あけの語りびと

グッドデザイン賞受賞の車いす「MC‐X」~きっかけはリーマンショックから

タグ

それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

「橋本エンジニアリング」公式ホームページより

2020年東京パラリンピックで実施される競技のうち、テニス・バスケットボール・ラグビー・フェンシングの4つの競技に共通するのが、「車いす」です。車いすに乗って戦う選手たちの激闘は大変な迫力で、観ている者を熱く感動させてくれます。

東京パラリンピックへの出場が大いに期待されている新星、ブリジストンの田中愛美選手。わずか3年足らずで国内ランキング上位につけた彼女には、頼もしい助っ人がいます。それは彼女が契約している、橋本エンジニアリングの車いす「MC‐X」。

グッドデザイン賞受賞の車いす「MC‐X」

超軽量の「MC‐X」は、軽さだけでなく操作性と強度に優れ、相手のボールに対して機敏な反応が可能です。超軽量と言っても、どれくらい軽いのか? 橋本裕司社長にうかがいました。

「そうですね。病院やスーパーに常備されている車いすが、16キロ~18キログラムくらい。うちの『MC‐X』は7.8キログラムですから、半分以下の重さ。オプションでは6.2キログラムまで下がります」

どうしたら、こんな「車いす」ができるのか? その陰には素晴らしいドラマがありました。

「橋本エンジニアリング」公式ホームページより

静岡県浜松市の部品メーカー「橋本エンジニアリング」は、従業員80名。大きな工場ではありませんが、まずホームページを開いて驚かされるのが、ページをぎっしり埋め尽くしている従業員のみなさんの笑顔です。

「うちの会社の企業理念は、日々挑戦! 何のための挑戦かと言いますと、自分の幸せをつかむことへの挑戦なんです。どうしたら幸せになれるかをみんなで考える。名づけて『ワクワク大作戦』と呼んでいます。2ヵ月に1度くらいは、カキ食べ放題ツアーやボウリング大会、お花見、富士宮焼きそば大会など、レクリエーションも欠かしません」

橋本社長はそう話します。ホームページのみなさんの笑顔の答えが、ここからうかがえます。

「橋本エンジニアリング」公式ホームページより

順風満帆のように聴こえる「橋本エンジニアリング」にも、冬の時代があったと言います。それは2008年のリーマンショック。

受注が減り、コストダウンの要請が殺到。売上高が減って、業績は急に悪化して行きました。取引銀行からは「事業再建の見通し」を要求される。橋本社長は当時をこのように振り返ります。

「つらい決断をしなければなりませんでした。100人の従業員のうち、30人をリストラするという苦渋の決断でした。『会社が生き残るために、わかってくれ。必ず呼び戻すから!』と。そして私は、このとき決心したんです。下請け工場を続けている限り、親会社の業績によって、こんなことを繰り返さなければならない。よし、橋本エンジニアリングは100%、自分たちでモノを作るメーカーになる!」

橋本裕司社長、就任1年目の決断でした。

「橋本エンジニアリング」公式ホームページより

リーマンショックのピンチを、知識と戦略をプールするためのチャンスと考えた橋本社長は、さまざまなセミナーや勉強会に出かけたと言います。そのなかで出会ったのが、医療機器の車いすでした。

「障がい者の方たちがもっと乗りたくなる、どこへでも出かけたくなる。そんな車いすを作りたいと思ったんです」

そう振り返る橋本社長は、20代~30代の若手社員のうち、6人を選抜して車いすの開発チームを編成したと言います。メンバーのなかに、かつてケガで車いす生活を経験した人がいて、「坂道を登るとき、逆戻りしてとっても怖かった」という話をしました。

ここから完成したのが、坂道でも逆行しない車いす『もどらん』。医療用機器の世界に足を踏み入れて気づいたのは、軽くて操作性に富んだ車いすが、切実に求められているということでした。

逆進防止ストッパー「もどらん」車椅子

橋本エンジニアリングでは、車体の素材にマグネシウムを採用。実用金属のなかでも軽いマグネシウムは、強度の点でもアルミニウムよりも優れているとされています。しかし成形や溶接が難しいため、車いすの素材としては考えられて来ませんでした。

ここに浜松の工場の技術が結集し、各社の特技を合わせ、7年間のときを経てついに「MC‐X」が完成しました。オードバイのレーシングのデザイナーも参加してできたスタイリッシュな車体は、グッドデザイン賞を獲得しました。

橋本社長は言います。「リーマンショックのあの冬の時代があったからこそ、私たちは生まれ変われたんです。これからも新しい車いすの発展に向かって、努力を惜しみません!」

上柳昌彦 あさぼらけ
FM93AM1242ニッポン放送 月曜 5:00-6:00 火-金 4:30-6:00

朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ

ニッポン放送 ニッポン放送
Copyright Nippon Broadcasting System, Inc. All Rights Reserved.