とかヒット曲を、という空気があったそうです。スタッフからのアイデアも柔軟に採り入れ、さらにディレクターの発案で、ボーカルも姫野達也に交代。彼の甘い声がこの歌詞には絶妙にマッチし、じわじわとセールスが伸びていった『心の旅』は、発売から5ヵ月後、ついにオリコン1位を獲得。みんなの熱意が実り、チューリップは一躍、時代を代表するビッグアーティストとなったのです。
なお本曲は200円前後で入手可能ですが、個人的にはケラ率いる有頂天のパンキッシュなカヴァー盤『心の旅』(1985)もぜひ押さえてほしいところです。こちらは1,000円前後。

【上級者向け】・・・『青春の影』(1974)

青春の影

『心の旅』のあと、『夏色のおもいで』(松本隆作詞)、そして『銀の指環』といずれも姫野ボーカルでヒットが続いたチューリップ。ただ、売れたはいいがアイドル的な存在にもなってしまい、リーダー財津和夫は、自分たちが本来目指していた路線に戻そうと葛藤します。その結果生まれたのがこの曲で、ボーカルも再び財津に戻っています。
曲はビートルズの『ロング・アンド・ワインディング・ロード』を彷彿とさせるピアノバラードで、プロコル・ハルム風でもありますが、よく議論になるのは「これは愛が実る歌なのか?それとも、最後は別れてしまう歌なのか?」。
最後「今日からただの女と、ただの男」に戻る歌詞をどう捉えるかによって解釈が変わってくるのですが、「自分の大きな夢を追うことより、目の前の女性を愛し、幸せにしていきたい」という人生観、本作の意図はここに集約されていると思います。その疑問についても、ご本人にしっかり答えて頂きましたので、24(土)以降の『八木亜希子 LOVE & MELODY』をお聴きください。(勿体付けてすみません。)
この曲でアーティスト路線に舵を切ったチューリップ。人気絶頂期に内省的な曲を出すことは、東芝EMI内でも議論があったそうですが、バンドにとっても、アーティスト・財津和夫にとっても転機となる一枚になりました。
こちらは値段が若干高く、500円前後。状態がいいと1,000円近くを付ける店舗もありますが、ぜひ良好な盤質で聴いてほしい永遠の名曲です。

【その他、押さえておきたい一枚】

『魔法の黄色い靴』(1972)

魔法の黄色い靴

メジャーデビュー曲。新人バンドとしては異例の長時間をかけレコーディングしたが福岡でしか売れず。現在は高額レア盤に。

『サボテンの花』(1975)

サボテンの花

これも財津の体験談をベースにして作詞。発売18年後の1993年にドラマ『ひとつ屋根の下』の主題歌としてリバイバルヒット。

【チャッピー加藤】1967年生まれ。構成作家。
幼少時に『ブルー・ライト・ヨコハマ』を聴いて以来、歌謡曲にどっぷりハマる。
ドーナツ盤をコツコツ買い集めているうちに、気付けば約5,000枚を収集。
ラジオ番組構成、コラム、DJ等を通じ、昭和歌謡の魅力を伝えるべく活動中。

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