西日本豪雨の被災地を歩く(1)【みんなの防災2018】

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【報道部畑中デスクの独り言 第79回】

ニッポン放送では防災の日の9月1日午後3時から、「ラジオで安心 みんなの防災2018」を放送いたします。9月1日は関東大震災が発生した日ということで、例年、首都直下地震への備えをテーマの中心に据えています。

今年は大阪府北部地震、西日本豪雨に「災害級」の猛暑、相次ぐ台風の襲来と、「大災害の夏」となりました。番組では西日本豪雨の被災地取材を織り交ぜながら、首都圏の防災対策について様々な視点でお伝えいたします。ぜひお聞きください。

番組では、森田耕次解説委員が西日本豪雨の被災地についてレポートしますが、小欄でもこれに先立ち、画像も交え、被災地の現状をお伝えします。(取材は8月19日~21日にかけて実施しました)

西日本豪雨の被災地を歩く(1)【みんなの防災2018】

倉敷駅前にはこのような横断幕が…(岡山県倉敷市・総社市)

「見たこともない光景、この世のものとは思えないような。甘く見ていた…」
岡山県倉敷市真備町の有井地区、街の中心部に拠点を構えるタクシー会社「日の丸タクシー」の平井啓之社長を番組スタッフが訪ねました。

岡山県には7月6日午後7時40分、大雨特別警報が発表されます。平井社長によると、日の丸タクシーの営業所近くにある末政川が逆流してあふれ、道路に水が滝のように流れてきました。車庫にあったバス周辺にも水がたまり始め、高さ15センチぐらいに上ります。深夜はやや小康状態となるものの、末政川北側の堤防が決壊すると、一気に増水。気づけば10分もしないうちに、お腹のあたりまで水が上がってきたといいます。

西日本豪雨の被災地を歩く(1)【みんなの防災2018】

日の丸タクシー・平井社長は、「ここまで水が来た」と境目を指さす(左)。 社長の話を伺う森田解説委員(写真右端)

営業所は一時、「避難所」としての機能を担いました。最終的に約70人の住民が、2階ですし詰め状態のなか、命をつなぎます。また、3階屋上からは市街が一望できるため、建物は自衛隊や警察の「司令塔」としての役割も果たしました。
あたり一面泥水、家屋や車両が水没…平井社長は変わり果てた街の姿を見て、冒頭のような心境になったそうです。

その後、住民は順次、自衛隊のボートで救出。8日未明には平井社長も避難しました。
なかなか水がひかず、避難後、営業所に戻ったのは9日のこと。タクシーは折り重なり、トラックは屋根に引っかかり、いまにも落ちそうな宙ぶらりんの状態。小型タクシーが34台中22台、ジャンボタクシーが6台中5台、車いす用の軽介護タクシーが3台中1台、トラックが5台中5台、貸切バスも11台中11台すべてが使用不能に。甚大な被害が出ました。

西日本豪雨の被災地を歩く(1)【みんなの防災2018】

日の丸タクシー真備本社2階には、被災当時多くの住民が一時避難した(写真最上段)

その後も、固定電話回線がなかなか復旧しません。電話予約が“生命線”のタクシー業務にも、大きな影響が出ます。
「この先どうなるのかな」…、呆然としながらも頭を切り替え、同業者の代替車を譲ってもらうなど、復興に向けて懸命の努力を続けています。

平井社長は四代目。実はいとこから社長のポストを譲り受けたのが、豪雨災害のわずか5日前、7月1日。「マイナスからのスタート」と話す一方、「逆に一致団結して頑張らなきゃという雰囲気になっている。プラスに考えてやっている最中だ」と語ります。

西日本豪雨の被災地を歩く(1)【みんなの防災2018】

真備町服部地区には、浸水した民家や瓦礫が残る

真備町の服部地区、町内で最も住宅の損壊が激しいという地域です。多くの家の一階部分が骨組みだけの状態で閑散とする中、ふらつきながらリアカーをひく高齢の女性がいました。

「手の付けようがない…」いまも家の中に土がたくさんあり、出すのに一生懸命だといいます。ボランティアにかなり助けられたものの、疲れの色がにじんでいました。
「帰らないといけないんです、病院に…」病院に通いながら自宅の後片付けをしている姿に、高齢者が多くを占める地域の現状がありました。

西日本豪雨の被災地を歩く(1)【みんなの防災2018】

爆発で骨組みだけになった総社市内のアルミニウム工場

今回の豪雨はこんな被害ももたらしました。岡山県総社市では7月6日の深夜、アルミニウム工場が爆発。周辺で住宅の屋根瓦や窓ガラスが吹き飛ぶ被害が出たほか、溶解したアルミニウムが飛び散り、火災も発生しました。工場内の溶解炉にあったアルミニウムが、浸かった水によって爆発を起こしたものとみられます。

西日本豪雨の被災地を歩く(1)【みんなの防災2018】

工場爆発で被害を受けた近隣の民家

「頭上を火の玉がたくさん飛んでいる…」、近くに住む女性が当時の様子をこのように話します。
女性の自宅2階の窓には、ガラスの代わりにブルーシートが張られていました。避難する前に突然爆発したということで、車も窓ガラスがなくなり使用不能に。家は住める状況ではなく、修繕にもかなりかかるとして、「倒す」と話していました。

しかし、家そのものは畳がぎりぎり濡れるぐらいの浸水。罹災証明は全壊ではなく、「半壊扱い」。女性は不満を漏らします。工場の爆発は浸水が原因にもかかわらず…です。理不尽な対応に今後、被害の補償も課題となりそうです。

西日本豪雨の被災地を歩く(1)【みんなの防災2018】

真備町箭田地区 小田川。中州には樹木が生い茂っていたが、「水はけが悪い」として、伐採されたという

真備町では、堤防の決壊個所が6カ所に上ったといいます。ほとんどは土のうとブルーシートがかけられた「応急処置」の段階で、復旧にはまだまだ時間がかかりそうな印象を受けました。
川の中州に生い茂っていた樹木は、水はけを良くするために伐採が進んでいました。樹木が水害を助長した…自然の脅威が輪をかけた形です。

西日本豪雨の被災地を歩く(1)【みんなの防災2018】

住宅の解体作業や災害ごみの撤去に追われる。墓地の墓石も倒れたまま(写真右上)

豪雨は浸水で住民の財産を押し流し、工場の爆発も引き起こす複合的な被害をもたらしました。
この後、私たちはもう一つの被災地、広島に向かいますが、そこにはまた別の災害の形がありました。(その2に続きます)

西日本豪雨の被災地を歩く(1)【みんなの防災2018】

真備町中心部のスーパー(左)、まび記念病院(右)

 

ニッポン放送防災特別番組「ラジオで安心 みんなの防災2018」
FM93AM1242ニッポン放送 2018年9月1日15:00-16:30

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