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本日6月17日は“元祖フィンガーアクション”金井克子の誕生日

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パッパッパヤッパー、という印象的なスキャットと、指差し確認のような独特の振り付け、無表情に歌うその姿が一世を風靡した「他人の関係」。今も人々の記憶に鮮烈に焼き付いているこの曲は、いかにして誕生したのか。本日6月17日はこの曲を歌った金井克子の誕生日。

金井克子は1945年6月17日、中華民国・天津に生まれた。生後2ヶ月で終戦を迎え、一家で引き揚げ大阪府岸和田市に移り、1953年に西野バレエ団に入団する。
西野バレエ団は宝塚歌劇団男子部2期生だった西野皓三が、宝塚のバレエ教師兼振り付け担当を経て、53年に結成されたバレエ団。大阪の帝塚山を活動拠点とし、54年の旗揚げ公演では『ジゼル』や『くるみ割り人形』を上演、という歴史が示す通り、当初は正統的なバレエダンサーの育成所であったが、60年代には拠点を東京に移し、数多くのスターを輩出する。金井克子はまさにその1期生として参加したのだ。同バレエ団在籍のままモデルなどの活動をしながら、1962年にコロムビアからシェファード・シスターズのカヴァー「ハップスバーグ・セレナーデ」で日本コロムビアから歌手デビューを飾った。

コロムビア時代の金井克子は、1969年2月まで23枚のシングルを発表している。デビュー当時はカヴァー・ポップスの全盛時代で、彼女も弘田三枝子などと競作でコニー・フランシスの「ヴァケイション」をカヴァーしており、洋楽カヴァーや競作楽曲も数多い。65年発売の10作目「ノーチェ・デ・東京」がヒットしたが、彼女の人気はむしろテレビ番組によるところが大きい。


64年にNHK『歌のグランド・ショー』にレギュラー出演。歌にダンスやコントを織り交ぜた、テレビの音楽バラエティの先駆けとも呼べる公開放送の音楽番組で、金井は毎回、華麗なダンスを披露した。同番組での活躍によって、65年には「ラバーズ・コンチェルト」でNHK紅白歌合戦に初出場。金井はダンサーとしての応援出演も含めると、60年代には都合4回出演している。

67年には金井を筆頭に、後輩の原田糸子、由美かおる、奈美悦子と西野バレエ団所属の女性4人で「レ・ガールズ」を結成、のちに江美早苗を加えて5人娘となり、お茶の間で圧倒的な人気を獲得した。67年8月からの1年間は、日本テレビで『レ・ガールズ』という冠番組もスタート、同番組の主題歌「ミニ・ミニ・ガール」も金井が歌った。「ゴーゴー」「ミニミニ」程度しか歌詞のないビート歌謡で、作詞・作曲は浜口庫之助。69年にはフジテレビで、レ・ガールズ主演による石森章太郎(後の石ノ森章太郎)の漫画原作のドラマ化『フラワーアクション009ノ1』もスタート。同年4月に東京12チャンネル(現・テレビ東京)でスタートした『プレイガール』と並ぶ、日本初のフィメール・アクション・ドラマとして今も語り草となっている。映画にも『レッツゴー!高校レモン娘』(67年)『ミニミニ突撃隊』(68年)などにレ・ガールズで主演するなど、60年代終盤、レ・ガールズの人気は圧倒的なものがあった。


だが、歌手としては代表曲のなかった金井克子は、69年9月にCBSソニーへ移籍。第1弾シングルは小林亜星による「それでも地球は回っている」という、従来の彼女の溌剌としたイメージを活かしたコミカルな楽曲であった。

彼女のイメージを一変させるのは、CBSソニーのディレクターだった酒井政利である。酒井はコロムビア時代に、低迷している島倉千代子に対し、ポップス寄りに少々お色気フレーバーを混ぜた「ほんきかしら」を制作しイメージチェンジを図り、青山和子の「愛と死をみつめて」では原作・映画などとのメディア・タイアップを成功させるなど、歌手の「再生」に腕を奮うヒット・ディレクターでもあった。ソニーに移ってからもカルメン・マキや南沙織、郷ひろみら新人を成功に導く一方で、朝丘雪路「雨がやんだら」、坂本スミ子「夜が明けて」でベテラン歌手を筒美京平の楽曲によるポップス路線で再生させている。

酒井はコロムビア時代には金井とは組んでいなかったが、金井がソニーを訪れる時、常に男性を4人ぐらい引き連れて来社する姿を見て「ずいぶんと背の高い女性だな」と思い、その姿はまるで女王蜂がオスを引き連れているように見えたことから、女性上位のアダルト・ポップスを彼女に歌わせようと試みる。その第1弾が71年8月発売の「女王蜂」であった。
「他人の関係」がリリースされるのは1年半後の73年3月21日。作詞の有馬三恵子は南沙織の一連のヒット曲で酒井と組んでおり、もともと伊東ゆかり「小指の思い出」のように、女性視点でその「性」のあり方を匂わすような作詞も得意としていた。酒井は、大人の男女の醒めた関係を歌にしようと有馬に依頼、金井にも徹底して無表情で、ロボットのように歌うことを進言する。


