2013年6月

  • 2013年06月28日

    私心なく、任務に就く

     先の大戦が終わり今年で68年。この戦いがどういうものであったのか、「日本には語り継がなければならない歴史がある」と上演されているミュージカルがあります。劇団四季「昭和の歴史三部作」
     5月はミュージカル「南十字星」が上演され、今月20日から来月13日までは、シベリア抑留をテーマとしたミュージカル「異国の丘」が上演されています。この作品は、名家に生まれながら戦後抑留され、やがて非業の死を遂げることになる若きプリンスの生涯を描いたミュージカルです。しかし、何度見ても私が最も心動かされるのは抑留された兵士たちが唄う『明日への祈り』という曲。以下に歌詞を引用します。

     

    ~ 苦しみの果てに儚く消えた 名も無き命 祈り続けた 愛する人の明日の幸せを
    いつの日かよみがえる故郷の青い空 妻よ子よ父母よ燃ゆる思いよ ~

     

     まさに名も無き命、夫であり、父であり、息子であった方々が、「愛する人の明日の幸せ」を祈り続け、戦い、死んでいった。私心ではなく、祖国に残る同胞たちの明日のために。

     ところで、68年前の先輩方の尊い志は今も自衛隊員の中に脈々と受け継がれているんだと実感する出来事がありました。キャスター・辛坊次郎さんの一連の救出劇です。ヨットで太平洋横断に挑戦するも洋上で浸水、海上自衛隊に救助されたその様子を、ご自身の今日付けのメールマガジンで詳しく書いています。

     

    『辛坊治郎メールマガジン 第123号(6月28日発行)』
    http://magazine.livedoor.com/press/6520

     

     第1章が無料公開されているのでぜひお読みいただきたい。そこには、先輩方と同じく、私心なく、相手が誰であろうと淡々と確実に任務を遂行する防人の姿が記されています。

     さて、そんな防人たちの働きに値段をつけて批判をする人たちがいます。曰く、「税金の無駄遣いを指摘してきた辛坊次郎に、一体いくら税金を使ったんだ!1000万か?2000万か?金返せ!」
     私は、私心なく任務を遂行した彼ら防人の命を張った努力に、こうした言動は泥を塗るものに思えてなりません。では、彼らは辛坊次郎なら1000万なり2000万なりを払えそうだから助けたのか?そんなはずがありません。救うべき命に何の軽重もつけずに救う。これが救助に当たるもののプライドではないでしょうか?

     そして、百歩譲って一市民が納税者の立場でこうした発言をするのなら、まあ仕方ありません。自分が払った税金の使い道をきちんと監視するのも重要なことです。
     また、新聞や雑誌がそうした論を展開するのも、言論の自由が保障されている国ですから、文句をつける筋合もありません。読者が判断すればいいだけのことです。
     しかしながら、そうした世論の風を見た国会議員までが尻馬に乗るが如く動き出すのは、私は納得いきません。

     

    『辛坊さんに批判相次ぐ=自民部会』(時事通信)
    http://www.jiji.com/jc/c?g=pol&k=2013062500667

    <「東日本大震災(の津波)で流し出された人を救出するなら納税者も納得すると思うが、本当に深謀遠慮に足りる計画があったのか」と無謀さを指摘。辛坊さんを部会に呼んで事情を聴くことも検討する考えを示した。>

     

     納税者が納得するか?という論点ですが、では、会期末に国会を何日も空転させた費用に関しては納税者は納得するんでしょうか?諸説ありますが、1日国会を開くと経費が1億円~3億円かかるそうです。それに、政権与党の国防部会なら、中・韓の動きや普天間問題、オスプレイ等々、他に話し合うべきことがたくさんあるはずです。

     先の大戦では、中央の軍人・官僚・政治家の得点稼ぎや責任逃れのための保身により、あの悲惨な結果を招いたと数多く指摘されています。この議論も私心による得点稼ぎだとしたら、あまり感心する話ではありません。

  • 2013年06月21日

    日本は破たんする?

     G8サミット、主要国首脳会議が終わりました。今回は、日本の経済政策アベノミクスが各国で評価されましたが、一方で日本政府の財政赤字についてクギを刺される格好になり、それをメディアは大きく報じています。
    『独首相、円安の進行をけん制...安倍首相と会談』(読売新聞)
    http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20130618-OYT1T00284.htm?from=top

     

     さて、この財政赤字。

    「一刻も早く解消しないと日本は破たんする!破滅の淵へ追いやられる!」
     なんともおどろおどろしい言葉で読む者を脅迫するわけですが、はたして本当にそんなことがあるんでしょうか?言葉のイメージだけで語っているとあっという間にミスリードされてしまいます。よくあるのが、話を分かりやすくするためか煙に巻くためか、よく家計や企業の会計になぞらえて話をすすめる手法。実は、これが大きな間違いなのです。
     たとえば、「税収47兆に対して支出が92兆。毎年45兆もの新たな借金を生み出している。これは、月40万稼ぐ家で、毎月79万浪費して39万借金している自転車操業。で、さらにそんな家に7631万円の借金残高が残っている。こんなデタラメなことをやっていたら、どんな家でも破産でしょう?今、この国はこんな状態なんです!」
    というもの。
    http://www.mof.go.jp/budget/fiscal_condition/related_data/sy014_25_04.pdf

