報道部畑中デスクの独り言

任務を終えて……はやぶさ2「復路」がスタート

「報道部畑中デスクの独り言」(第160回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、小惑星リュウグウを離脱した探査機「はやぶさ2」について—

記者会見が行われたJAXA相模原キャンパス(11月12日撮影)

「さようならリュウグウ、ありがとうリュウグウ…」

数々の「快挙」を成し遂げ、11月13日午前10時過ぎ、探査機「はやぶさ2」がついに小惑星「リュウグウ」から離脱しました。神奈川県相模原市のJAXA=宇宙航空研究開発機構の管制室は、やや照れくさそうなプロジェクトメンバーのメッセージに笑いが起き、拍手が沸きました。

今後、数日間は「お別れ観測」と称し、遠ざかるリュウグウの姿を撮影し、イオンエンジンの試験運転の後、本格的な加速を始めるということです。

「(リュウグウ到着から)この1年半、ずっとリュウグウのことを見て来た。最初は美しいと思って、途中に憎たらしいと思い、最後は感謝の念が出て来た。いろんな感情をリュウグウに対して持った。われわれの生活の中心にリュウグウがいた感じ。それを思うと離れていいのかな? 寂しいと思う」

離脱に先立ち行われた記者会見で、津田雄一プロジェクトマネージャ(以下 津田プロマネ)は、このように心境を語りました。「リュウグウロス」になりそうな雰囲気です。

「(到着してからの)1年5ヵ月はあっという間だったが、はるか昔の、過去のようなことに思えるぐらい、いろんなことがあった」(吉川真准教授)

「駅伝のようなものだった。往路は完ぺきにこなして完走できたと思っている」(久保田孝教授)

はやぶさ初号機は“満身創痍”で地球に帰還しました。2号機はその教訓を受け、イオンエンジンなどの改良を行いました。記者会見の通り、いまのところ大きなトラブルはなく、順調に進んでいます。

プロジェクトメンバーの意向で、会見はモニターにリュウグウの姿を映し出す形で行われた

ただ、本当に長旅でした。その長旅については小欄でもたびたびお伝えしていますが、思えば、はやぶさ2が鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられたのは2014年12月。

いまからほぼ5年近く前、直線距離では小惑星リュウグウとの距離は3億キロとも言われていましたが、この間、スイングバイという地球の引力を使った軌道変更を行うなどし、総距離は32億キロに及びました。

軌道変更はいわば「○○線から××線への乗り換え」のようなものですが、目標の軌道に投入するには超精密な制御が必要になります。当時取材したメモには、「東京から富士山の山頂を見て、そこにいるダニを狙うぐらいの精度」と書かれていました。

去年(2018年)6月、はやぶさ2はようやくリュウグウに到着しましたが、よく見ると形は球形ではなくて「そろばんの珠」のような形。表面も「ボルダー」と呼ばれる岩だらけ。こんな凸凹で本当に着陸できるのか…「神様はそんなに優しくないんだな。リュウグウが牙をむいて来た」と、津田プロジェクトマネージャが話していたのを思い出します。

長い検討の末、結局、ターゲットマーカーという目印のボールを落とし、これをうまく使って2回の着陸に成功しました。それでも滞在している20キロの上空から着陸することは、「飛行機が飛ぶ高さの2倍ぐらいの所から、甲子園球場のマウンドに降りるようなもの」と言われました。

会見する津田雄一プロジェクトマネージャ

そして、弾丸を発射し、小惑星の砂粒を採取することに成功。1回目の着陸では地表の粒子を、2回目ではインパクタと呼ばれる衝突装置によって人工のクレーターをつくり、地中の粒子を採取しました。実際に粒子がカプセルに入っているかどうかは地球に帰還しないとわかりませんが、成功しているとみられます。

取材して忘れられなかったのは、1回目の着陸のときのカメラの画像。小惑星の表面から無数の黒い土のようなものが舞い上がった画像は、「人間の技術ってここまでできるんだ」と感じた次第です。

記者会見にもありましたが、これまでが「往路」であるとするならば、これからは「復路」、帰りは1年ほど。太陽の周りを1周近く回り、来年(2020年)末、東京オリンピック・パラリンピックが終わった後に、改めて快挙をたたえることになりそうです。

復路の飛行距離は8億キロ、往路の32億キロの4分の1ですが、これには理由があります。はやぶさ2のエンジンは、急に加速や減速はできません。着陸するには時間をかけて速度を調整する必要があって、どうしても時間がかかる一方、帰りは大きな速度調整が必要ないので、時間は短縮されるというわけです。

とは言え、「うちに帰るまでが旅行」というが如く、砂粒の入ったカプセルを地球に投下するまでは任務が続きます。

11月12日午前10時過ぎ、はやぶさ2の離脱が確認され、拍手がわく管制室(ISAS・JAXA提供)

「地球帰還に関しては、最後は精密誘導が必要。やり直しがきかない。十分計画を練って行く必要がある」(津田プロマネ)

はやぶさ初号機と同じく、今回もオーストラリアのウーメラ砂漠のカプセル帰還を目標としていますが、この的を絞るのがやはり至難の業。また、途中で隕石のようなものにぶつからないとも限りません。何が起こるかわからないわけで、まだまだ気の抜けない日々が続きます。

一方、はやぶさ2はカプセルを地球に投下した後も、別の天体へ「第二の旅」に向かいますが、具体的なことはまだ決まっておらず、検討中ということです。

ハイテクの最先端にいるプロジェクトメンバーですが、やはり人間。任務成功のたびにダルマに目を入れていましたし、“大仕事”の前にはメンバーでカツを食べて、願をかけていたそうです。JAXA相模原キャンパス周辺のカツレツは、ほぼ食べ尽くしたということですが、その機会はまだまだありそうです。(了)

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