7月3日(火)

『最後だとわかっていたなら』

2001年9月11日、アメリカで起きた同時多発テロ。
およそ3000人の犠牲者を弔う追悼集会や追悼番組で、
一遍の詩が朗読されました。
タイトルは、『最後だとわかっていたなら』・・・。
この詩には「911テロで亡くなった若い消防士が生前に書き残した詩」という説明が付き、チェーンメールで、世界中に広がっていきました。

7年間のアメリカ留学を終えて帰国した佐川睦(さがわむつみ)さんも、留学時代の友だちからのメールで、この詩を知った一人です。1993年の夏、佐川さんは最愛のお姉さんの(かおり)さんを失くしていました。脳の細胞が徐々に機能を失う難病でした。お姉さんの婚約者は、いつの間にか姿を消してしまったといいます。
お姉さんに「ああしてあげたかった」「こんなこともできたはず」そんな気持ちを引きずっている佐川睦(さがわむつみ)さんの胸に、この詩の言葉の一つ一つが染み込んで、涙が止まりませんでした。
「これを、日本語に訳してみたい!」
調べると、この詩の作者は(911テロで亡くなった消防士)ではなく、「ノーマ コーネット マレック」という母親であることが分かりました。溺れた子を助けようとして、自分も溺れ死んだ10歳の長男サムエル。短すぎる人生を終えたわが子への気持ちを綴ったのが、この詩『最後だとわかっていたなら』だったのです。
翻訳の許しを得る連絡がついた時、ノーマもまたガンで他界していました。しかも彼女は、誤った情報と共に、自分の詩が伝えられていることに、とても寛大だったといいます。本当に大切な人を失ったときの気持ちは、みな同じであることを、ノーマは知っていたからでしょう。

ノーマ コーネット マレック・作 佐川 睦・訳
『最後だとわかっていたなら』

あなたが眠りにつくのを見るのが
最後だとわかっていたら
わたしは もっとちゃんとカバーをかけて
神様にその魂を守ってくださるように祈っただろう

あなたがドアを出て行くのを見るのが
最後だとわかっていたら
わたしは あなたを抱きしめて キスをして
そしてまたもう一度呼び寄せて 抱きしめただろう

あなたが喜びに満ちた声をあげるのを聞くのが
最後だとわかっていたら
わたしは その一部始終をビデオにとって
毎日繰り返し見ただろう

あなたは言わなくても 
わかってくれていたかもしれないけれど
最後だとわかっていたなら
一言だけでもいい・・・「あなたを愛してる」と
わたしは 伝えただろう

たしかにいつも明日はやってくる
でも もしそれがわたしの勘違いで
今日で全てが終わるのだとしたら、
わたしは 今日
どんなにあなたを愛しているか 伝えたい

そして わたしたちは 忘れないようにしたい

若い人にも 年老いた人にも
明日は誰にも約束されていないのだということを
愛する人を抱きしめられるのは
今日が最後になるかもしれないことを
明日が来るのを待っているなら
今日でもいいはず
もし明日が来ないとしたら
あなたは今日を後悔するだろうから

微笑みや 抱擁や キスをするための
ほんのちょっとの時間を どうして惜しんだのかと
忙しさを理由に
その人の最後の願いとなってしまったことを
どうして してあげられなかったのかと

だから 今日
あなたの大切な人たちを しっかりと抱きしめよう
そして その人を愛していること
いつでも いつまでも大切な存在だということを
そっと伝えよう

「ごめんね」や「許してね」や
「ありがとう」や「気にしないで」を伝える時を持とう
そうすれば もし明日が来ないとしても
あなたは今日を後悔しないだろうから


『最後だとわかっていたなら』は、きれいな写真入りの装丁で、先週の木曜日、「サンクチュアリ出版」から発売されています。「サンクチュアリ出版」の電話番号は《東京03・5369・2535》
本の中扉と末尾の空の写真は、このコーナーでご紹介した
女性写真家、余命1年を克服して「空」を撮り続けている
(中山万里)さんの作品です。