10時のグッとストーリー

東日本大震災時、地元の人々に商品を分けたハム・ソーセージ店のポリシー

番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】

「マルニハム」2代目・新飯田美樹さん

東京・目黒区に格安の値段で、本格的で美味しいハム・ソーセージを販売する、工場直売のお店があります。口コミで評判が拡がり、ご近所の人たちに愛されているこのお店。なぜそんなに安い値段で販売を続けているのでしょうか?

そこには製造を手掛ける女性職人さんの、熱い思いがありました。

オレンジののぼりが目印

東急東横線・祐天寺駅から歩いて10分ほど、駒沢通り沿いにある、オレンジ色ののぼりが目印の「マルニハム」。1階が工場、階段を上がった2階の小さなスペースが直売所で、冷蔵ケースのなかに手作りのハム、ソーセージ、ベーコンなどがずらりと並んでいます。

本場ドイツの製法を採り入れて、塩とスパイス以外、合成保存料・着色料や化学調味料は一切使っていません。プリッとした食感で、風味も豊かな「ヘルシーソーセージ」「チョリソーソーセージ」は、5本パックで税抜110円。

他の商品も「この値段でいいの?」という価格で、絶品のハムやソーセージが食べられるとあって、近所の人たちはもちろん、評判を聞いてわざわざ遠くから買いに来る人もいます。

本場の製法で作ったソーセージ3種

「うちはもともと、有名レストランに商品を卸していたんです。安全で美味しい、本格的なハム・ソーセージを安くお届けしようと、この値段にこだわって頑張っています」

そう話すのは、マルニハムの2代目・新飯田美樹さん。マルニハムは、1964年に美樹さんのお父さんが創業。初めは普通の「町のお肉屋さん」でしたが、近所にスーパーができて売上げが激減。そこでお父さんは本格的なハム・ソーセージの製造を始め、レストランへの販路を開拓。いまの場所に工場を造り、小売りをやめて卸し専門のメーカーに変えたのです。

そんなお父さんの姿を見て育った、次女の美樹さん。高校生のときは芸能界に憧れて「おニャン子クラブ」のオーディションを受け、テレビに出たこともありましたが、卒業後は銀行勤務などを経て「マルニハム」で働くことに決めました。

ソーセージの製造工程(外側の皮は羊の腸を使用)

「姉が早く結婚したので、跡を継ぐのは私しかいなかったんですが、前から家業を手伝っていましたし、父が築いたものを終わらせたくないという思いはありました」と言う美樹さん。

本場ドイツに渡りソーセージ作りを勉強。余計なものは使わず、上質の肉に塩とスパイスだけで作る手法に感銘を受け、「これに負けないものを自分も作ってみよう」と決心しました。

ソーセージを吊してくん製にする様子

いまマルニハムで出しているソーセージ類の、スパイスの調合、レシピはすべて美樹さんのオリジナル。

「ソーセージは、温度や湿度はもちろん、自分の体調や精神状態も味に影響するんです。気持ちが乱れていると作りが雑になって、いつもの味が保てなくなるんですよ」

80代になった現在も一緒に製造を行っているお父さんとは、作業のやり方や味などを巡って、しょっちゅう親子ゲンカをして来たと言う美樹さん。妥協しない職人気質(かたぎ)は親譲りのようです。

父・二男さん(左)と美樹さん、お姉さん(右)

そんなマルニハムに転機が訪れたのは、2011年。東日本大震災の影響で、取引先のレストランが一時営業を休止。冷蔵庫には、行き場のなくなったハム・ソーセージが大量に残ってしまいました。

「震災の直後、スーパーの食料品が品薄になっていたんです。だったら、近所の人たちに余ってしまったうちの商品を、安くお分けしようと思って……」

2階の販売所(冷蔵ケースで販売)

さっそく工場の2階に直売所を作り、格安の値段でハム・ソーセージの小売りを始めた美樹さん。レストランで出している本格的な商品が安く手に入ると、口コミでお客さんはどんどん増え、レストランへの卸しが再開しても小売りを続けることになりました。

やがて作業量が限界に達し、卸しと小売りの両立が難しくなりましたが、マルニハムが選んだのは「地元のお客さん」でした。

「やっぱり、食べてくれた人の感想が直接聞けるのは、とても励みになりますから」

ご両親と美樹さん

価格は格安のまま、毎日、丹精込めてハム・ソーセージ作りを続けている美樹さん。重労働から椎間板ヘルニアを患ったりもしましたが、味の追求をやめることはありません。

「『美味しかったからまた来たわ』と、何度も来てくださる方もいます。私にしか作れない味を、美味しいと食べてくれる人を、1人でも増やせたら嬉しいですね」

八木亜希子 LOVE&MELODY
FM93AM1242ニッポン放送 土曜 8:00-10:50

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