中国政府も後ろめたさは持っているか~米下院ウイグル人権法案可決

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ニッポン放送「ザ・フォーカス」(12月4日放送)に作家・ジャーナリストの河合雅司が出演。米下院でのウイグル人権法案の可決について解説した。

収容者はウイグル人の1割に及ぶ100万人以上とも

中国政府によるウイグル自治区での弾圧をめぐり、アメリカ議会下院はトランプ政権に強硬な対応を求めるウイグル人権法案を、407対1の圧倒的賛成多数で可決した。ウイグル族への弾圧が続くならば、中国政府高官の制裁指定や禁輸措置を要求するという内容になっている。

森田耕次解説委員)ウイグル人権法案は、中国当局が2014年以来、テロ対策を名目に新疆ウイグル自治区でウイグル族への弾圧を強化したと指摘しています。再教育施設に多数を収容し、信教の自由を否定、拷問などを実施していると、法案のなかで強調しました。その上でトランプ大統領に対し、中国政府に収容施設の即時閉鎖を求めるよう要求しています。ウイグル人権法が成立してから120日以内に、ウイグル自治区トップの陳全国共産党委員会書記ら、弾圧に関わった当局者のリストを議会に提出し、制裁を科すように求めています。今後、上院での可決とトランプ大統領の署名で成立するという形になります。11月に成立した「香港人権・民主主義法」に続いて、米中関係の新たな火種になりそうなものです。

河合)米中貿易協議の行方にも、かなり影響して来るのでしょうね。香港人権法もそうだったのですが、アメリカ議会は中国に対して、いろいろなプレッシャーを与えています。裏を返せば、それだけ中国に脅威を感じているのだろうと思います。いまトランプ大統領は弾劾裁判を抱えていて、米議会との対立を避けたいという思いも強いでしょうから、香港人権法のときには直ちに署名をしました。今回も署名の方向に行くのではないかと思います。

森田)いまのウイグルの状況は、国際調査報道ジャーナリスト連合の調査で明らかになったところによると、職業教育訓練センターという施設に収容されているウイグル人は、ウイグル人全体の1割に及ぶ、100万人以上という指摘もあります。収容者はウイグル語ではなく中国語を強要されて、共産党の思想を教え込まれたり、拷問や性的暴行を受けたりしていると訴える元収容者もいます。

河合)映像もいろいろな報道機関から出ていますので、ときどき見ています。比較していいのかはわかりませんが、アウシュビッツ(強制収容所)を見ているような印象ですね。入所して出て来ると体重が半分になっていたり、何をされたのかというくらい、人相もすべて変わってしまっています。

お尻に火がつく習近平氏も、ガチンコ勝負の継続は避けたい本音

森田)中国外務省はウイグル人権法について、「新疆問題は人権・民族・宗教問題ではなく、テロや国家の分裂にどう対抗するかという問題だ」としています。ウイグル自治区政府によるテロの取り締まりは、「世界の反テロの取り組みにも貢献している」という主張もしており、その上でアメリカに対する対抗措置もほのめかしているのですね。

河合)これはアメリカだけではなく、世界各国の自由主義の国で、中国を擁護する国はどこにもないと思います。

森田)香港人権・民主主義法のときには、中国は対抗措置としてアメリカの軍艦の香港への寄港を拒否すること、アメリカの非政府組織(NGO)も制裁対象にすることを発表しましたが、あまり新鮮味のある対抗措置ではありませんでした。この辺は中国も、アメリカとの貿易協議を睨んでということなのでしょうか。

河合)中国はかなり経済に陰りが見えていて、本音としてはあまり(米国と)ガチンコ勝負を続けたくないということがあります。この辺りをトランプ大統領も見透かしたように、来年(2020年)11月の大統領選後までに解決すればいいという、長期戦も辞さない姿勢を見せて揺さぶっています。習近平主席もかなりお尻に火がついて来ている状況がうかがえます。

中国政府も後ろめたさは持っているか~米下院ウイグル人権法案可決

27日、米ホワイトハウスで「イスラム国」の指導者バグダディ容疑者について話すトランプ大統領(ロイター=共同)=2019年10月27日 写真提供:共同通信社

米中貿易摩擦も、クリスマス商戦には影響ないか

森田)トランプ大統領の、中国との貿易協議は長期戦との発言を受けて、3日のニューヨーク株式市場の株価は一時、前日比400ドルくらい下がってしまいました。東京株式も、日経平均株価は244円下げて取引を終えているということで、米中貿易摩擦が世界経済に与える影響は長引きそうですね。

河合)日本も消費税増税があって、全体的に景気の動向も注目しなければいけない段階にありますが、世界経済の退潮傾向がみられます。その最大の理由が、米中貿易摩擦です。各国政府が横の連携を取りながらきちんと(経済)対策を取って、この行方を見て行くしかないですね。

森田)トランプ政権は15日に、制裁関税の第4弾の後半という、約17兆4000億円分の関税の発動を予定しています。このタイムリミットを過ぎて、実際に関税をかけるのかどうか。スマートフォンなどが対象だということですが、ここが1つ注目のポイントになって来ますね。

河合)アメリカの消費動向に比較的影響がなかったので、クリスマス商戦がどうなるのかはまだわかりませんが、(トランプ政権は)強気に出ていますよね。

森田)そうですね。ロス商務長官も「小売業者は在庫を積み上げているので、今年(2019年)のクリスマスの妨げにはならない」と言っています。景気もよく失業率も低いし、アメリカは強気です。

河合)どちらにしても大国同士の経済摩擦ですので、面子の問題もあって、なかなか上手いタイミングで引けないところもあるのでしょう。

森田)ただ、これが長引くとアメリカの製造業や、大豆などの農業にも影響して来ますよね。

河合)もちろんです。めぐりめぐって、いずれはアメリカにも影響して来る問題なので、どこかで政治決着をすることにはなるでしょう。

森田)一方で中国も相当厳しくなっているようで、輸出型の製造業への影響は深刻なようですね。

河合)香港の問題もあり、ウイグルの問題もいずれは中国のなかで知る人が増えて来ると、いまの共産党体制そのものが維持できるのかという部分につながる問題だと思います。中国政府もウイグル問題に関しては、後ろめたさを持っていると思いますよ。

森田)ちゃんと持っているのでしょうか? 確かに香港の対抗措置も弱かったですし、今回も一応は報復と言っても、たいしたことはできないのかもしれません。

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