ロッテ・鈴木大地 指揮官が見ていた前向きな姿勢

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、6月16日の中日戦で、今季3度目のサヨナラヒットを放ったロッテ・鈴木大地選手のエピソードを取り上げる。

ロッテ・鈴木大地 指揮官が見ていた前向きな姿勢

【プロ野球交流戦ロッテ対中日】9回、バットを折られながらもサヨナラ打を放つロッテ・鈴木大地=2019年6月16日 ZOZOマリンスタジアム 写真提供:産経新聞社

「本当にかっこいい人は、あそこでホームランを打つ。僕は汚いヒットでしたけど、勝ったことには変わりないんで、最高です!」

6月16日、ZOZOマリンスタジアムで行われた中日との交流戦、ロッテの“サヨナラ男”、選手会長の鈴木大地がまたまた、とんでもないミラクルを見せてくれました。

先発・ボルシンガーが崩れ、0-5とリードされた7回、まずは中日3番手・祖父江から、鈴木は反撃のノロシを上げる9号ソロ本塁打を放ちます。

しかし8回、中日に2点を追加され、ロッテも1点を返しますが、9回ウラを迎えた時点で2-7。5点差をつけられ敗色濃厚な最終回、先頭で打席に立ったのは鈴木でした。

ピッチャーは、5番手の田島。初球、三塁方向に上がったファールフライを、高橋がグラブに当てて捕れず、これで救われた鈴木は、その後の3球目をライトスタンドへ10号ソロ! 2打席連続本塁打は3年ぶりのことでした。この10号ソロから“ミラクル”が始まります。

選手会長のひと振りで勢いづいたロッテナインは、1死から井上・レアードが連続四球を選び、満塁のチャンス。急遽登板した中日のクローザー・マルティネスから、中村奨吾が左翼線にタイムリー二塁打、さらに藤岡がセンター前に2点タイムリーを放ち、6-7。ついに1点差に迫ったのです。

しかし、続く岡がセカンドフライに倒れツーアウト。反撃もここまでか……と思われましたが、ロッテナインは誰も諦めていませんでした。鈴木はベンチで、こう念じていたのです。

「(打順が)回って来い、回って来いと思っていた」

思いは通じました。田村がライト前ヒット、荻野が四球でつなぎ、ついに打者一巡。2死二、三塁、一打サヨナラのチャンスで、鈴木にこの回2度目の打席が回って来たのです。

中日ベンチはたまらず、本来投げる予定ではなかったセットアッパーのロドリゲスを急遽マウンドに送りましたが、いったんロッテに傾いた流れはもう止まりませんでした。

鈴木はフルカウントまで粘り、6球目、ロドリゲスの150キロの真っ直ぐを、バットを折りながらライト前へ!

「抜けてくれと思って……。気づいたらサヨナラだった」

5点差をひっくり返す、今季チーム3度目のサヨナラ打。驚くことに、その3本はすべて鈴木が打ったのです。

「みんながつないでくれたことがすべて。気持ちに応えられてよかった。おいしいところを持っていっただけです。でも、勝ったことがいちばん」

2005年・06年と連続王者になり、交流戦には強いイメージのあるロッテですが、今季はこの試合の前まで3勝7敗と苦戦。もし負けていたら、4カード連続負け越しとなり、交流戦単独最下位になっていたところでした。まさにチームを救う一打で、井口監督も試合後、鈴木を讃えました。

「大地は満塁で回ってくる機会が非常に多い。彼が打ってくれれば、勝てる」

いまや、チームに不可欠な存在の鈴木ですが、実は開幕戦、スタメンに彼の名前はなかったのです。打線強化のため、日本ハムから移籍して来たレアードに、本来のポジションであるサードを奪われ、2015年から続けて来た連続試合出場も、532試合でストップ。

チーム事情で仕方ないとはいえ、選手会長でありながら、開幕ベンチスタートという屈辱。これまで生え抜きのチームリーダーとして貢献して来たのは何だったのだ……と普通なら腐ってもおかしくないところです。しかし鈴木は「これがプロの世界。前を向いて頑張るしかない」と、チームのために何でもする姿勢を示しました。

代打になっても、日課にしている打ち込みは欠かさず、一塁を守ったり、ときには中学以来という外野を守ったこともありました。そのひたむきな姿を、指揮官はしっかり見ていたのです。

「(鈴木は)必死にやっている。どのポジションでも、とにかく試合で結果を残そうという気持ちはずっと伝わってきている」

ファーストでレギュラーの座を奪い返し、打率もこの日のサヨナラヒットで、ちょうど3割に乗せました。

この日は「父の日」でしたが、家に帰れば3人の女の子のパパ。4月に三女が生まれたばかりです。最高にカッコいい姿を、子どもたちに「逆プレゼント」した大地パパ。

混戦模様のパ・リーグですが、ロッテも5位とはいえまだ借金4で、首位・楽天とは5.5ゲーム差。奇跡を呼ぶ選手会長は、「ミラクル逆転優勝」を本気で狙っています。

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