老犬の介護士になる! 専業主婦の人生を変えた1頭の愛犬と歩んだ14年半

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【ペットと一緒に vol.166】by 臼井京音

老犬の介護士になる! 専業主婦の人生を変えた1頭の愛犬と歩んだ14年半

娘の一目ぼれで迎えた1頭のライチ色のポメラニアンが、専業主婦だった平端弘美さんの人生を変えました。今回は、老犬介護士としての活動を数年前から始めた、平端さんのストーリーを紹介します。

 

娘の希望で迎えた愛犬が人生の転機に

平端さんは、現在14歳の愛犬ライチくんを迎えたことが人生の転機になりました。

「当時、娘の通う中学校が単学級ということもあり、娘のために何か生活に新しい風を吹き込めたらいいなと思い、娘がずっと望んでいたクリーム色のポメラニアンの男の子を迎えました。ちょうど毛色が、皮を剥いたライチのような色だったので、ライチと名付けたんですよ」(平端さん)。

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ライチの果肉色のライチくんと、平端弘美さん

子育てをしながら専業主婦として過ごしていた、平端さん。8年前のある日、アニマルセラピーを取り上げたテレビ番組を見て、深い感銘を受けたと言います。

「私たち家族の心をなごませてくれるライチを見て来て感じてはいましたが、あらためて、犬が持つ“人を癒す力”のすごさを知ったと同時に、こんなすばらしい犬たちに関わる仕事をしたい! とも思い始めました」。

そこで、平端さんはドッグトレーナーの養成講座に通い、2013年に卒業。出張トレーニングやホームセンターでのしつけ教室をスタートさせたそうです。

 

シニアドッグに携わる仕事がしたい!

ドッグトレーナーとして活動を続けて行くうち、平端さんは飼い主さんたちから、こんなことを聞かれるようになったとか。

「これまでは散歩でリードをぐいぐい引っ張っていたのに、最近歩みが遅くなって……。老化ですかね?」

「近頃はソファに飛び乗りたくても、ちゅうちょしている様子。足腰が衰えてしまったかなぁ……」

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加齢に伴って筋力が落ちるのは人も犬も同じ

平端さんは、その質問を受けて思いついたと言います。「ドッグトレーナーは大勢いるけれど、シニア期や高齢期に向かう犬の心と体を知っているドッグプロは多くない。ならば私が、シニア犬やハイシニア犬と、その飼い主さんを手助けできる存在になろう」と。

ちょうどその頃、ライチくんも12歳を過ぎてシニア生活に入り、平端さん自身も愛犬との暮らし方について見直し始めたタイミングだったことも影響したのでしょう。平端さんはさっそく、ジャパンペットケアマネージャー協会の講座に通い、老犬介護士・ドッグリハビリトレーナーの認定資格を取得しました。

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シニアドッグが筋肉を維持するためのエクササイズ

老犬介護士として飼い主さんに寄り添う

平端さんは、老犬介護をサポートするための訪問介護や、動物病院などでリハビリや整体をする仕事を行うようになりました。

犬は寝たきりになると褥そうができてしまうので、定期的に寝返りを打たせなければなりません。平端さんは、犬の抱きかかえ方やヨガマットを使う方法など、いかに飼い主さんが楽に愛犬の体勢を変えられるかを教えたり、実際に寝返りを打たせたりするそうです。

排泄が困難になってしまった犬の、排尿や排便をサポートすることもあると言います。

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ラブラドール・レトリーバーのケアをする平端さん

「多くの飼い主さんは、愛犬の老いのスピードの速さに戸惑っています。なので、飼い主さんの気持ちをじっくりうかがうことも多いですね。私に話すだけで、心が軽くなったと言われる方もいます。カウンセラーのような役割も、担っているのかもしれません」と、平端さんは語ります。

 

愛犬が緊急手術で命の危機

平端さんがシニアドッグに関わる新しい仕事を始めてほどなく、ライチくんに異変が起きました。

「ある朝、ライチがブルブル震えながら玄関に立ち尽くしていたんです。そんな様子は見たことがないので、急いで動物病院に向かいました。点滴治療などを継続しながら、2次診療施設でCT検査を行ったところ、胆のうが破裂しているとわかり……。命も危ないと告げられ、ライチの緊急手術が決定したんです。手術の日、離れて暮らしている娘たちも駆けつけ、家族全員祈るような気持ちで手術が無事に終わるのを待ちました」。

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2018年に手術を受けたライチくん

手術は無事に成功し、ライチくんはどうにか一命を取り留めました。

「新しい命がライチに与えられたように感じましたね。ライチのごはんも生活も、退院後は一から見直しました」と振り返る平端さんは、「重病から復活を遂げたライチに、老犬介護士・ドッグリハビリトレーナーとしての使命感と勇気ももらえました」とも語ります。

平端さんは仕事中に腰を傷めたこともあったそうですが、ライチくんのことを思うと頑張れるとか。

「ライチの姿を見ていて、できなくなったことに目を向けて悲嘆するのではなく、愛犬がいまできること、きょうできたことを見つけて褒めたり一緒に喜んだりする大切さを知りました。飼い主さんが見方やとらえ方を変えれば、シニアドッグとの生活はもっと豊かに過ごせるのではないでしょうか」。

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シニア犬も飼い主さんも笑顔になれることが、平端さんの願い

「命と向き合う仕事なので大変ですが、毎日とても充実しています。ライチとの出会いがなければ、きっといまの私はいませんね」。そう微笑む平端さんは、今後は飼い主さんの心に寄り添う活動の幅をもっと広げて行けるよう、学びを深めているそうです。

連載情報

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ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!

著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。

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