20年間ゴッホを描き続けている男は、職人か芸術家か。

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【しゃベルシネマ by 八雲ふみね 第501回】

さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。

今回は、10月20日に公開された『世界で一番ゴッホを描いた男』を掘り起こします。


ゴッホに魅せられ、ゴッホに命を捧げた男のドキュメンタリー

20年間ゴッホを描き続けている男は、職人か芸術家か。
芸術の秋ですが、今回は本物のアート作品ではなく、ニセモノのお話です。皆さん、偽物は偽物でも、レプリカと贋作の違いをご存知ですか? いちばんの違いは、悪意があるかないかということ。本物だと偽り、売りつけようものなら、これは贋作。れっきとした詐欺罪です。

一方、レプリカとは、悪意を伴わない複製品のこと。レプリカでも良心的なものには、それがレプリカだと分かる印が付けられていたりもします。例えばポストカードのように“これはレプリカです”という前提のもとに販売するアイテムについては、罪を問われることはありません。

20年間ゴッホを描き続けている男は、職人か芸術家か。
そんなレプリカ(複製画)の世界を探求できる、異色のドキュメンタリー映画が日本で公開となりました。

『世界で一番ゴッホを描いた男』の舞台は、中国・深圳市にある大芬(ダーフェン)。世界最大の油絵村として知られ、最近では観光地としても有名なこの街には、約1万人の画工がいると言われています。ここでは世界の有名画家の複製画制作が産業として根付いており、世界市場で流通する複製画の約6割近くが生産されているとのこと。この極めてユニークで特異な地で複製画家として生きる人物を、本作ではクローズアップしています。

20年間ゴッホを描き続けている男は、職人か芸術家か。
その男の名は、チャオ・シャオヨン。出稼ぎでダーフェンにやって来た彼は、独学で油絵を学び、フィンセント・ファン・ゴッホの複製画を20年間描き続けている人物です。ゴッホと言えば、自分の命を削りながら一筆、一筆をキャンパスにぶつけ、芸術に人生を捧げた孤高の画家。そんなゴッホの魂をも再現しようと丹念に描き続ける彼は、驚くべきことに、1度もゴッホの真作を見たことがありません。

20年間ゴッホを描き続けている男は、職人か芸術家か。
これは、ゴッホの複製画を描き続けてきた男が、本物のゴッホを見るためにオランダへと旅する物語。自分が丹精込めて描いている複製画の知られざる真実、本物を見た衝撃。絵を描くことの喜びや苦悩が生々しく浮き彫りになると同時に、チャオ・シャオヨンとゴッホの人生が重なって見えてきます。

20年もの長きにわたってゴッホの複製画を描き続けている彼は、職人か芸術家か。この秋、考えてみませんか?

20年間ゴッホを描き続けている男は、職人か芸術家か。
世界で一番ゴッホを描いた男
2018年10月20日から新宿シネマカリテ、伏見ミリオン座ほか全国順次公開
監督:ユイ・ハイボー、キキ・ティンチー・ユイ
出演:趙小勇(チャオ・シャオヨン)
©Century Image Media (China)
公式サイト http://chinas-van-goghs-movie.jp/

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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