「あおり運転」問題~防止のために必要な仕組みと社会づくり

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ニッポン放送「ザ・フォーカス」(12月3日放送)に中央大学法科大学院教授、弁護士の野村修也が出演。「あおり運転」の問題と対策について解説した。

「あおり運転」問題~防止のために必要な仕組みと社会づくり

東名高速道路下り線の事故で移動される車両=2017年6月、神奈川県大井町 写真提供:共同通信社

東名あおり事故、12月6日二審判決

相次ぐ危険な「あおり運転」が社会問題になっている。2019年は茨城県の常磐道で「あおり運転暴行事件」、9月には愛知県の東名高速で「エアガンあおり運転事件」などが大きな話題を呼んだ。2017年に東名高速道路で夫婦2人が亡くなり2人の娘も怪我を負った事件では、控訴判決が12月6日(金)に下される。

森田耕次解説委員)ここ数年、相次ぐ危険な「あおり運転」が社会問題となっています。2019年は茨城県の常磐道で「あおり運転暴行事件」、9月には愛知県の東名高速であおり運転の末、運転席からエアガンを発射した「エアガンあおり運転事件」といった悪質な事件が発生しています。そんな「あおり運転」の対策として、警察庁が制度改正に向けて動き出しています。

野村)ドライバーのなかには、ちょっと前の人の運転が気に入らなくて頭にきてしまう人たちがたくさんいて、同様の事件は過去にもあったと思うのですが、これだけ社会問題化したのは、今年ですと、車を前に停められて、降りてきた男性に運転手が殴られた映像のせいですよね。さらに、同乗していた女性がその様子を携帯で撮影していたというのも大きなインパクトがありました。それに対して非常に多くの人が疑問に思ったのが、あれだけのことをしたにも関わらず、罰則や道路交通法上の反則が軽過ぎるという問題でした。高速道路に無理に停めさせて、万が一後ろから高速で来た車が追突したら、死亡事故も起こりかねない状況です。「あおり運転」の問題は少し前にも東名高速道路の事件があるのですよね。「あおり運転」によって無理に停車させられて、そこから夫婦が外に出されました。子どもたちも乗っていました。そこへ後ろから大型のトラックが追突して、夫婦お二方がお亡くなりになり、子どもたちも怪我をしたという事件でした。

森田)2017年でしたね。

適切な処罰の法律がない「あおり運転」~「暴行罪」適用例が増加中

野村)この事件でいちばん大きな問題になったのは、危険運転致死傷罪というものが適用できるのかというものです。要件として「運転行為」という言葉がありますから、停車してしまってからでは運転とは言わないのではないかというところが争点になりました。ただ、1審の横浜地裁は危険運転致死傷罪を適用して、懲役18年の判決を出しました。これには多くの方々に納得感があったと思うのですが、法律家の間では、法を拡張して適用しているのではないかという疑問も残されました。というのは、難しい判断だったのです。停まっていても危険運転かという点については、裁判所もそれを否定しました。しかし地方裁判所の裁判官は、停めるまでの間の一連の行為が危険運転だったのだから、それと因果関係のある形で人が亡くなった以上、危険運転致死傷罪を問うべきという判断を示したのです。しかし、この事件はまだ続いていて、控訴審が行われており、高等裁判所の判決が6日に出るのです。そこで横浜地裁が出した判断がそのまま維持されるのか、それとも危険致死傷罪には問えないという判断になるのか、大きな判決が今週行われるということなのです。ただ、一般的には現行の法律では「あおり運転」をきちんと処罰するものがないというのが問題なのです。なんとか厳罰化の方向にするために、1つには暴行罪を適用する例も増えているのです。「暴行罪」というと殴るイメージじゃないですか。

増山さやかアナウンサー)実際に手を出すイメージですね。

野村)「あおり運転」は別に殴っているわけではないですよね。でも、「暴行」って実は接触しなくても「暴行」なのですよ。これは精神的にものすごいプレッシャーをかける状況をつくると、それは「暴行」になる可能性があるのです。ですから、「あおり運転」も「暴行罪」に該当するとしてこれまでは処罰する方向を強めてきたのです。ただ、よく考えてみると適切な処罰する法律がないので、仕方なく暴行罪を使っているという感じがあります。やはり「あおり運転」というものに対して、きちんと処罰できるようにしなければいけません。これは刑事罰の問題なのですが、もう1つ、行政としては免許の取り消しや停止など、免許に関する問題があります。「1回で免許は取り消しにして2度と取れないようにしろ」という声もありますが、厳格化も検討されているのですね。

「あおり運転」を防ぐ自動車の「技術」も必要

野村)もちろん個別の事件には厳しい処罰が必要だと思いますが、大事なことは、「あおり運転」を防いでいく方法についての議論で、これが十分になされていないのです。厳罰化が行われたとしても、あとはドライバーの心構えになってしまいますよね。そこのところを防止する仕組みづくりも必要だと思います。いまは技術力としてさまざまな自動運転の仕組みがありますので、「あおり運転」を行えないようにする仕組みも考えなければいけません。これは技術的には難しい面もありますが、スピードの出し過ぎや危険な割り込みに対してそれを制御するような仕掛け、それが行われた場合には停車して動けなくするなどのものをつくっていく必要があると思います。ドライブレコーダーも、前だけ映すタイプのものでは「あおり運転」を映せない場合があります。後ろから煽られていますから、後ろも映すことができるようなドライブレコーダーを設置することが重要になって来ます。

森田)これも1つの抑止力になってくるということですよね。法律としてはこれからどんどんと厳しくしていく方向にはなります。行政罰としても免許取り消しができるような制度改正にもなっていく方向ではあるということですね。

野村)また、自動車保険のようなものの新たな仕組みづくりも求められていまして、ある損害保険会社では法人向けの自動車保険で高速道路での降車中にあった事故の補償を始めることにしているのです。本来は、自動車保険は車のなかに乗っていて怪我をしたときの話です。引きずり出されて高速道路の上で追突されて怪我をすることは想定していなかったのです。そういった場合にも保険が下りるということなのです。いずれにしても、こういった社会問題が起こった後に、私たちみんなが注意することによって「あおり運転」を起こさせない社会をつくっていくことが重要です。昔、飲酒運転で人が亡くなったときに厳罰化が行われ、いまでは飲酒をして乗ることに対して社会が厳しい目を向けるようになっていますよね。この社会の厳しい目というものも大事で、「あおり運転」が人間として最低の行為だということをみんなが認識して、強い批判を向けることが重要なのかなという気がします。

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