2006年8月

2006年8月13日(日曜) 静岡編A

私の母校は、静岡県立富士高校という、
全国的にみれば、まあ大したことない学校なのだが、
甲子園には、昭和54年の夏と昭和62年の春に
1回ずつ行ったことがある。
富士市には、かつて都市対抗野球で名を馳せた
東海の暴れん坊・大昭和製紙があったこともあり、
静岡県内でもサッカーより野球熱が高い地域。
たとえ、サッカー日本代表の正GKを生み出していたとしても、
野球熱が衰えることはない。
振り返ってみれば、ご記憶の方は少ないかもしれないが、
V9時代の巨人で堀内・高橋一と並ぶ、
ピッチャーの三本柱として活躍した渡辺秀武は我が校出身。
記録のために、日本で唯一人、デッドボールを狙うと
公言して投げたピッチャーでもある。
お隣・吉原商業は、黒い霧でボロボロのライオンズに、
敢えて「ライオンズで活躍したい」と入団してくれた
鉄仮面・加藤初の出身校。(この志をライオンズは無にしたのだが…)
富士宮北は、日ハムで活躍した広瀬を輩出。
まあ、簡単に言えば「静岡=サッカー」だけじゃないということ。
んなわけで、毎年母校の高校野球には、
予選の1回戦から観に行って、野次を飛ばしているわけだが、
選手が揃わないのか、監督の采配に問題があるのか、
ここ数年は低迷著しく、今年も草薙球場で呆れる惨敗。
試合も早々に終わってしまったので、
幸か不幸か、駅弁取材にもたっぷり時間を割くことが出来た。
4年ぶり、JR東海道本線・静岡駅の駅弁をご紹介。



駅名票は東海道新幹線のもの。
新富士も掛川も、88年に開業した「こだま」のみ停まる駅。
静岡には「こだま」のほか、東京駅毎時06分発の「ひかり」が停車。
「ひかり」は、品川〜静岡ノンストップの55分で到着。
静岡からは、新幹線〜京急の乗換えで羽田へ1時間半程度。
空港アクセスは、東京の郊外とそう変わらない。
在来線も各駅停車のみではあるが、日中は10分間隔で運転。
静岡市、実はひっそりと政令指定都市に昇格している。



静岡駅は、駅ナカ施設が改装され小綺麗になったが、
東京の名店みたいのが入っていたり、なんだかなぁという感じ。
まぁ、地元の方が良ければ、それはそれでいいが…。
ただ、言わせて貰えば、地方のミニ東京ほど醜いものはない。
その中にあって、静岡の駅弁「東海軒」は今日も健在!
新幹線改札を出て正面にある、メインの売り場は、
朝5時40分から夜11時までロングラン営業。
これは立派!
もちろん、新幹線ホームでの販売もあるし、
在来線ホームでは、キオスクに定番駅弁を置いてある。



静岡で最も食べたい駅弁は「幕の内弁当」(710円)だ。
おそらく日本で一番美味い、幕の内駅弁である。
特にサバの塩焼きが、舌の上で融ける時が快感だ。
今でこそトレーに入っているが、蓋は経木のまま。
創業110余年を誇る「東海軒」の初期からある、
由緒ある駅弁だけあって、品格も十分だ。
静岡で駅弁に迷ったら「幕の内」!
これ、鉄則である。



静岡には、4年前にも紹介した「鯛めし」という
名物駅弁があるが、この鯛めしと赤飯を両方楽しめるのが、
「大御所弁当」(730円)。
昭和58年、滝田栄が主演したNHKの「徳川家康」を
記念して発売された駅弁。
この値段で「安倍川もち」が付いているのは嬉しい。



「静岡=うなぎ」みたいな先入観がある方が、
挙って買いそうなのが「うなぎめし」(1050円)。
でも侮ることなかれ、期待を裏切ることはない。
柔らかウナギが、空腹を満たす。
何せ、東海軒の調製所は、駅の目の前。
昼時なら、出来たての温かいうなぎめしに逢えるかも。



「しずおか物語り」(880円)は、最近各地で見受けられる、
名産品をチョットずつ集めたタイプ、いいトコ取りの駅弁。
よく、他の駅弁を少しずつ集めた「手抜きだなぁ」と
感じさせるものが多い中、静岡は手抜きなし。
桜えびめし、シラスめし、かき揚げなどオリジナルもある。
なお、塩サバ、ウナギは、ここでも味わえる。
容器の大きさの割に、そんなボリュームはない。



