9月 8日
■北京五輪を振り返る■
「北京へのチャレンジ」最終回は、大会を現地で観戦した二宮清純氏の
北京五輪回顧です。

       ◇◇◇     ◇◇◇    ◇◇◇

北京五輪で日本選手が獲得したメダルは、金9個、銀6個、銅10個。
合計25個という結果だった。
アテネの金16、銀9、銅12という結果に比べれば、多少期待はずれの数字ではある。
9個の金のうち7個が連覇。勝つべき選手は勝ったものの、前半の柔道で谷亮子が
金メダルを逃すなど、初速がつかなかったことが原因だ。

メダル獲得有力といわれた種目での惨敗も目立った。
女子マラソンでは、連覇を狙った野口みずきが直前のケガで欠場。
土佐礼子は外反母趾のため25キロ地点でリタイア。とても走れる状態ではなかった。
女子マラソンでは3つの議席(出場枠)のうち、1議席しか使えなかったのは痛恨である。
なぜ、早い段階で補欠選手を解除してしまったのか。
これまで有森裕子の2大会連続メダルに始まり、高橋尚子、野口と2大会連続で金メダル。
今までうまくいったから、今回もうまくいくという甘さがあったことは否めない。
男子マラソンも大崎悟史が股関節の故障でレース前日に欠場を発表。
他にも標準記録を突破して、世界と戦える選手はいるのだから、危機管理が必要だった。

星野ジャパンはあまりにも期待はずれな結果に終わった。上位3カ国に0勝5敗。
「金メダルしかいらない」と言ったものの、銅メダルすら確保できなかった。
野球日本代表の敗因も明らかな準備不足だ。
今回、岩瀬投手が左バッターに8打数4安打を許した。岩瀬はスライダーとストレートは
いいが、シュート回転のボールが少ない。それだけに左バッターは踏み込んでいける。
岩瀬のことが丸裸にされていた。自分たちが研究している一方で、相手も自分たちを
研究しているという認識が欠落していた。
日本で通用しているから選ぶのではなく、相手に通用する選手は誰か、研究されていない
選手は誰か、という視点も持たなければならなかった。
また、韓国のプロ野球では今シーズン、国際球を使用してきた。
一方、日本のプロ野球は従来のボールを使用。しかも、日本では各球団の主催ゲームに
よって、メーカーが違う。ペナントレースで国際球に慣れておくという発想は必要だ。
球団とメーカーとの契約問題が障害になっていると思われるが、そろそろ日本も、
球団の利益よりも野球界全体の利益を考えることをコミッショナーが発信すべきだろう。
いわば国内で内戦をやっている状態では国際社会で戦っていけない。

大会後、日本選手団の福田富昭団長が、「野球とマラソンは選手村に入らなかった。
選手は選手村に入るべきだ」と苦言を呈した。この考えには賛同できる。
高級ホテルに泊まった2つの競技がメダルを逃したことは偶然ではない。
フェンシングで銀メダルをとった太田雄貴選手にインタビューして気が付いたことだが、
選手村には日本の選手棟がある。日本選手がメダルを獲ると、
そこに「北島選手、金メダル」などと垂れ幕がかかる。
すると、他の競技の選手も「自分もやってやろう」という気になるのだという。
選手村に居ることで、メンタルな発揚が得られる。チーム・ジャパンとしての連帯感が
生まれる。
一方、ホテルには一般人も出入りするため、かえってリラックスできない。
人目を避けてホテルの部屋にとじこもることにもなる。
例えるなら、いい部屋といい机を用意したから勉強できるというものではない。
仲間と同じ部屋で刺激しあって勉強するほうが身になることもあるのだ。

文部科学省は、東京五輪開催に向けて、国家的なプロジェクトを立ち上げて、
金メダル量産を狙う旨を明らかにした。
そういった考えには疑問が残る。中国のようなスポーツエリートを養成することは
時代に逆行することではないか。
中国は51個の金メダルを獲得。米国の36個をしのぐ金メダル大国となった。
しかし、「金メダル大国」イコール「スポーツ大国」ではない。
今回、中国を歩いたとき、街角で子供たちや市民がスポーツに興じる姿は見かけなかった。
一般市民を含めたスポーツの普及、多くの人々がスポーツを楽しめる環境の整備は
まだまだ中国も日本も欧米に遅れている。そうした環境が整って、
その中からメダリストが生まれてくるのが理想のスポーツ大国だろう。
そんなことを感じた今回のオリンピックだった。

(番組中の二宮氏のコメントから抜粋しました)








 
前のページ