8月7日(火)

『学校獣医師』

お子さんたちが夏休みに入って、もう2週間を過ぎました。
お父さんお母さんの田舎に帰省。家族で海へ山へ・・・。
いろんなプランを立てているお宅も多いことでしょう。
大人と子どもの予定を合わせる。実はこれが、なかなか大変。
「だめ! そこはクラブの合宿だから」
「その日は、登校日だよ」
子どもにも、いろいろ予定があるものですから簡単にはいかない。よく聞く話が「飼育当番」。学校には「ウサギ」「カメ」「チャボ」・・・いろんな生き物がいます。夏休み中は、当番制でその世話をする。スタッフの娘さんは、飼育部に入っていたため、ある年の元旦から、ウサギのエサやりに登校しなければならなかった。正月は田舎に帰省する予定だったスタッフは、思わず言ってしまった。
「お前は、なんちゅうクラブに入ったんだ! 
 チッ! バカだなあ!」
親の気持ちも分かりますが、娘さんはきっと淋しかったことでしょう。

「私がサポートしている学校の子どもたちは、
 ジャンケンで勝った子が、ウサギ当番をしますよ。
 負けた子ではなく、勝った子がウサギの世話をするんで  す」
一瞬、耳を疑うようなことを、こともなげにおっしゃるのは、全国学校獣医師連絡協議会主宰 事務局長の(中川美穂子)さんです。
「学校の動物たちは、どうなっているんだ!」
獣医師の先生から、そんな声が上がり始めたのは、昭和50年代のこと。それから長い長い努力を積み重ねて、今では全国で60%以上の市町村が授業に獣医師のお話や指導を組み込んだり、親や教員向けの研修会を実施しているそうです。
学校へ出向く獣医さんのお話をご紹介します。

中川さんの授業は、子どもたちへのこんな問いかけから始まります。
「みんなは、なぜ毎日学校にきて勉強しているの?」
この根本的な問いかけから中川さんのお話は、こんなふうに続きます。
「勉強して、いろいろ覚えて、良い仕事について、豊かな暮 らしができたら素敵ですね。でも、たくさんお金を稼ぐ偉 い人になっても、後で悪いことをしたら悲しいよね。そう ならないためには、人の悲しむことはしない。人と仲良く できる。命を大事にする人になること。そのために今、勉 強しているんじゃない?」
子どもたちが、うなづいてくれたところで、動物の話に入ります。
「動物は口がきけません。でもその気持ちを考えてあげられるようになったら、お友達の気持ちも分かるようになりますよ。その可愛い動物が死んだら悲しいでしょ。命とか、死ぬとかがよ〜く分ります。だから先生方は、学校で動物を飼って、みんなに可愛がってもらおうと思っているんですよ。」

世の中は、ペットブームと言われます。けれども総理府の調査では、ペットを飼っている一番多くの世代は、50代から60代・・・。成長期の子どもの情操教育のためにペットを飼っている家庭は、思いのほか少ないのが現状だと、中川さんは語ります。
また、日本の子どもたちの学力の低下が、問題になっています。けれど、いくら読み書きを覚えても、それを何のためにどう使うかを考える「心」が育っていなければ意味がないと、中川さんは力説します。
(マリモ)をペットと言い、動物と植物の区別さえつかない子ども。「命は大切だ、尊いものだ」と、言葉でしか教えてもらえない子ども。動物を、壁紙のように置いてある教室。これが今の多くの現状です。
「命とは、365日、休みのないものであるということ」
「命にふれ合うというのは、エサやり、フン掃除、やがて迎 える死など、痛みと悲しみを伴うものであること」
これを、知識として知るのではなく、体験として理解することが、いかに大切であるかが今、見失われているのかも知れません。中川さんはこんな体験談も語ってくださいました。
ある4年生の女の子は、授業を抜け出すなど、行動が荒れていた。彼女はウサギが好きだったので、母親も一緒に学校へ通って世話をした。そのうちに、彼女の行動は落ち着き、問題児とは呼ばれなくなった。自分が心を寄せるものに、親が一緒になって目を向けてくれた。このことで子どもは親の愛情を感じ、信じることができたのでしょう。
動物は、人間の愛を目覚めさせてくれる偉大な教師でもあるのです