ボリュームという意味では、最初から「女性向け」と銘打って
2003年に発売されたのが「しずおかふる里弁当」(840円)。
幕の内弁当の780kcalに対し、こちらは530kcal。
体に優しく、静岡の名産を味わえるのがウリだ。
メタボリックシンドロームにスポットが当てられている今、
お腹まわりが気になる男性にも、優しい弁当かもしれない。



「ますずし」(1260円)。
静岡には、富士宮市の猪之頭という所に県営の養鱒場があり
富士山の湧水を使って、ニジマスがたくさん養殖されている。
静岡の駅弁で「ます寿司」を選べるのは、結構、静岡ツウ。
ます寿司は、富山だけではない。



上の廉価版が「ますの押し寿司」(780円)。
正直な所、1260円バージョンを1人で食べると、
味が単調で食傷気味になるので、この程度がいい。
1人で食べる時は、こちらをお薦めする。



静岡駅の「幕の内弁当」にファンが多いのは、
ツボを押さえた味もさることながら、
かつて「大垣夜行」で売られていた駅弁だからではないか。
東京・23時25分発、普通列車・大垣行。
急行型のボックスシートがずらりと並んだ車内は、
西へ向かう若者と、勤め帰りの疲れ果てた人間が入り混じり、
通勤電車と夜汽車の雰囲気が同居する、独特の列車だった。
この列車が、静岡に到着する真夜中2時台に、
ホームで売られていたのが、この幕の内。
郷愁を憶える方も多いことだろう。
深夜、静岡での駅弁の立売りも姿を消してしまったが、
駅前にある「東海軒」の調製所は、
現在も朝5時から深夜2時まで営業しているので
快速「ムーンライトながら」に、静岡から乗車する場合は、
駅弁片手に乗り込むことも可能だ。(予約が確実)

「大垣夜行」から全車指定の快速「ムーンライトながら」に
姿を変えて、早いもので今年で10年。
私も、何度となくお世話になっている列車だ。
昔のボックスシートに比べれば遥かに快適だが、知れたもの。
指定が取れずに、自由席が出来る小田原から乗り込んで、
デッキで一夜を過ごしたこともある。
深夜の静岡駅のベンチで、幕の内弁当の経木にベットリくっ付いた
白いご飯を一粒一粒はがしながら、到着を待っていたこともある。
苦痛、退屈、不眠の三重苦。
でも、夜が明けて、木曽三川の川面が朝日に輝くのを見ると、
辛い思いも、不思議と美化されてしまうのだ。
長距離鈍行のマジックである。
東京〜大垣間、410キロ。
この夏も、鈍行旅派の強い味方として、
「ムーンライトながら」は、深夜の東海道を駆け抜けていく。

■旅のワンポイント〜東海道中膝栗毛・2006

街道歩きがブームと言われる昨今、
当HPも「駅弁膝栗毛」と名乗っている割には、
「東海道」をあまり取り上げてこなかった。
そこで、静岡駅の近場にある宿場町を歩いてみた。



静岡県内の街道歩きには、東海道線の各駅停車が有効だ。
かつて、静岡県内の東海道線は30分〜1時間に1本程度だったが、
国鉄末期のダイヤ改正で島田〜興津(富士)間に
「するがシャトル」と銘打たれた列車が増発され、
日中は「10分に1本」の運行が原則となった。
現在もほぼ「10分に1本」のダイヤは踏襲されており、
隣の宿場町までの移動なら、まず時刻表は要らない。
今は、東京からは撤退した“湘南色”の電車が健在だが、
この秋以降、徐々に別の車両と入れ替わるとされている。
昔ながらの「湘南電車」の乗り納めは、お早めに。

●宿場町を救った小さなエビ・由比



江戸から16番目の宿場町・由比。
JR由比駅前を通る一車線の道路が「旧東海道」だ。
公園として整備された本陣の前には、由井正雪の乱で知られる
由井正雪の実家とされる建物が残っている。
街道沿いに古くからある、それぞれの家の軒先には、
たくさんのツバメの巣があり、子育ての真っ最中。
昔から温暖で穏やかな町であったことを、
ツバメの存在が教えてくれる。



