8月13日(月)

『心臓しんとうから子供を守れ!』

『心臓しんとう』という言葉を知っていますか?
脳と同じように心臓も、外から強い衝撃を受けると、一時的
に心臓が痙攣して、場合によっては停まってしまうのです。
この『心臓しんとう』、聞きなれない言葉だと思いますが、
この症状になる人が少ないからではありません。日本では、
ここ数年で、ようやくお医者さんの間でも名前が知られる
ようになったものだからです。つまり、まったく知られて
いなかったのです。

1990年代にアメリカで注目されるようになって研究が
行われ、日本には2000年代に入って、その事実が知ら
されるようになったそうです。
そのためまだ、日本国内で年間に何人が『心臓しんとう』に
なっているのか?その数字すらハッキリ分かっていません。
「急性心不全」で運ばれて、「突然死」してしまった人の
中に、かなりの数、この『心臓しんとう』が含まれていると
考えられています。今、分かっていることは、
この『心臓しんとう』は、圧倒的に18歳以下の子供に多いと
いうことです。
しかも、骨が折れるほどの強い衝撃でなるのではなく、
野球のボールが当たったとか、ふざけていて相手のひじが
胸に当たった…そんな程度でも、十分起きる危険があるの
です。

理由は、子供の胸の骨や筋肉は成長の途中にあるため、
大人よりも柔らかく、衝撃を心臓に伝えやすいからだと
いわれています。
さらに『心臓しんとう』は、衝撃の強さより、
「タイミング」が問題で、動いている心臓にあるタイミング
で衝撃が加わると、簡単に心臓が痙攣した状態となるの
です。心臓が痙攣した状態になれば、正しく収縮しない
ので、「ポンプ」としての役目ができなくなり…
血液を送り出すことができなくなってしまいます。
つまりこれは、心臓が止まっているのと同じ状態です。
1分でも1秒でも早く、もとの動きに戻してあげる必要が
あります。
その唯一の方法は…AED(自動体外式除細動器)を使う
ことです。

そこで今、救命救急の現場に立ち、後進の指導にもあたって
いる1人の医師が、この「事実」を広めようと必死で活動を
行っています。
そのお医者さんとは、埼玉医科大学総合医療センターの
輿水健治(こしみず・けんじ)准教授です。
輿水先生は、救命救急(ER)の医師としてこの『心臓しん
とう』を知りました。そして2004年に『心臓しんとう
から子供の命を救う会』を作って寄付を募り、この病気の
ことを広めるとともに、AEDを購入して、1台でも多く
普及させようとしています。
 
この活動を日々の激務の中で続けているのには「理由」が
あります。輿水先生によると、『心臓しんとう』は何よりも
時間との勝負。とにかく一秒でも早く処置を行えば、
それだけ命が救える「救命率」が高くなるから、まずは
知ってもらうことが必要なのだそうです。

実は、『心臓しんとう』が起こってから、1分対処が遅れる
たびに、治療が成功する確率は、10%も落ちてしまうと
いいます。そして「5分間」が過ぎたら、意識の回復は
かなり難しく、社会復帰は、ほぼのぞめなくなるのだそう
です。ところが東京では、救急車が到着するまでの時間は、
平均で「6分10秒」(※東京消防庁の平成18年度の実績)。
これでは『心臓しんとう』から命を救うことは極めて難しい
のです。お医者さんに見せてからでは、もう遅い、という
わけなんです。そこで輿水先生は、医者に運ぶ前に、
みんなが知識を持ってAEDを使えるようにならなければ
意味がないと、『子供の命を救う会』を作って、
今、時間のある限り活動を続けているのです。

輿水先生は、おっしゃっています。
この夏休み、子供たちが『心臓しんとう』に襲われる
危険がたくさんあります。この症状から「命」を救える
のは…私たち医者ではなく、お子さんのそばにいる、
あなたなのです、と。