小池都知事の森会長への私怨でこじれた?~五輪マラソン札幌移転問題

ニッポン放送「ザ・フォーカス」(10月29日放送)に元外務省主任分析官・作家の佐藤優が出演。東京五輪のマラソン・競歩開催地問題について解説した。

【東京2020オリンピック1年前セレモニー】セレモニーに臨む小池百合子都知事、東京2020組織委員会の森喜朗会長、IOCのトーマス・バッハ会長、安倍晋三首相=2019年07月24日 午後、東京都千代田区  写真提供:産経新聞社

東京オリンピックマラソン問題~都民ファーストが札幌移転を疑問視

29日、日本外国特派員協会の会見で、東京都議会の第1会派「都民ファーストの会」は2020年東京オリンピックのマラソンと競歩の札幌移転には反対の立場だが、会見では札幌開催の場合、準備に不安があることなどを説明した。

森田耕次解説委員)都民ファーストの会は29日の記者会見で、札幌に移転した場合コースに施した遮熱性の舗装の費用や、テストイベントの経費で東京都に300数十億円の損失が出ると試算しまして、IOCが札幌への変更を決めた経緯も不透明だとしています。一方で、今回のマラソンと競歩の札幌移転案をめぐっては、東京都議会が28日、IOCと大会組織委員会に対して札幌案を打ち出した経緯の説明や、決定にあたって東京都や競技団体の合意と納得を得るよう求める声明を出しています。IOCと組織委員会に対しても今後声明を提出する予定だということです。声明では「マラソンと競歩を沿道での観戦やボランティアなど、幅広く都民が関わることができる貴重な機会だ」と位置付けた上で、札幌開催になると「経費の負担や宿泊施設の確保、警備などの課題が生じる」と指摘しています。

30日から東京都内でIOCの調整委員会が開かれるのですが、この場でこれまでの東京都の取り組みに基づく十分な意見交換をするよう求めています。東京都に寄せられた賛否に関わる意見417件のうち、およそ9割が札幌への移転に反対する主張だったということです。一方で、22日と23日に行った都民アンケートでは賛成36%、反対32%で拮抗し、およそ8割が「会場変更に関するプロセスが妥当ではない」と回答したようです。一方で橋本聖子五輪担当大臣は、29日の閣議後の記者会見で札幌への移転案について次のように述べています。

橋本聖子五輪担当大臣)あくまでも大枠合意のまま変わってはいないです。東京都、組織委員会、開催都市、開催自治体。そういったところで、どのような負担を配分されていくかというところも調整委員会で話し合われていく内容だと思います。

森田)一方で、既にマラソンの開催地を札幌市に変更する計画をめぐっては、発着点を札幌市中心部の大通公園にする方針で大会組織委員会が検討を進めているということも複数の関係者の話でわかっているのですね。IOCが当初候補に挙げた札幌ドームを発着点にすると、ランナーが通過するには出入り口が狭い、陸上競技のトラックもない、改修工事の必要性が生じるということで、札幌ドームはどうなのか。競歩の場合にも札幌ドーム一帯には起伏があってコースには向かないという指摘もあります。オリンピックのサッカーで札幌ドームを使用した後、会場の借用期間を延長しなければならないということもネックになって、大通公園発着という検討がされているようです。観客席は札幌ドームに比べて狭くなるので、チケットの収入は減るということです。計画自体は札幌の方で進んでいるようですね。

五輪マラソン札幌開催案 急転「政治決着」に反発も 2018年8月の北海道マラソンで札幌市街地を走るランナー=2018年8月26日 写真提供:共同通信社

「敵の前で汚れた下着を洗ってはいけない」

佐藤)ロシアのことわざで、「敵の前で汚れた下着を洗ってはいけない」というものがあるのです。

森田)何ですか、それ。

佐藤)国内の問題は国内で処理して、恥ずかしいことは外国に見せるな、ということなのです。ですから、いろいろなプロセスの問題があるとしても、オリンピック開催まではすぐでしょう。日本のなかでガタガタしていると、イメージが悪くなります。そういう傷口が広がっていくのは、あまりいい話ではありません。ただ、北海道関係の人が喜んでいるのは間違いありません。

森田)来てくれたらいいでしょうし。

佐藤)この発表があったとき、私はちょうど鈴木宗男さんと一緒でした。

森田)日本維新の会所属の参議院議員ですね。

佐藤)聞いたばかりなのですが「初めて聞いたけど、いい話だべ」と言って。「北海道だったらマラソンもやっているし」と。

森田)北海道マラソンは夏にやっていますね。

東京2020大会1年前準備状況報告会が行われた。あいさつするIOCのトーマス・バッハ会長(右)。左は東京2020組織委員会の森喜朗会長=2019年7月24日、東京・丸の内の東京国際フォーラム  写真提供=産経新聞社

蒸し返された8月開催の“そもそも論”

佐藤)だからコースも慣れているし、瞬間の反応として嬉しそうな感じでしたからね。橋本さんに何か仕掛けたのではないかという穿った見方もありますが、北海道の人が北海道で何かやりたいというのはごく自然な感覚ですよね。他方、東京からするとみんな楽しみにしていたわけだから、カチンとくるのは自然な反応だし、どう折り合いをつけるかということは、きちんとやって欲しいです。ただ、外を巻き込んでIOCが勝手に決めちゃったわけでしょう。いまからひっくり返すのですかと。IOCはこう言っていますが、1964年の東京オリンピックは10月ですからね。8月にこの国でやるというそもそも論のところをいまになって蒸し返されてしまったわけです。放映権などオリンピックの商業化の問題は背景にたくさんあります。

森田)カタールのドーハで世界陸上をやったときに、夜中にマラソンをやったのですが、それでも女子のマラソン選手が多数棄権してしまいました。あれを国際陸上競技連盟は見てしまいましたからね。

