米中の対立と南北朝鮮の融和がもたらす日本の危機的状況

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(12月20日放送)に外交ジャーナリストの手嶋龍一が出演。米中摩擦と南北朝鮮融和による日本への影響について解説した。

米中協議~1月開催で調整

アメリカのムニューシン財務長官は18日、ブルームバーグ通信とのインタビューで「米中首脳会談で決めた貿易摩擦解消に向けた中国との協議を、来年1月に開く方向で調整している」と明らかにした。

飯田)一応のメインイシューとして貿易となっているのですけれど、これはもう貿易の問題だけではないわけですよね?

手嶋)当然そうです。確かに米中間では25%の関税を振りかざして、まさに関税合戦ですから、メディアの形容詞ではなく明らかに米中の貿易戦争が行われています。これだけではなくファーウェイの問題もそうですが、通信機器の安全保障の分野に踏み込むということになると、ビジネスを超えますからかなり深刻です。
日米の貿易摩擦の最中に東芝機械事件というものがありました。東芝機械の機械がソ連の潜水艦のスクリュー音を小さくするのに役立ったというものです。冷静に考えるとその証拠はなかったわけですが、貿易が安全保障の方に飛び火したときには大変深刻ということです。つまり、米中協議の隠れたテーマは安全保障と言って良いでしょう。

飯田)両方ともここから反転して融和に行くというのは、なかなか考え辛いということになって来ますか?

手嶋)アメリカは中国に対して、中国製のいろいろな製品について第3弾の追加関税のときには一応10%、中国がそれを悔い改めなければそれを25%に、と言っていたのですが、ブエノスアイレスで行われた先の米中首脳会談では一旦休戦に近い手打ちが行われることになりました。第3弾については延期をする。これで世界の市場はほっとして、一時株価も上昇しました。しかし、この同じ日にファーウェイの最高幹部がカナダで身柄を拘束されるということになりました。
これはよくG2と言われるのですが、トランプ政権には2つの政府があるということです。一方では手打ちをしているのだけれど、もう一方では手打ちはまかりならないと言ってファーウェイの最高幹部を逮捕する。これはアメリカ政府の意思が2つに分かれていますよね。右手では握手をし、左手では相手の頭を抑える。これがトランプ政権ということです。
しかもこのときに、トランプ大統領と習近平国家主席はブエノスアイレスで実ににこやかにサーロインステーキとメープルシロップをかけたパンケーキを食べて、甘い蜜月の状態でした。まさにそのとき裏では拘束が行われていたことになります。習近平国家主席も全体としては手打ちということになりましたが、それを裏付けるように中国共産党の意向を受けた環球時報という新聞がありますが、その新聞が手打ちだと言っていました。しかし、その論調を横殴りするようなことになりましたから、米中間で何が行われているのかと言うと、米中衝突は少なくとも現時点ではかなり本格的なものだと見ざるを得ないです。

米中の対立と南北朝鮮の融和がもたらす日本の危機的状況

20日、白頭山の山頂で記念写真に納まる金正恩朝鮮労働党委員長(左から2人目)と南朝鮮(韓国)の文在寅大統領(右から2人目)。両端は李雪主夫人(左)と金正淑夫人=2018年9月20日 写真提供:時事通信

韓国が北に傾いて、日本が最前線の防衛ラインに

飯田)佐藤優さんと手嶋龍一さんの共著『米中衝突』(中公新書ラクレ)、まさにそれがタイトルになっているのですが、副題として『危機の日米同盟と朝鮮半島』とあります。これは米中の勢力均衡点が一体どこに求められるのかという話になって来るわけですよね?

手嶋)いまでも日本は、東西の境界線は南北朝鮮を隔てる38度線だと思っているかもしれませんが、文在寅大統領は急速に北へ傾いて、高速鉄道も道路も作ると言っていますよね。調印式までやっているということです。北朝鮮にお金なんてありませんから、アメリカから見ると韓国のドルが流れ込んで行くことを意味しています。もしそんなことをすれば対北朝鮮の制裁違反だということで、韓国のドルのアメリカでの取引を差し止めるぞと言って、水面下では財務省が相当強い姿勢を示しているということになります。
こんな状態ですから、38度線は無きに等しいことになって、結果的には対馬海峡というところまで対立点が下がって来ています。これを佐藤優さんは「新しいアチソンライン」と呼んでいます。朝鮮戦争が起きる前のところまで下がっているということです。これは佐藤さんの慧眼なのですが、世界の戦略家はそう見ています。そういうなかで、日本は吞気過ぎるというところがありますよね。

飯田)朝鮮戦争が勃発する直前のアチソンライン、当時の国務長官のディーン・アチソンが「アメリカが守るべきラインというのは日本列島から入って行って」という話をしていて、そのときに朝鮮半島は入らなかったのですよね。

手嶋)それが一種の朝鮮戦争の引き金を引いた要因だと。そういう情勢に近くなって来ているということです。しかも西側同盟を率いるトランプ大統領は、金正恩委員長と「恋に落ちた」と言って握手をしました。説明できないほど混迷した状態になりますから、日本の外交の舵をどう定めて行くのか、正念場です。

飯田)中国は10年くらい前に軍の将軍が言ったそうですが、「アメリカよ、太平洋はとても広い。これを俺たちで2分できるぞ」と。その2分するときはハワイまでがアメリカということで、日本列島は中国側の領域になるわけですね。

手嶋)朝鮮半島は韓国も含めて北京に引き寄せられています。否定する方がいるかもしれませんが、文在寅大統領が9月に平壌を訪れたときに「我が心の祖国」と言い、「白頭山を訪れたい」と言ったということで、金正恩さんとにこやかに手を振りかざして象徴的なシーンだったと思います。

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