完成した「他人の関係」は、歌メロ部分が同じモチーフを繰り返す川口真のメロディーが、男女の情事が最初は淡白に、次第に熱く燃え上がっていく感情とリンクしていて、会うたび最初の出会いの気分にリセットされる快感が歌われている。「ほくろの数を一から数え直す」という意味深なフレーズは、噛まれた小指の記憶と繋がる世界だ。アダルト歌謡にこういった視点を取り入れたことは斬新だった。

それ以上に印象的だったのは、イントロのスキャット部分の振り付けである。「他人の関係」はTBSの『ぎんざナイト・ナイト』という深夜番組の「今月の歌」に選ばれる。その収録スタジオである銀座テレサは銀座三越デパートの裏手にあり、TBSの若者向け情報番組『ぎんざNOW!』の収録でもおなじみだったが、金井が得意のダンスを披露するには、あまりにもスペースが狭かった。同番組ディレクターの鴨下信一によると、金井に「上半身だけの動きならカメラで撮れる」と伝えたところ、彼女が手だけの振り付けを考えてきたという。振りの発想はブロードウェイ・ミュージカル『スイート・チャリティー』で男性がタバコを手に踊るダンスだった。

「他人の関係」は発売まもなくチャートを駆け上がり、7月23日付でオリコン・シングル・チャート最高7位を記録、トップ10にも8週連続でランキングされる、彼女最大のヒットとなった。

しかし、人々の印象に残ったのは、歌の部分よりもイントロの「パッパッパヤッパー」の振り付けなのだ。ヒット曲は、イントロがいかに重要であるかを証明するような出来事である。作曲者の川口真によると、その部分の表現は「バンバン、ババンバン」なのだそうで、レコーディングでは確かにそう歌われている。人気が上昇して、テレビの歌番組などで「他人の関係」を披露する際は、同じ西野バレエ団の男性ダンサーチーム「フラッシャーズ」を従えてのパフォーマンスで、まさしく酒井が想定した「女王蜂」そのものの世界が現出したのである。

酒井政利としては、朝丘雪路、坂本スミ子の時代には、ジャズやラテンで一時代を築いたベテラン女性歌手に、色っぽいポップスを歌わせることそれ自体が「再生」となったが、金井克子の時期はさらに進化して、衣装や振り付け、曲のテーマや、歌唱法までコンセプチュアルに総合プロデュース的な形で関わるようになった。同じ方法で成功をみたのが同年8月にリリースされた内田あかり「浮世絵の街」で、こちらは大形久仁子名義で東芝からデビューしたものの全くヒットのなかったところ、ソニー移籍後に酒井によって芸名も変え、山本寛斎の衣装、上村一夫によるジャケット画で、さらにはオールファルセットで歌わせるなど、「他人の関係」同様の方法論で成功に導いた。こういった酒井のプロデュースの集大成が、79年のジュディ・オング「魅せられて」であることは言うまでもないだろう。

また、「他人の関係」は同じ73年に発売された、夏木マリ「絹の靴下」や安西マリア「涙の太陽」との共通項がある。3曲とも手の動きが印象的な振り付けだが、これらは「フィンガーアクション」と呼ばれ、セクシー歌謡の必須アイテムとなった。テレビでのパフォーマンスを意識したもので、この時代、テレビの歌番組の影響力がいかに強かったかを物語っている。

金井克子は「他人の関係」を引っ提げ、同年の『紅白歌合戦』に出場するが、印象深いのは紅組キャプテン水前寺清子による曲紹介で、「坊ちゃん、嬢ちゃん、パッパッパヤッパー、あれ、行きますからね。金井克子さん、歌はもちろん『他人の関係』!」と、その振り付けとスキャットが、当時の子供たちに大流行りだったことを証明している。その6年後にはカーテンを使って「魅せられて」の真似をした子供たちが続出する現象が起きたのだから、酒井の制作するアダルト歌謡には、制作側は意識せずとも、どこかに子供たちの好奇心を触発するものがあるのではないか。


90年代には全農パールライスのCMにも使われ、金井自身が出演しあの振り付けで「パッパッパパッ、パールライス」とやってのけた映像をご記憶の方も多いだろう。さらに2014年には一青窈のカヴァーによって、ドラマ『昼顔~平日午後3時の恋人たち』の主題歌に使われる。ドラマの内容に合わせた不倫ソング的な解釈は、これまた当時の制作側の意図を超えた展開でもあった。ドラマの大ヒットに伴い、「他人の関係」は世紀をまたぎ、新たな形で再び脚光を浴びることになったのである。金井克子は現在も時々、テレビ番組に出演し「他人の関係」を歌う機会があるが、変わらぬプロポーションと、姿勢の美しさであの振りを表現している。

金井克子「ノーチェ・デ・東京」「ミニ・ミニ・ガール」ジャケット撮影協力:鈴木啓之
金井克子「女王蜂」「他人の関係」写真提供:ソニー・ミュージックダイレクト
ソニーミュージック 金井克子公式サイトはこちら>
http://www.sonymusic.co.jp/artist/KatsukoKanai/

【著者】馬飼野元宏(まかいの・もとひろ):音楽ライター。月刊誌「映画秘宝」編集部に所属。主な守備範囲は歌謡曲と70~80年代邦楽全般。監修書に『日本のフォーク完全読本』、『昭和歌謡ポップス・アルバム・ガイド1959-1979』ほか共著多数。近著に『昭和歌謡職業作曲家ガイド』(シンコーミュージック)、構成を担当した『ヒット曲の料理人 編曲家・萩田光雄の時代』(リットーミュージック)がある。

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