ドラフト成績1勝10負でも原監督のクジ運が強いと言われるワケ

By -  公開:  更新:

話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、10月17日に行われたプロ野球ドラフト会議と、巨人・原辰徳監督の「選手獲得」にまつわるエピソードを取り上げる。

ドラフト成績1勝10負でも原監督のクジ運が強いと言われるワケ

巨人1位指名の堀田賢慎投手(青森山田)は兜森崇朗監督から祝福されて笑顔をみせた=令和元年10月17日、青森市の青森山田高校 写真提供:産経新聞社

(1位指名・堀田について)「体も智之(=菅野)ぐらいあるんじゃないですか。バランスのよい、素晴らしい投手。近々、ジャイアンツのエースになってくれる素材だと思っています」(原監督)

17日に都内で行われた、プロ野球ドラフト会議。今年(2019年)の注目は、超高校級の2人=「令和の怪物」こと佐々木朗希(大船渡高・投手)と、奪三振ショーで甲子園を沸かせた奥川恭伸(星稜高・投手)の交渉権を、どの球団が獲得するかでした。

佐々木は、日本ハム・ロッテ・楽天・西武の4球団が1位指名で競合。この時点でパ・リーグ行きが確定しましたが、みごと確率4分の1の当たりクジを引き当てたのが、ロッテ・井口監督でした。井口監督は昨年(2018年)のドラフトでも、3球団競合となった藤原恭大(大阪桐蔭高・外野手)の交渉権を引き当てましたが、今年もクジ運の強さを披露。

引きが強いと言えば、昨年は4球団競合の根尾昂(大阪桐蔭高・内野手)、今年も3球団競合の石川昂弥(東邦高・内野手)を引いた中日・与田監督の強運ぶりも際立っていました。

一方、ヤクルト・阪神・巨人の3球団競合となった奥川の抽選では、ヤクルト・高津新監督が3分の1の当たりクジを自力で引き当て、交渉権を獲得。采配を振るう前に、いきなり“大仕事”をやってのけました。

高津監督は、初のドラフトを総括して「満点以上じゃないかな」とコメントしましたが、2位で吉田大喜(日体大)、3位で杉山晃基(創価大)を指名。この大学生2人も評価の高い即戦力投手で、先発不足に泣いたヤクルトにとっては、実り多きドラフトになりました。

逆に、奥川を外した巨人・原監督は、代わりに1位指名した宮川哲(東芝・投手)も西武と競合となり、その抽選も外して“2連敗”。「外れ外れ1位」として指名したのが、堀田賢慎(青森山田高・投手)です。

堀田は、185センチの長身から投げ下ろす本格派右腕で、最速150キロ台の真っ直ぐが魅力。甲子園経験がないためあまり注目されていませんでしたが、将来大化けするかもと、巨人がひそかにリストアップしていた好投手です。

「うちは若い右投手が多い。左という選択肢もあったが、(そんなチーム事情を)はるかに超えてしまう将来性がある。彼の伸びしろは大きい」

と堀田を絶賛した原監督。エース・菅野をはじめ、今季勝ち頭の山口、桜井ら、現在の先発陣は右中心にもかかわらず、なぜまた右投手を獲るのだ? という声もありましたが、チーム編成の全権も握っている指揮官は、敢えて堀田の将来性に賭けたのです。

3位以降も高校生を4人指名。その成否は数年後になってみないとわかりませんが、ともかく一貫性のあるドラフトだったと言えるでしょう。

ところで、今回のドラフトを終えて「原監督1勝10敗」というワードが話題になりました。原監督は、初就任直後の2001年、4球団競合の寺原隼人(日南学園高・投手、今季ヤクルトで引退)を外して以来、11回抽選に参加して、当たりクジを引いたのはわずか1回。

2008年の大田泰示(東海大相模高・当時は内野手、現日本ハム)だけで、あとはすべて外しているのです。昨年も根尾昂(現中日)の抽選に敗れ、外れ1位抽選でも辰己涼介(立命館大・外野手、現楽天)を逃しており、「2年連続2度外し」となりました。

ただしこの「クジ運の悪さ」は、見方を変えると、指名が重複するような逸材を、原監督(および編成担当者)が敢えて獲りに行っている証拠でもあります。少し前まで、巨人のドラフト方針はともすれば消極的と言われ、確実に獲れる即戦力候補を重視していましたが、復帰した原監督は、クジを外すリスクを厭わずに「いちばん欲しい選手」を獲りに行く方針に転換しました。

外した場合の批判は自分が甘んじて受ける。その代わり、外してもしっかりリカバリーできる代わりの選手を見つけておく……その覚悟がないとできない決断です。

2006年、阪神・中日と3球団で競合した堂上直倫(愛工大名電・内野手、現中日)を外し、代わりに指名したのが、坂本勇人(光星学院高、内野手)。

2013年、ロッテと競合した石川歩(東京ガス・投手)の「外れ1位」が、小林誠司(日本生命・捕手)。そして2018年、根尾・辰己を連続で外して指名した「外れ外れ1位」が、ルーキーながらローテに入り5勝を挙げた高橋優貴(八戸学院大・投手)。全員、19日から始まる日本シリーズに欠かせない主力に成長しているのはご存じの通りです。

今季、自身初の40本塁打を放ち、5年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献した坂本ですが、そう、彼も「外れ1位」だったのです。これだけの逸材が巨人に入ったのは、原監督の「クジ運の悪さ」があってこそ。もちろん、坂本をリストアップしていた目利きのスカウト陣、彼を育てたコーチ陣のお陰でもありますが。

今年の「外れ外れ1位」・堀田も、数年後「クジを外してよかった」と言われるエースに成長しているかもしれません。獲った選手をどう育てるか、そこまで見ないと、ドラフトの成否は語れないのです。

Page top