由比を代表する名産品といえば…、ご存知「桜えび」だ。
明治に入って、交通の中心は鉄道に移行。
宿場町として栄えてきた由比は、窮地に陥っていた。
そんな明治27年11月のある夜、漁網が壊れ、
網は海深く沈んでしまった。
やむなく引き揚げたところ、網にはたくさんの桜えび!
「これはイケる!」
「桜えび」を町の名物として売り出し、成功をおさめることになる。
宿場町に訪れた最大の危機を救ったのは、
「小さなエビ」だったというわけである。
「桜えび」の漁は、春と秋の年2回行われているが、
私が訪れた時は本陣跡の公園で、生きた「桜えび」を公開中だった。
意外と「生きている桜えび」を見た方は、少ないのでは…!?



本陣近くの鄙びた雰囲気もかなりいいが、
駅から興津方面へ、20〜30分歩いた所にある
「倉沢の町並み」も捨て難い。
宿場と宿場の間にある「間(あい)の宿」と呼ばれる所で、
江戸時代にタイムトリップしてしまったような雰囲気も。
訪れる人もあまり多くないので、穴場感も充分だ。



東海道随一の絶景スポット・薩た峠。
百人一首でおなじみ、山部赤人もこの地で
「田子の浦ゆ うち出でて見れば ま白にぞ 
富士の高嶺に 雪は降りける」と詠んだ。
今は、狭い平地の部分に、東名高速道路に国道1号、
東海道本線がひしめき合う、日本の大動脈だ。
夏場、富士山を望めることは少ない。
ベストシーズンは、冬である。
地元の方曰く、興津→由比の順で歩くのがいいとのこと。
それは、峠道への「登りが短くて済む」ことが第一。
そして「富士山を正面に見て歩く」ことが出来る。
日本一の富士山を、背にして歩いちゃ勿体無い。

●昭和の歴史はここで動いた・興津



「興津詣で」という言葉をご存知だろうか?
大正から昭和にかけ、新聞などを賑わせた言葉の1つである。
実はこの興津が、事実上、日本の中心だった時代があるのだ。
最後の元老・西園寺公望(さいおんじ・きんもち)。
彼は、日本の総理大臣を「13人」も決めた人物だ。
首班指名となれば、要人がまず先に
この興津にあった西園寺の家を訪れた。
この家には、東京の各施設からホットラインが引かれ、
様々な動きは、逐一、西園寺に報告されていた。
座ったまま魚を見ることが出来たことから
「坐漁荘」と名付けられた西園寺邸。
日本が戦争へ向かっていった時代、彼の立場を検証することで、
闇の部分は、より明らかになるのかもしれないが、
西園寺は、自伝を書くことを良しとしなかった。
西園寺という人物が、今ひとつ知られていないのは、そのせいだ。
建物自体も微細な部分にまで、匠の技が感じられる「坐漁荘」。
ボランティアのガイドの話を聞いているだけで、あっという間だ。
かつて、西園寺が愛した興津の海は、埋め立てられて、
今は殺風景なグラウンドに変わっている。
「なぜ、海を遺そうとしなかったんですかね」
思わず、つぶやいた。



旧東海道を歩いていると、一歩入った路地に、
「鯵の押寿し」というのぼりが目に入った。
「大和旅館」である。
実はここの「鯵の押寿し」、興津の隠れた名物なのだ。
早速頼むと「今日のは脂がのってるよ!」と嬉しい返事。
駿河湾で朝揚がったばかりの真鯵を使って作られるのだそうだ。
蓋を開ければ、ゴマと生姜がいい風味!
これで1050円とは!
東海道をぶらぶら歩きながら、お店を見つけて入るのもよし。
時間のない方は、静岡駅のKIOSKで販売もあるので、
是非一度、「大和」の「鯵の押寿し」を召し上がっていただきたい。



さっそく「鯵の押寿し」片手に、東海道線の踏切を越え
「清見寺(せいけんじ)」の境内でいただくことにする。
庭が美しい禅宗の寺だ。
真下を走る東海道線のジョイントの音を聴きながら、
国道1号線のバイパス、清水港の貨物船も目に入ってくる。
かつて、幼少時代にの人質だった徳川家康も
この寺で遊んでいたことがあるのだそうだ。
さすが東海道、チョットした寺にも歴史がある。

