4月11日(水)

『円周率10万桁を覚えた男はオール3』

「円周率」と聞くと、ほとんどの人が「3・14」と答えますよね。でも「円周率って、何?」と聞くと、「・・・」、答えられますか?円周率とは、円の周りの長さを、円の直径の長さで割った比の値・・・3・1415926553589793・・・と、永遠に数字が続きます。スーパーコンピューターの登場で、1兆桁まで計算することが出来るそうです。この終わりのない円周率を、どこまで覚えられるか、挑戦している人がいます。千葉県茂原市にお住まいの原口證(あきら)さん。61歳。去年、自らの世界記録を更新し、10万桁を、16時間半かけて、暗唱しました。10万桁・・・、400字原稿用紙で250枚の数字を暗唱できるんです。たぶん皆さんは、この原口さんを「数学が得意なんだ」とか、「理系の人だ」とか「学生時代は、オール5のガリ勉タイプだ」「いい大学を出ているんだ」だと思うでしょう? それが全然違って、勉強は決して出来る方ではなく、可もなければ不可もなく、いつもオール3。クラスでも、まったく目立たないタイプ・・・。そんな原口さんが、なぜ、10万桁の円周率を覚えたのか?きょうの「10時のちょっといい話」は、「円周率10万桁を覚えた男」原口證(あきら)さんの「人生が動いた、あの日あの時」です。

原口さんは、宮城県古川市にある、戦国時代から続く古いお寺で生まれます。由緒あるお寺なんですが、家は、とっても貧しかったそうです。というのも、祖父が、金山の発掘に手を出し、財産を失ってしまうんです。父親も夢ばかり追っている人で、地元で「陸羽(りくう)さきがけ新聞」を発行しますが、いつも借金取りが来ているような状況でした。中学生のころ、原口さんは、新聞配達をして家業を助けますが、家計は火の車で、結局、新聞社は倒産してしまいます。中学を卒業した原口さんに、母親が、こう言ったそうです。「夢を見ているような人間じゃダメだぞ。ちゃんと家族を食わせられる人間になれよ」。その言葉を信じて、原口さんは、地元の工業高校の電気科へ進みます。しかし、もともと、数学や理系が好きと言うわけではなかったので、高校の授業について行けず、テストで0点を取ったことも、しばしば・・・。勉強が嫌いだから、身に入るわけありません。やっとのこと、高校を卒業し、就職したのは、大手電機メーカーの工場でした。ここで品質管理を担当していた原口さんは、性格が真面目なので、不良品のこと、人間関係のこと、些細なことで、ストレスを感じていました。心のどこかに、「この仕事は、私に向いていない」という思いが、ずっとあったんですね。不惑の歳、40になっても、自分の生き方に、迷い続けていました。そんな時、テレビやラジオを利用して勉強が出来る「放送大学」の存在を知り、40歳を機に勉強をはじめてみると、これがとっても楽しかったんですね。あんなに嫌いだった数学も、40歳から習ってみると、これが面白い!
「数学の基礎」という教科書を開いたとき、そこに「3・14159265358979323846264383279・・・」、そう「円周率」が紹介されていました。その数字の羅列を見ているうちに、原口さんは「円周率の世界」へと惹き込まれて行きます。このとき、原口證さんの人生が動き出しました。実家がお寺だったこともあって、
「これは、色即是空・・・、ではないか?」
円周率の数字の中に、「宇宙」のような無限の広がりを見出していくんですね。次第に原口さんは、3・14159265を、お経を読むように、少しずつ覚えるようになりました。円周率を口にすると、心が穏やかになり、瞑想にふけることが出来きました。原口さんは、円周率の数字を、語呂合わせで覚えていきました。円周率の最初、3・14159265は、原口流の暗記方法だと、こうなります。「そうじゃ、一月、餅さん蟲惑(こわく)な君の身、箸持つ主(ぬし)さん三晩(みばん)身に負け・・・」。分かりやすく言うと、『一月に餅が大好きなおじいさんが、餅のおいしさに負けて食べ過ぎて喉に詰まらす』という物語で、その後も、様々な短編が、続きます。頭の中に、物語が字幕になって出てきて、暗唱するときは、その物語を、また数字に置き換えていきます。平家物語を弾き語る琵琶法師に似ていて、「数字から物語を見つけるのが、楽しみの一つ」だと原口さんは言います。58歳の時、6万8000桁、59歳に8万3000桁、60歳になって10万桁と、円周率暗唱世界一を3度も更新します。原口流暗記法は、「楽しみながら覚えること」。「嫌々だったら、電話番号も、人の名前も、覚えられませんよ」と言います。よく、「円周率の記憶が、なんの役に立つのか」と聞かれるそうです。その時、原口さんは笑って「役に立たないですね」と答えてから、こう付け加えます。『自分が「直径」なら、世の中は、丸い「円」・・・人生は、円周率そのものだと、思いませんか?だって、割り切れるものではないから、人生って・・・。』



■原口さんの講演会のお知らせ

10年前、51歳のときに、会社を辞めた原口さんは、円周率をライフワークにして、原口流記憶法を、講演会などで、広めています。


4月22日、来週日曜日、午後2時から千葉県木更津市のかずさアカデミアホールで、円周率暗唱 世界記録10万桁達成者 原口證さんの講演会があります。
『世界一の記憶法のヒミツ 〜すべての記憶に役立つ原口方式〜』
対象は、小学生、中学生、高校生、親子先着150名
入場無料。
お問い合わせは、0438・20・5555
かずさアカデミアホールまで、お問い合わせ下さい。