7月2日(月)

『絵本を子供に読み聞かせる会』

秋田県の横手市…駅前から続くここの商店街、地元の方
いわく、典型的なシャッター街になりつつあるといいます。
しかしそんな商店街にも、第1日曜日と第3日曜日には、
子供たちの明るい声が響きます。声が聞こえてくるのは
1軒の本屋さんからです。店の名前は、『金喜(かねき)
書店』。実は月に2回、未就学児や小学校低学年の児童たち
を集めて「絵本の読み聞かせをする会」が行われているの
です。
 
書店の中の、教育書や児童書が並ぶ一角にゴザなどの敷物を
敷いて、毎回10人ほどの子供たちが座って、大人が読むに、
じっと耳を傾けます。読む本は…名作の童話や絵本、
新作の児童書などで、きには大きな声で笑ったり、嘆いたり
しながら聞いているといいます。読み手となっているのは…
書店のスタッフやボランティアの人たちで…大がかりな書店
の販売促進イベントとはちょっと違う、手作りの会なの
です。この会を始めたのは、金喜書店のオーナーである
和泉徹郎さんです。もともとのきっかけは、子供たちの
活字離れを食い止めようということでした。
もっと本に親しんでもらうには、どうしたらいいのか?
考えた末に思いついたのが、昔は各家庭でお母さんが普通に
していた「本の読み聞かせ」だったのです。

これを店頭でしてみたらどうだろうか?実験的に始めた
ところ大好評で、たくさんの子供たちが集まってくれ
ました。そのうちに、この活動を知ったさまざまな人が
ボランティアとして参加してくれるようになります。
地元の高校のブラスバンドがBGMをつけてくれたり、
女子高生が読み手となってくれたり、作家の志茂田景樹さん
や絵本作家のとよだかずひこさんがわざわざ来て、
読み手として参加してくれたこともあったといいます。

そして…気が付くと、98年から9年の時が流れて、
回も重ねること200回となっていました。
200回の読み聞かせは…大きな効果を生みつつあると
いいます。
最初のころから参加していた子供が、この会のおかげで
本を読むことが大好きとなって…中学3年生になったとき、
新聞社主催の読書感想文のコンクールに応募。
見事、入賞を果たしたといいます。
『でもね…』と、オーナーの和泉さんが少しだけ淋しそうな
声を出して語ることがあります。それは、肝心の本の
売り上げにはまったく結びついてないということでした。
もともとの目的は、ここで「読み聞かせの楽しさ」を知って
もらって、次は各家庭でお母さんから子供へ本を読んで
聞かせて上げて欲しいということでした。
でも、なかなか最初の目的を果たすことができないという
わけです。

しかし和泉さんは、どこまで続けられるかわからないけど…
とりあえずは300回を目標に、『読み聞かせの会』は開催
し続けるといいます。すぐに本業には結びつかないものの、
本を通じて子供たちに、夢や希望を贈ることができている…
そんな手ごたえを強く感じているからです。
そして、シャッターを下ろしたままになっているお店が
目立つ商店街に、少しでも明るい話題を作り続けたいと
思っているからでもあるのです。

小さな炎でも灯された明かりがあれば、いつかまた人が
集まってくれるはず…。でも明かりが1つもない
暗い場所には、決して人は寄って来ないというわけです。
東北の本屋さんが続ける「読み聞かせの会」…。
それは、本と子供の関係だけにとどまらない、
大きな意味を持った、手作りのイベントなのです。(了)