5月31日(木)

『空地への感謝』

最近、空を見ていますか?
「今日は傘、持ってくかなあ?」とか「全く、よく降るねえ」とか、そんなふうに、空の方にチラッと目をやることはあっても、「空を見る、眺める、仰ぐ、見つめる」ということを、私たちは日常生活の中で、ほとんど忘れてしまっているようです。信号の色や奥さんの顔色には敏感でも、空の色には鈍感な現代人。

今月の10日から27日まで、およそ半月間にわたって、
水道橋の「アップ フイールド ギャラリー」というところで、空の写真展が開かれました。
紺碧、インディゴブルー、オレンジ、茜色(あかねいろ)、全てが空の写真。さまざまな色の空に囲まれて立っていると、
(こんな忘れられない空が、自分にもあったはず・・・。
でもこれは、どこで見た空なんだろう?)と、想い出をたどり始める。沢山の忘れ物をしながら、惰性で日々を過ごしている生き方を、そっとやさしく諭してくれるような、そんな写真たち・・・。
タイトルは、空に地上の「地」と書いて『空地(くうち)への感謝』一つ一つの「空」には、短いメッセージが添えられていました。
【生命と真剣に向き合った時にみつかるものがある】
【瞬間と永遠を同時に生きること。それは、いまを生きるこ と】
【まだ死にたくない! この地球でしたいことがある!
 わたしは神様に宣言した 】
   
この写真を撮ったのは「中山万里」さん。
3年前に発症した乳がんが肺に転移し、残された命は「あと1年」・・・。そんな覚悟を余儀なくされた女性写真家なのです。

中山万里さんは、1970年。兵庫県の尼崎市に生まれました。小学校時代から学級委員を務め、スポーツも得意な女の子。大学では、世界の大使館とネットワークを結んで、雑誌を発行したり、学生千人による大運動会を企画したり、活発な青春時代を過ごします。
写真との出会い・・・それはちょっと不思議な体験から生まれました。田村直美さんのコンサートで手にしたパンフレット・・・。その中の一枚に、中山さんは写真の神様からの啓示のようなものを受けます。(この写真は、いったい誰が撮ったんだろう・・・)
そのカメラマンを探し当てて訪ねたところから、次の人生が開けました。東京へ出てきて「松濤スタジオ」に入り、主にミュージシャンたちのCDジャケットやライブ、音楽雑誌の写真などを手がけます。森高千里、椎名林檎、福山雅治、平井堅、ケミストリー、モーニング娘。
ニッポン放送にも中山さんの撮ったCDジャケットがあるかも知れません。そんな中山万里さんが、初めて大自然にカメラを向けたのは、観光のために登った富士山の夜明け。その衝撃的な写真の出来映えに、中山さんの中で、空と大地への賛美と感謝の気持ちが目覚めました。
   
乳がんの発症は、2004年。すでに、抗がん剤や放射線療法では遅いという診断に、中山さんは、左の胸の切除手術を決心しました。自分のままでいたいという思いよりも、「命」を選ぶしかなかった!
大変なのは、手術後のリハビリでした。無論、カメラは持てません。アシスタントを二人付けても、満足できる写真は撮れませんでした。それでもカメラをあきらめなかった中山さん。少しずつ、一歩ずつ、神様にも褒めてもらえそうなほどの努力を続けてきたというのに、昨年の4月18日、両方の肺へ、がんが転移していることを告げられます。
それはちょうど、お母さんの誕生日でした。涙が止まりません。それを無理にぬぐい、平静を装って、ふるさとへ電話をかけました。
   
さまざまなデータから考えると、残された命は「あと一年」・・・。運命を恨んだり、未来のことを思い悩んだり、死を恐れ始めると、一日や数日間が、アッという間に過ぎて行ってしまいます。苦悩の果てに掴んだ結論は「今、ここに」ピントを合わせて生きよう。美しい空、人との出逢い、そして、がんの痛みにさえも、感謝しよう。
中山さんは今も、毎日20回、こう唱えます。
「今日もあらゆることに、感謝しま〜す」
生きている、その一瞬一瞬が奇跡であることに、みんな気づいてほしい。そう語る中山万里さんは、作品の一枚にこんなコメントも添えています。
【「癒す」ということは 
 最終的に「ゆるす」ということなのかもしれない】

中山万里さんの「空地(くうち)への感謝」シリーズ、
この写真をご覧になりたい方は、チャンスがあります。
★6月28日 全国の書店で発売される
サンクチュアリ出版の『最後だとわかっていたなら』という本があります。
★9.11同時多発テロの後、アメリカで朗読され、
世界中が涙した「命の詩」を書籍化したものです。
★この本の中に、中山万里さんの「空」の写真が掲載されます。
★また、中山万里さんは『アイ ラブ サンキュー』というエッセイ集も執筆中。写真の選定はすでに終わり、最後の追い込みに入っています。

★今後の写真展については、9月中旬、大阪で開かれるそうですが、詳しい日程や場所については、中山万里さんの公式ホームページをご覧ください。
全部小文字のローマ字で[mari nakayama39.com]と入れて検索していただくと、ホームページが分かります。