“嫌い”でも“無関心”でもない『ラブレス』

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【しゃベルシネマ by 八雲ふみね・第388回】

さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。

今回は、4月7日公開の『ラブレス』を掘り起こします。


ロシアの鬼才アンドレイ・ズビャギンツェフ監督による最高傑作

“嫌い”でも“無関心”でもない『ラブレス』
『父、帰る』『裁かれるは善人のみ』など、世界的に高く評価されているロシアの鬼才アンドレイ・ズビャギンツェフ監督。現代ロシアの姿を切り取り、重厚な作品を生み出してきたズビャギンツェフ監督にとって、ひとつの集大成とも最高傑作とも言える映画が誕生しました。

第70回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞、アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされたサスペンスドラマ『ラブレス』です。

“嫌い”でも“無関心”でもない『ラブレス』
一流企業で働くボリスと美容サロンを経営するジェーニャの夫婦。二人は現在離婚協議中、それぞれすでに別のパートナーがいて、一刻も早く別れて新しい生活をスタートさせたいと苛立ちを募らせていた。

問題は12歳になる一人息子、アレクセイのこと。双方の新しい生活に息子は必要としておらず、どちらが引き取るか言い争っては罵り合う有り様だ。

耳をふさぎながら両親の口論を聞いていたアレクセイは、翌朝、学校に出かけたまま行方不明になってしまう。ボリスとジェーニャは自分たちの未来のために、ボランティアの手も借りながら必死で息子を探すが…。

“嫌い”でも“無関心”でもない『ラブレス』
重く暗いストーリー、しかしそのストーリー展開以上に終始緊張の糸が張り詰めているように見えるのは、アンドレイ・ズビャギンツェフ監督特有の冷ややかで多くを語りすぎない映像センスに拠るものなのではないでしょうか。

スマートフォンを片時も離さずSNSに気を取られている妻、離婚が己の出世の足かせにならないか心配している夫、息子が行方不明なのにそれでも移動の車中で口論を繰り返す夫婦。“嫌い”でも“無関心”でもない、まさに“ラブレス”な関係性を容赦なく描いています。

“嫌い”でも“無関心”でもない『ラブレス』
そんな本作で一際目を引くのが、アレクセイ役を演じるマトヴェイ・ノヴィコフ。大人たちの身勝手さに涙する姿や、窓の外を降る雪を見つめる表情。出演シーンこそ決して多くはないものの、彼の圧倒的な存在感が映画をよりドラマティックなものとしています。

本当の幸せとは…。ズビャギンツェフ監督の直球すぎる問いかけに、あなたが見つける答えとは?

“嫌い”でも“無関心”でもない『ラブレス』
ラブレス
2018年4月7日から新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ
出演: マルヤーナ・スピヴァク 、アレクセイ・ロズィン ほか
©2017 NON-STOP PRODUCTIONS – WHY NOT PRODUCTIONS
公式サイト http://loveless-movie.jp/

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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