     

     これに対しては、「国と家計では同じ借金でも質が違う」というのをまず押さえておかなくてはいけません。家計の場合の借金は一代限り。そりゃそうです。死んでしまったら返せませんからね。だから、住宅ローンでは団体信用生命保険に入ったりして、債務者がなくなった場合は借金がチャラになるように設計されている(債権者が取っぱぐれないようにしてある)わけです。
     ですが、国(政府)は未来永劫続くという前提で存在しています。これ、小さな違いのようで、実は非常に大きな違いなんです。すなわち、借金を繰り延べようと思えば永遠に繰り延べられる。一応、10年、20年といった区切りがありますので、その都度新しい国債と交換していけばいいんですね。とはいえ、借金というものは信用がなければできませんから、そんな自転車操業を繰り返していけばそのうち借金できなくなりますよね。しかし、先ほどのたとえ話がこう変わったらどうでしょう?
    「月40万稼ぐ家で79万の支出、39万の借金。ローン残高は7631万だが、土地と持ち家を合わせると1億円相当の資産がある」
    さらに、
    「今は不景気なので月40万しか稼げないが、景気が良くなれば50万、60万と稼げるようになる。また、80万の内訳はローンの借り換えが15万ほどある」
    こうなると、自分が貸す側だとして、ちょっと目先が変わってきませんか?すなわち、

    「借り換え分を除いて、実際必要な経費を5万~10万詰めて、景気が良くなって60万も稼げば、ちょっとずつ借金を返してくれそうだ。
    しっかりとした収入アップの道筋と、経費節減方法を示してくれたらもうちょっとなら貸せるかな。」

     

     現在の国の借金を家計に例えるなら、ここまで説明しなくては不親切。ミスリードになってしまいます。ちなみに、現在の国有財産がいくらあるかというと、102兆円あまり。
    http://www.mof.go.jp/budget/report/46_report/fy2013/h25w.htm#02
     しかし、これも正確な数字とは到底言えません。なぜなら、資産は取得価額で発表されているからです。たしかに、この表の土地の部分だけでも、価格を面積で割ると1平方mあたり196円(!?)という金額が出てきます。一方で、国税庁が発表している路線価、霞が関周辺は軒並み1平方mあたり300万、400万という数字です。いかに全国に870億平米の土地を持っていようとも、平均するとそんなに安くなるか?というものです。

     

     ところで、家計や企業は基本的に利益を出すことを目的にしています。黒字を出さなくちゃ給料も出ないし、ローンも返せませんからね。ところが、国(政府)の目的は利益を出すことではありません。国の存在目的は、公共の福祉のため。あまねく国民が健康で豊かで平和に暮らすことが目的です。自由競争の中で脱落してしまった人にも手を差し伸べるために存在しているとも言えます。ですので、今のようなデフレ下で、企業も家計もお金を使わない、リスクを取らない状況では、政府が借金を多少膨らませてでも積極的に支出することがむしろ求められるわけです。
     もちろん、このまま毎年借金を野放図に重ねるのもそろそろ限界を迎えるのも確か。せめて、借り換え分は除いて、入るお金と出るお金をトントンにしようというのが、プライマリーバランス黒字化というものです。出る金と入る金をトントンにすれば、少なくともこれから先借金が増えることはない。で、景気が良くなれば入るお金は自然と増えますから、今の内から少しずつ出るお金を減らしていく。急激に公共事業を減らしたり、社会保障費を大幅に削るのではなく、少しずつ手を打って、景気が上向くのを待つのが得策なのではないでしょうか?
     急激な歳出削減と増税でますます景気が悪くなり、失業率が急上昇し社会不安まで起こったのがギリシャでした。ドイツのような性急な財政均衡を志向するのは我が国の行く道ではないと、私は思います。

  • 2013年06月13日

    止んだ解散風

     「6月4日をもって、衆参ダブル選挙はなくなった」と、各メディアでしきりに報道されました。しかしながら、表面上は火が消えていても、関係者の意識の深層には熾火のように解散の可能性がくすぶっています。特に、ベテラン記者や古株の政治家の脳裏には80年代後半の驚きの解散劇が脳裏にこびりついているのです。というのも、現在の政治状況がその当時と非常に似ているのです。
     一票の格差をめぐる裁判で軒並み違憲判決が出て、衆議院議員の正統性に疑問が持たれているという点。さらに、3年に1度の参院選の日程がだいたい出ているという点でも。

     