●日本の野球人気の原点・草薙



静岡と清水が合併して出来た新しい静岡市。
市内の生活の足となっているのが「静岡鉄道」だ。
新静岡と新清水の間を、2両編成のワンマン電車が、
日中6分間隔で頻繁に運行。
途中では、東海道線と並走する区間もあり、
10分間隔のJRとあわせて、静岡〜清水間の交通は
かなりの充実度。
ちなみに、静岡鉄道は、自社のPRソングとして、
有名な「チャッキリ節」を作った会社でもある。



途中の「県総合運動場」が、静岡草薙球場の最寄駅。
かつては、大洋ホエールズのキャンプ地であり、
我が母校の試合もここで行われたのであるが、
この草薙こそ、日本のプロ野球の原点ではないか。
球場の入口に建つ、投手と打者の銅像。
沢村栄治とベーブ・ルースである。
1934年11月20日、日米野球第10戦、
日本のエース・沢村は、メジャー・ナンバー1バッターの
ベーブ・ルースをはじめ、9三振を奪う快投を演じた。
試合は1対0で惜敗したが「日本人でもやれば出来る!」と
日本に野球人気が根付くきっかけとなったのである。
野球好きなら、一度は訪れたい場所だ。

●野次喜多も立ち寄った茶店・丸子



静岡駅のバスターミナルから「藤枝駅」行きのバスに
揺られること20分あまり。
安倍川を渡り、静岡では有名な「よこちのペット」などを
眺めていくと、間もなく「丸子(まりこ)宿」である。
ここで立ち寄りたいのは「丁子屋」。(丸子橋入口下車)
萱葺き屋根の風情ある建物が特徴だ。



「丁字屋」は慶長元年創業の老舗。
自家製のとろろ汁は、白味噌仕立て。
昔、私はとろろも苦手だったのだが、
ここの味噌仕立てのものを食べてから、食べられるようになった。
ちなみに「東海道中膝栗毛」では、
喜多サンも「とろろ汁」を食べようとするのだが、
茶店の夫婦がケンカを始めて、食べ損ねてしまう。
定番の定食「丸子」は、(1360円)。
まあ観光地値段だが、1人用で3杯分ぐらいの麦飯が
お櫃に入ってくるので、結構お腹いっぱい。
腹を空かせていきたいが、昼時は結構混雑する。
ここの売店で売っていた、竹細工の耳かきが好きだったのだが、
去年で無くなってしまったとのこと、残念!

●汽車旅を楽しむなら、特急「東海」



東京〜静岡間の移動は、新幹線「ひかり」が一番速い。
ただ、お得度では「ぷらっとこだま」の普通車用が
4500円なので、時間は30分余計にかかるが、かなりお得。
でも、在来線のノンビリした旅がイイという方に
お薦めしたいのは、東京〜静岡間を2時間15分かけて結ぶ
特急「東海」号である。
東京発7:18・16:00、静岡発8:54・17:23の2往復しかないが、
その存在感の薄さゆえに、実に空いていて、すこぶる快適である。
まして、熱海以東はJR東日本の路線を走ることになるので、
駅の案内放送さえ適当だ。
先日、横浜駅で待っていたら「特急列車」としか案内されず、
「東海」の「と」の字もアナウンスされなかった。
(その後「踊り子」の時は、何回も「踊り子」と連呼していた)

でも、この「東海」号には、大穴的活用法がある。
思い切って、片道を新幹線にしてしまうのだ。
例えば、朝の「東海1号」で静岡入りし、
帰りは好きな時間の新幹線にする。
ここで「乗り継ぎ割引」という制度が活用できる。
新幹線と在来線特急を乗り継ぐ場合は、同時に買えば
在来線の特急料金が半額になるというシステムだ。
つまり、帰りの新幹線まで一気に購入すれば、
行きの東海1号の特急料金が半額になるわけ。
単純に新幹線で往復するよりも、かなりお得な裏技。
指定席用自動券売機でも買えたので、一度お試しあれ。



汽車旅のお供には、やはり「冷凍みかん」だろう。
シャーベットと普通のみかんを両方味わえる、B級デザート。
静岡茶との組み合わせもグッドだ。
駅弁に冷凍みかんをつまみながら、汽車旅を楽しんで街道歩き。
今の時代にピッタリの、時間の楽しみ方ではないか。



Copyright(C) 2005 Nippon Broading System,Inc,All Reserved.