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著書『写真集』~余命3年と告げられたなか、「今を生きて写真を撮る」

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著書『写真集』~余命3年と告げられたなか、「今を生きて写真を撮る」

それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

著書『写真集』~余命3年と告げられたなか、「今を生きて写真を撮る」

『写真集』(著:幡野広志)

写真家・幡野広志さんは、36歳。3月1日の誕生日に、はじめての写真集を出版しました。タイトルは『写真集』……。

代表作「海上遺跡」「いただきます、ごちそうさま。」「優しい写真」、それぞれ違ったテーマの3作品を1冊に収めたので、『写真集』としかタイトルをつけられなかったそうです。

著書『写真集』~余命3年と告げられたなか、「今を生きて写真を撮る」

写真家・幡野広志 さん

36歳と言えば、これからの活躍が期待される年齢ですが、2年ほど前から幡野さんは体の異変に気づきます。「疲れかな?」と思っていましたが、背中や腰の痛みが取れず、一向に良くならない。

そこで大きな病院で精密検査を受けた結果、「多発性骨髄腫」……血液のがんの一種だと判りました。担当医に「治りますか?」と聞くと、現代の医学では治すことは困難な病気で、余命3年と告げられます。

著書『写真集』~余命3年と告げられたなか、「今を生きて写真を撮る」

収録作品「海上遺跡」より

「血液のがんは克服できるものもあれば、できないものもあり、助かる人もいれば助からない人もいて、ぼくのかかったがんは助からないタイプのがんでした。さすがにショックでしたが、慌てふためいても状況は良くならない。しょうがないかな、と思いましたね」

『写真集』のなかに、公園の芝生で幡野さんの奥さんがゴロンと転がって、優くんを持ち上げている写真があります。幡野さんは、この日のことが忘れられないと言います。

「はっきりと日にちを覚えています。2017年11月29日です。その4日前、がんであることが判ったので、家族に対して申し訳なさを感じながらシャッターを切った記憶があります。しばらく家族の写真を撮ることが、あたかも〝残す作業〟みたいに感じてつらかったですね……。いまは違いますけど……」

著書『写真集』~余命3年と告げられたなか、「今を生きて写真を撮る」

収録作品「いただきます、ごちそうさま。」より

海に残され、朽ちて行く廃墟を撮っていた20代。鹿や猪など野生動物を狩猟し、その記録を撮っていた30代前半。28歳で結婚し、33歳のときに長男・優(ゆう)くんが生まれます。

「実を言うと、子どもは好きじゃなかったんです。でも息子が生まれると、他の親と同じで写真を残したほうがいいかなと思って、妻が妊娠中から写真を撮っていましたね」

出産にも立ち会い、生まれた瞬間もシャッターを切った幡野さん。『写真集』には、鉛筆で綴ったこんな直筆のコメントが……。

「母になり、息子になり、父になり、家族になる。」

著書『写真集』~余命3年と告げられたなか、「今を生きて写真を撮る」

収録作品「優しい写真」より

写真集の半分は、長男・優くんの写真です。ベビーカーで眠る優くん、よちよち歩きの優くん、ブランコに乗り、プラレールで遊び、小鳥と戯れる優くん……子どもは好きじゃなかったと言いながらも、愛情が溢れています。

『写真集』の最後の1枚は、奥さんが撮った幡野さんと優くんの2ショットです。キャプションのコメントは……「妻が撮影する優とぼくの写真はいつも笑っている。」

優くんは、6月で3歳になります。限られた命のなかで幡野さんは、日々成長する我が子を、どう見ているのでしょうか?

「息子には名前の通り、優しい人になってほしいです。そして自由に生きてほしい。大きくなると自由に生きるのは難しくなるので、それを跳ね返す力と強さも持ってほしいですね」

著書『写真集』~余命3年と告げられたなか、「今を生きて写真を撮る」

収録作品「優しい写真」より

(写真集、第二弾は?)
「それはありません、絶対に……。写真集って僕が追い続けた作品の集大成なので、そう簡単なものではないんです」

幡野広志さんにとって、最初で最後の『写真集』……。淡々と綴った文章のなかに、こんな言葉を見つけました。

「ぼくは息子のことを愛していた事実を伝えるために、いまを生きて写真を撮っている。君に伝えたい、たたそれだけだ。」

著書『写真集』~余命3年と告げられたなか、「今を生きて写真を撮る」

収録作品「海上遺跡」より

幡野さんの奥さんは、保育園の先生をされているそうです。「写真集」が発売されたとき、出版社から何冊も送られて来るのに、奥さんはこっそり本屋さんで1冊買って来て、「サインしてくれる?」と言ったそうです。
「妻は、うれしい! と言うタイプじゃないんですよ」

(この『写真集』を誰に見てもらいたいですか?)
「二十歳ぐらいの、人生が長い、若い人に見てもらいたい」

(幡野さんの、いまの目標は?)
「最後まで、やりたいことを、やる。死に際まで、やりたくないことは、やりたくない」

著書『写真集』~余命3年と告げられたなか、「今を生きて写真を撮る」
『写真集』/著者:幡野広志
写真家・幡野広志、はじめての写真集。
キャリアを代表する三作品「海上遺跡」「いただきます、ごちそうさま。」「優しい写真」を収録。

発行:ほぼ日
定価:本体2,700円+税(配送手数料別)
発売日:2019年3月1日
https://www.1101.com/books/photos/index.html

■「ほぼ日ブックス」取り扱い書店でも販売。
幡野さんの「写真集」は、ほぼ日ブックスを取り扱っている全国の書店、Amazonや楽天といった、大手のネットサイトにも流通いたします。
取り扱い書店に関しては、こちらのリンクからご確認ください。


著書『写真集』~余命3年と告げられたなか、「今を生きて写真を撮る」
幡野広志(はたの・ひろし)/写真家

■1983年、東京生まれ。
■2004年、日本写真芸術専門学校中退。
■2010年から広告写真家・高崎勉氏に師事、「海上遺跡」で「Nikon Juna21」受賞。
■2011年、独立し結婚する。
■2012年、エプソンフォトグランプリ入賞。
■2016年に長男が誕生。
■2017年、多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。

著書:『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)

■幡野広志さんの公式ブログ
https://note.mu/hatanohiroshi

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