     1986年(昭和61年)当時の政治状況を振り返ってみましょう。
     前年の1985年7月に最高裁が衆議院の一票の格差に対して違憲判決を出しており、翌86年の通常国会で公職選挙法改正案が成立しました。しかし、ダブル選挙を反対する野党の要求で、改正法には周知期間を30日取るという附則がつけられたのです。これにより、物理的に衆参ダブル選挙は不可能と思われました。また、当時の後藤田官房長官も、「この法改正により総理の解散権が制限される」という趣旨の発言をし、これでダブル選挙はまずないと永田町の誰もが考えました。
     先日番組でご一緒した政治評論家の加藤清隆さんは、当時、時事通信政治部の総理番記者。そのころを振り返って、
    「世の中の流れはダブル選挙はないってことだったんだけど、どうしても心配になって記者懇談の時に官房長官に「ウルトラCもないんですね?」って聞いたんだけど、はっきり「ない」って言ってたから安心したんだよ」
    と言っていました。
     ところが。
    「ウルトラCはなかったけれども、ウルトラDがあった」(加藤さん)。

     

     公選法改正案採決の5月22日をもってつつがなく通常国会を閉会させた中曽根総理は、突如6月2日に臨時国会を召集。その日の閣議で衆議院の解散を決めました。当然、野党は猛反発。本会議の召集が叶わず、議長応接室に各会派の代表を呼び、議長が解散詔書を朗読しての衆議院解散となりました。恒例の「バンザ~イ」のない、異例の衆議院解散だったというわけですね。
     これが、世にいう『死んだふり解散』です。
     そして、このときの衆参ダブル選挙は、高い内閣支持率や周到な選挙準備により与党自民党の圧勝に終わりました。ちなみに、この時の初当選組に、ダブル選挙へ鍵を握る現自民党幹事長の石破茂氏がいるわけで、歴史の巡り合わせとは不思議なものです。

     

     さて、先日このブログに書いたとおり、参院選は伸ばそうと思えば8月末まで持っていけるわけで、1986年のように突如臨時国会を開いて衆参ダブル選挙に持っていくのは物理的には可能。後は安倍総理の腹一つです。ただ、最近聞こえてくるのは「総理は弱気だ」という噂ばかり。大将があきらめてしまっては何も動きませんが、さりとて何の準備もしないのも気持ちが悪い。衆議院議員も、せめて、参院選や都議選の応援にかこつけて週末は地元帰り。会期末を控え、国会周辺は何となくそわそわしています。

  • 2013年06月05日

    やはり見えてくる成長戦略の影...

     安倍政権第3の矢、成長戦略の第3弾が発表されました。今回は、「民間活力の爆発」をキーワードに、薬のネット販売の解禁をはじめとする規制改革や国家戦略特区の活用、さらに電力の発送電分離にも言及するという内容でしたが、見出しはわかりやすい数値目標でした。

     

    『【首相が成長戦略第3弾】10年で所得150万円増、国家戦略特区新設』(産経新聞)http://on-msn.com/19I6GHM
    『所得、10年後150万円増=特区で容積率緩和-成長戦略、安倍首相が第3弾発表』(時事通信)http://bit.ly/11kgP71
    『首相 成長戦略で国民総所得150万円増』(NHK)http://bit.ly/19I9hS5

     

     成長戦略の第2弾が出た時にこのブログで、官僚などの漸進的改革派が主導権を握りつつあると書きました。では、第3弾でその流れはどうなったのか?それは、この見出しが物語っています。

     一見、目覚ましい目標を掲げているように見える今回の発表。「10年で150万円増!」というと、池田内閣時代の「所得倍増計画」を思い起こさせ、「やっぱりアベノミクスは違う。具体的だ」と思ってしまいます。
     私も最初はそう思いました。
     しかしながら、今までは「物価上昇率目標年2%」とか、「農業・農村全体の所得の倍増」といった、パーセンテージや割合で示していたものが、今回急に150万円という金額での提示。それも、今までは仮に金額を明示しても「インフラ輸出2020年までに3倍の30兆」など、国全体としてどのくらいという目標だったものが、今回は個々人の手元に残る具体的な数字を提示してきたわけです。
     これは怪しい...。

     で、調べてみるとこれはもともとあった古い成長戦略の焼き直しに過ぎないことがわかってきました。

     過去、幾多の政権が「成長戦略」を作ってきたわけですが、直近の成長戦略は民主党・菅政権当時に策定された「新成長戦略」(http://bit.ly/11kpKFz)。

     その中では、2020年度までの平均で、名目3%、実質2%の成長を目指すとしています。

     次に、直近の平均給与を調べてみると、平成23年度実績で409万円。(国税庁調べ http://bit.ly/11kq9HW
     そこで、409万円を名目の伸び率3%で複利計算してみると、10年後には...、5,49万6,618円。およそ550万円。ざっと、伸びた分が140万円!10年で150万円増という数字とほぼ一致します。
     ということは、議論を進めたように見せながら、結論は3年前・2010年の成長戦略とほぼ一緒。ただし、看板だけは架け替えているという、目くらまし。官僚仕事を見て取ることができるわけです。そして、その新しい看板がそのまま、正式発表の前日や前々日から新聞の見出しを飾ったわけで、官僚側の意図的なリークまで感じることができます。

     

     安倍総理は今回の発表で、
    「成長のために必要であれば、どのような『岩盤』にも、ひるむことなく立ち向かっていく覚悟です」
    とスピーチしていました。問われているのはその「覚悟」。来週の閣議決定の時に、国民が納得するだけの全体像が描けるのか?悪い予感がするのは、私だけでしょうか...?

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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