35年前の本日、薬師丸ひろ子「探偵物語/すこしだけやさしく」がオリコンチャート5週連続の1位を獲得

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1983年7月4日、薬師丸ひろ子の2ndシングル「探偵物語/すこしだけやさしく」(両A面扱い)が、オリコンのシングル・ランキングで5週連続の1位を獲得した。デビュー曲「セーラー服と機関銃」の5週連続に並ぶ快挙であり、その後7週まで連続1位記録を伸ばすことになる。

1964年6月9日生まれの薬師丸は当時19歳。角川映画『野性の証明』(78年)で鮮烈なスクリーンデビューを飾ったのち、『翔んだカップル』(80年)、『ねらわれた学園』(81年)と主演作が続き、映画女優として順調にキャリアを重ねていた。その人気が沸点に達したのは81年12月に公開された『セーラー服と機関銃』。同作で初めて主題歌を担当した薬師丸は国民的なアイドル女優となり、映画は配給収入23億円(興収換算で47億円)、デビュー曲となった同名主題歌は86万枚を売り上げる大ヒットを記録する。当時の人気がいかに凄まじかったかは、大阪で予定されていた舞台挨拶に約1万人のファンが詰めかけ、機動隊が出動して上映中止となるほどの大騒動となったことに象徴されるが、その裏には映画と『バラエティ』(角川書店が発行していた月刊誌)以外の露出を抑制する、角川サイドの周到なメディア戦略があった。ファンの飢餓感を煽ることでタレントにカリスマ性を持たせる狙いが見事に的中したわけだが、『セーラー服~』の公開直後、薬師丸は大学受験に専念するため、当面の間、休業することを発表。そのことがさらに人気を過熱させた。

35年前の本日、薬師丸ひろ子「探偵物語/すこしだけやさしく」がオリコンチャート5週連続の1位を獲得

82年はほとんどメディアに登場しなかった薬師丸だが、プロマイドの年間売上は女性タレント1位(2位:河合奈保子、3位:伊藤つかさ)、『月刊明星』の人気投票(女性部門)では松田聖子、河合奈保子に次ぐ3位、NHKのタレント好感度調査(女性部門)では森光子、大原麗子に次ぐ3位・・・と軒並み上位に名を連ね、活動再開への期待が高まっていた。そんな彼女の復帰第1弾映画として選ばれたのが、赤川次郎原作、根岸吉太郎監督の『探偵物語』だったのである。83年2月1日に製作発表記者会見が行われた『探偵物語』は7月16日に公開され、配収28億円(邦画年間2位)の大ヒットを記録。松田優作との「身長差28センチのキスシーン」も大きな話題となった。

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その映画と並行して進められた主題歌のプロジェクトは82年12月、東芝EMI(当時)のディレクターだった鈴木孝夫が松本隆に作詞を依頼したことから始まった。鈴木と松本は、名盤と誉れ高い南佳孝の1stアルバム『摩天楼のヒロイン』(73年)でタッグを組んで以来の関係だが、同アルバムが角川春樹の愛聴盤だったことから、松本に白羽の矢が立てられたのだ。作曲は松本の盟友・大瀧詠一が担当するが、当初はカップリング曲の「すこしだけやさしく」が映画主題歌に起用される予定で、「探偵物語」は「海のスケッチ」というタイトルだったという。大瀧によると、『翔んだカップル』で薬師丸が「異邦人」(久保田早紀)を口ずさむシーンを観て、曲調が似ているメリー・ホプキン「悲しき天使」を連想し、そこから「すこしだけやさしく」を先に作曲。ところが「もう少し、しっとりした曲を主題歌にしたい」との要望を角川サイドから受けたため、「雨のウェンズデイ」(81年『A LONG VACATION』収録、のちにシングルカット)の姉妹編として「海のスケッチ」を書き上げたらしい。最終的には「海のスケッチ」が「探偵物語」に改題されて映画の主題歌に、当初主題歌になるはずだった「すこしだけやさしく」はTBS系『わくわく動物ランド』のエンディングテーマに起用され、両A面扱いでリリースされることになるわけだが、アレンジは2曲とも井上鑑が担当。井上は松本が作詞をした寺尾聰「ルビーの指環」(81年)や、大瀧のインストアルバム『NIAGARA SONG BOOK』(82年)でも手腕を発揮しており、まさに最強トリオの作家陣といえた。

35年前の本日、薬師丸ひろ子「探偵物語/すこしだけやさしく」がオリコンチャート5週連続の1位を獲得

こうして83年5月25日に発売された「探偵物語」は6月6日付けのオリコンで初登場1位を獲得。3面ジャケットの初回盤に加え、2種類の通常盤が発売されたことも功を奏し、トップ10に13週間ランキングされるロングセラーとなり、年間4位のビッグヒットを記録した。当時高視聴率を誇っていた『ザ・ベストテン』(TBS系)や『ザ・トップテン』(日本テレビ系)には1回ずつしか出演しなかったが、ともに1位を獲得し、薬師丸人気の健在ぶりを印象付けた。

薬師丸本人は、2016年のインタビューで「この作品で松本さん、大瀧さんと出会ったことで『私は歌が好きなんだ。これからも歌っていきたい』と思うようになった」と述懐している。近年、再び音楽活動を精力的に展開している彼女だが、きっとこれからも澄んだ歌声で新旧のファンを魅了し続けてくれるに違いない。

薬師丸ひろ子「探偵物語/すこしだけやさしく」大瀧詠一「雨のウェンズデイ」ジャケット撮影協力:鈴木啓之

【著者】濱口英樹(はまぐち・ひでき):フリーライター、プランナー、歌謡曲愛好家。現在は隔月誌『昭和40年男』(クレタ)や月刊誌『EX大衆』(双葉社)に寄稿するかたわら、FMおだわら『午前0時の歌謡祭』(第3・第4日曜24~25時)に出演中。近著は『作詞家・阿久悠の軌跡』(リットーミュージック)。
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