佐藤)あれは悪夢だと思いますよ。東京のオリンピックで(同様に)出たらどうしようという思考になりますから、札幌開催には合理性があると思います。そもそも8月に決めたときに内包されている問題なのですよね。

森田)そうかもしれません。ツイッターでいただいています。“備前のラジオ小僧”さん「今回の一連の災害や、マラソンと競歩の開催地を札幌にすることで一部には「オリンピックをやめたらどうか」という意見もありますが、もしそうなったらいちばんショックなのはオリンピックを目指して頑張っている選手の皆さんでしょうね」といただいています。オリンピックをやめるのは極論ですが。

佐藤)そういうことをしたら、どういう国だと思われますからね。しかも、戦前の幻のオリンピックがありましたから。

森田)ちょうど大河ドラマ『いだてん』(NHK総合)でやっていましたね。

佐藤)2回も中止したなんて言ったら、世界の歴史に悪い意味で残ります。決めたことはちゃんとやるべきです。国内のことであまりガタガタしないで、腹六分か七分目で収めて早く折り合いをつけて欲しいです。

【小池都知事がIOCのコーツ調整委員長と会談】IOCのジョン・コーツ調整委員長(左)と会談する小池百合子東京都知事=2019年10月25日午後、東京都新宿区の東京都庁 写真提供:産経新聞社

舗装工事などにかかった費用は300億円超

森田)IOCのコーツ調整委員長はこの費用の問題について、組織委員会が使途未定で計上している調整費というのがあって、そこから出したらいいんじゃないか、ということを言っています。9月にマラソングランドチャンピオンシップの開催費用もあったし、遮熱の舗装もして300数十億円を東京都は出しています。賠償請求も考えている、と小池都知事は言っていますが、このお金の問題もあります。

佐藤)しかし、調整費などと言ってお金が簡単に出てくると、怪しげな感じがしませんか。

森田)こういうものがあるのですね。350億円くらいあるらしいですよ。

佐藤)不思議と数字も合いますね。変な感じです。

森田)外務省の機密費みたいな感じがしますね。

佐藤)これもまた掘っていくとオリンピックの招致の問題になってあまり綺麗じゃない話になっていくような気がするので、筋がよくない感じになってきてしまいましたね。

森田)あとはテロ対策ですね。これをどうするか。

佐藤)きちんとやらなければいけません。それから、国民がテロに動じないということも需要です。その気構えを持たなければいけないし、残念ながら1億2000万人もいるとプロフェッショナルにテロを行う人たちに共感する人もいます。難しいのは、内心の思想は自由でしょう。ところが、思想、即行動みたいなISのような組織があります。そういう思想を持っている人が行動する可能性がかなり高いときにどうするかということが人権との兼ね合いで深刻なのですよね。

森田)ましてや、マラソンや競歩は沿道に多くの人が集まるわけですから、この警備の難しさ。ボストンマラソンのときにもテロがありました。

佐藤)これは警察の力にかかってくるわけですが、テロ対策では市民も警察によく協力することが重要になってきます。

森田)北海道警察だけでは当然難しいでしょうから、ここは全警察を挙げてということになってきますね。

佐藤)ですから方向性は早く決めなければいけないし、東京都も文句を言いたいことがあるなら終わってからやるべきです。これを引っ張っていると、国際社会から「どういう国か?」と思われます。

【衆院補選東京10区告示】第一声の挨拶をする若狭勝候補の応援に駆けつけた小池百合子都知事 左は二階俊博自民党幹事長=2016年10月11日午前、東京都豊島区・池袋駅西口前 写真提供:産経新聞社

森会長と小池都知事の意思疎通が問題

森田)30日から調整委員会は始まって、1日までに結論は出るのでしょう。

佐藤)森喜朗さんと小池百合子さんの仲がもっとよければこういうことにはならなかったと思うので、政治家はオリンピックをめぐる問題においては仲良くして欲しいと思います。あの2人が目を合わせて挨拶をするようなちゃんとした関係で、お互い意思疎通をよくしていればこじれることはないので、政治家の個人的な関係が今回は影響していると思いますよ。

森田)小池さんは「北方領土でやればいいじゃない」と言っていましたね。

佐藤)あれでロシア大使館も怒ってしまって、というか怒ったふりで、冗談もいい加減にしなさいという話で「日本はたくさん領土があるけれど、ロシアの南クリルはそうじゃないよ」と大使館がツイートして、それをロシア外務省がリツイートして、外務省声明などのレベルを上げないところで落としているという、ロシアからすれば“貸しイチ”なのです。

森田)本来なら大問題になってもいい発言ですからね。

佐藤)ロシアとしてもオリンピックをうまくまとめたいけれど、ロシアの立場として言わざるを得ないから、我々はロシアとの外交において“借り”をひとつ作ってしまったわけです。しかもそこのところで「安倍総理も森さんも親しいようだから」と言って、これは小池ファンの方には申し訳ないですが率直に言って私怨でしょう。札幌をめぐる問題、手続き上の問題が説得力を失ってしまいます。これは私怨でやっているのではないかと思われてしまいます。しかし、森さん側から小池さんを侮辱するような発言はないでしょう。ここが非対称だと思います。

森田)しかし、あの発言には驚きました。私怨以外の何ものでもないと思いました。

佐藤)しかも、記者たちが取り消すかと聞いても、取り消していないですからね。一案を申し上げただけだと言いましたが、大外交問題になるところだったのです。

森田)話が何も来なかったので、ムッとしてしまったのでしょうね。

佐藤)「私は聞いていない」というのは政治の世界では大変な話です。ただ、それは政治の世界の論理なので、国民の目線にして欲しいです。

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