8月6日(月)

『ミュージカル『人類の破片』』

広島に原子爆弾が落とされて、今日で62年が経ちました。
この原子爆弾、広島、長崎に落される前にアメリカ軍は、
何度も「練習」をしていたことが、最近の調査で分かって
います。使った爆弾は、形や大きさは原子爆弾とまったく
同じですが、中身は普通の火薬という、いわば「模擬の
爆弾」でした。
原子爆弾を落としたあと、爆風で自分たちが被害を受けない
ように急旋回をして「逃げる訓練」をしたのです。
その数、およそ50発。落とした場所は全国に渡っています。
この「訓練」は7月20日に始められましたが…その初日に
落とされたのは、「福島市」でした。狙ったのは軍事工場
だったといわれていますが、落ちたのは水田でした。
斎藤隆夫さんとおっしゃる14歳の男性が、農作業中に被害に
合って亡くなっています。
そのことをたまたま知った一人の男性がいました。
名前は赤間裕弥(あかま・ゆうや)さん。企業情報の調査を
する会社のサラリーマンです。福島市に赴任して、たまたま
その話を知ることになったといいます。

ある日赤間さんは、福島市に「不思議な名前の沼」がある
ことを知りました。『爆弾沼』…爆弾によって出来たあとの
窪みが、大きな沼になったというのです。福島市は太平洋
戦争で空襲が1度もなかった場所だった、と赤間さんは
聞いていました。それなのに、なぜ大きな爆弾の作った
窪みがあるのか?興味が湧いて、沼のある場所まで出かけて
そこに住む人に話を聞きました。そして…実は「模擬の原子
爆弾」が練習のために落とされて、その結果、一人の男性の
尊い命が奪われてしまったことを知るのです。さらに現場
近くのお寺には、そのときに飛び散った15キロもある爆弾の
「破片」が今も残されていることも知りました。

赤間さんはこの話を聞いて…このまま自分だけの胸に納めて
おくわけにはいかないと思いました。そしてこの「事実」を
もっと多くの人に伝えなければと考えたのです。

赤間さんが「原子爆弾を落とす訓練」で一人の男性が犠牲に
なった、その「事実」を伝える方法として選んだのは…
「ミュージカル」です。もともと演劇や脚本などに親しんで
いたのと、子供から大人まで幅広い年齢の人々に興味を
持ってもらいたかったからです。ミュージカルの題名は
『人類の破片(じんるいのはへん)』。
前半と後半に分かれた1時間半ほどの劇です。前半では、
女性教師が生徒を連れて、「模擬の爆弾」の破片が保存され
ているお寺を訪ねるところから始まります。
そしていつしかタイムスリップして戦争当時へと迷い込み…
被害にあった斎藤さんと出会います。
そして斎藤さんは問いかけます。
『こんな目にあったのは、ボクだけだよね』
『62年後の世界は、平和なんでしょ?』
答えに困る女性教師…という具合に進行していきます。
後半では、模擬の原子爆弾が落とされたその事実をもとに
した「ドキュメンタリー」で構成され、幕を閉じます。
上演のためのスタッフも、舞台の上に立つ役者も、すべて
一般市民のボランティアです。爆弾が落とされた
7月20日に、「爆弾の破片」がある「瑞龍寺(ずいりゅう
じ)」で上演されていて、今年で3年目を迎えましたが…
30人ほどの市民が、まさに「手弁当」で参加してくれたと
いいます。入場は無料なので、「寸志」…カンパが頼り
ですが、毎年、多くの方が惜しみなく協力をしてくれて、
今年からは地元の自治体からも援助を仰ぐことができたと
いいます。たくさんの方から感謝や励ましの感想も届いて
おり、今年は9月に「再演」も決まったそうです。
「人類が忘れてはならない大きな爆弾の破片が、
福島に残されている」。
この市民による手作りのミュージカルは、教科書には載って
いない、もう1つの「戦争の事実」を教えてくれます。