7月26日(木)

『脳に重い障害をもった我が子に読み聞かせた千冊の絵本。』

「元気な女の子ですよ!」
原ひろこサンに4人目のお子さんが誕生したのは、
1985年5月29日のこと。
長女、長男、次男に続く、2人目の女の子・・・
2800グラムの我が子に「マリナ」と名づけました。
しかし、誕生から2週間後、マリナちゃんは細菌性の髄膜炎にかかってしまい、一時は命も危ない!と宣告されてしまうんです。
幸いなことに、一命はとりとめマリナちゃんは助かりました。しかし・・・
「お嬢さんの脳は大きなダメージを受けています。
 機能、知能障害が残ってしまうでしょう・・・」
さらなる医師からの宣告に、原さんの心は粉々に崩れていきました。
「どうして? 私が何をしたというの? マリナが何をしたというの?」
涙が溢れ、そこからの医師の話は耳には入ってこなかった、といいます。

       
「マリナちゃ〜ん、おかえり!今日から一緒に暮らそうね」
退院をし、我が家に帰った小さな妹を姉、兄たちは喜んで迎えました。
そんなあどけない光景を見て、
「大丈夫!命だけは助かったんだ。我が子をこの手で抱けるんだから・・」
そう自分を奮い立たせようとしました。しかし、昼夜を問わず、小さな我が子の体を襲う・・発作やけいれん。
再び医師から「娘さんの障害は、かなり重いものになるでしょう。」
そう告げられてしまうんです。
奇しくもその日は、原さんご夫妻の結婚記念日。
泣き崩れる原さんにご主人が温かい手を差し伸べます・・

「よし!今日はオマエの好きな物を思いっきり食べよう!な!」
一家の大黒柱として、崩れそうになる原さんを明るく励ましてきたご主人・・
ある日、ご主人は思わぬ提案を出してきます、それは・・・
「アメリカから女子大生を留学生を受け入れてみないか?」という話でした。 
「マリナがこんな状態なのに・・何を言ってるの?」
戸惑う原さんを笑顔で説得し、結局・・女の子をホームステイさせることになるんです。
でも、その出会いこそが、原さんを光へと導くものだったんです。

オレゴン大学の3年生、20才の女の子・・キャッシー。
彼女の登場で、原さん一家はとても賑やかに明るくなりました。
気がつけば、この数年間・・マリナちゃんのことで自分の殻に閉じこもり、外へ出ることもありませんでした・・そんな一家が久しぶりに家族揃って外出
行き先は「富士山」です。車の窓から見る久しぶりの
自然・・
ゆれる木々の間から舞い降りてくる色とりどりの陽の光・・・
その様子を見ながら
「マリナも自然と同じ、生きているんだ!
マリナがいたからこそ、こういう出会いや人生もあったんだ!」
原さんのキモチが前向きに変わっていくんです。
と同時に、外へと目を向けることも出来ました。
「この現実を悲観しているだけじゃ何も始まらない」
何とかマリナちゃんの病気を治したい・・強い想いから、
ある治療法、アメリカの博士:グレン・ドーマンさんによる「ドーマン法」に出会います。


薬を止め、人間の五感を使い根気よくトレーニングする・・というこの「ドーマン法」。
原さんご夫妻は、お金を工面しアメリカにも渡りました。
そして、その療法の一つ「絵本を読み聞かせる」ことを実践するんです。
マリナちゃんは、その時・・4歳になっていました。
普通の子供が当たり前のように出来る会話も出来ません・・
リズムに乗ることも「痛い」と叫ぶことも出来ません・・
でも、「何も返してくれなくてもいい」
原さんは、絵がシンプルで分かりやすい絵本を探しては
一日に20冊のペースで、マリナちゃんに絵本を読んで
聞かせました。
すると、12歳になったばかりのとき・・
絵本の中の登場人物になりきって
原さんが「マリナさーん!」と呼びかけると、

「ハーィ・・・」

かすかではあるものの、マリナちゃんが初めて言葉を発したのです。
それは、生まれて初めて聴いた我が子の言葉でした。

「重い障害が残ります」と医師から宣告され12年後のこと。

「絶対にいつかはお話できるようになる、マリナは大丈夫」
その想いを胸に・・これまでおよそ1000冊もの絵本を
読んで聞かせてきた原さん。
思うようにならないマリナちゃんを叱ってしまったこともありました、
マリナちゃんのことで頭がいっぱいになり、3人の子供たちを見失ってしまったこともありました。
そんな21年間の想いや出来事を、
原さんはいつしか「詩」「エッセイ」に書き綴るようになりました・・
その中の一篇にこんな詩があります・・・

『アナタが何かひとつ出来るたび、うぉぉぉーっと 
 大きな声で叫びたくなる
 当たり前のことが 奇跡のように思える瞬間
 心の底から喜びがわきたち 感謝せずにはいられなくなる

 アナタがいるから 母さんは 
 “幸せのかけら拾い”の名人になれた』


        
※原ひろこサンがマリナさんの闘病や歩み、そして読み聞か せた絵本、
 さらにご自身で書き綴った詩をまとめた本、
 「マリナと千冊の絵本」が、今年5月・・一冊の本になり ました。
 いのちのことば社フォレストブックスさんから発売されて います。是非、ご覧になってみてください。
 表紙はマリナちゃんのかわいい笑顔です。
 そのマリナちゃんも今年で21歳。
 現在は施設でクッキーを焼く手伝いなどをしています。