しゃベルシネマ

『パリ、テキサス』の名優はいかに生き、死んでいったか『ラッキー』

【しゃベルシネマ by 八雲ふみね・第377回】

さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。

今回は、3月17日公開の『ラッキー』を掘り起こします。


偉大な俳優へ送る、憂いをまとったラブレター


ハリー・ディーン・スタントンの名を聞いてピンときたならば、あなたが相当な映画好きであることは間違いないでしょう。リドリー・スコット監督『エイリアン』(1979年)では機関士ブレット役を、第37回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したヴィム・ヴェンダース監督の『パリ、テキサス』では愛する妻と息子を捨てて4年間失踪した主人公トラヴィスを演じ、その名を知られるようになった名優の中の名優、ハリー・ディーン・スタントン。

2017年9月に逝去するまでに、カルト映画からエンターテイメント作品まで200本以上の映画に出演。トラヴィス役に代表されるような、寡黙で笑顔を見せない演技と飄々とした存在感で人々を魅了してきました。

“ゼン・カウボーイ”と形容されるように、仏教的な価値観を支持していることでも知られたハリー・ディーン・スタントンの最後の主演作が、本作『ラッキー』。90歳の気難しい男が人生の終盤で悟る“死”とは何か。すべての人に訪れる人生最後の時間を描き出しています。


神など信じずに生きてきた90歳の男、ラッキー。彼は一人暮らしのアパートで目を覚ますと、コーヒーを飲んでタバコをふかし、なじみのバーで常連客たちと酒を飲む。

そんな日々の中で、ふと自分に人生の終わりが近づいていることに気付いた彼は、死について思いを巡らせる。子どもの頃に怖かった暗闇、去っていったペットの亀、戦禍で微笑んだ日本人少女…。

小さな町の住人たちとの交流の中で、ラッキーは徐々に“それ”を悟っていく…。


現実主義者で一匹狼、ちょっぴり偏屈なラッキーというキャラクターは、ハリー・ディーン・スタントンの人生になぞらえて当て書きされたもの。劇中に登場するエピソードはスタントンの体験に基づくもので、まさにスタントンの人生そのものが映し出されています。

監督を務めたのは名バイプレイヤーとして活躍するジョン・キャロル・リンチで、これが初監督作。また映画監督のデヴィッド・リンチが、ラッキーの友人はワード役で出演。

実生活でも長きに渡る友人だった彼らのやり取りは哲学的で示唆に富んでおり、役柄を超えた“素”のやり取りが垣間見えるのも面白いところです。


自分の過去を振り返って後悔してやり直して…という、老いや人生の終盤を生きることをテーマとした映画にありがちな展開とは一線を画し、ひとりの男が自分自身とどう向き合うかに焦点を当てたことで、まるでハリー・ディーン・スタントンという人間の生き様や価値観が浮き彫りになっているような本作。

ラッキーがたどり着いた、”生きること”、”老いること”、”死ぬこと”。その答えは、“ゼン・カウボーイ”であるスタントンらしいな…と、思えるものでした。


ラッキー
2018年3月17日(土)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク渋谷ほか全国順次公開
監督:ジョン・キャロル・リンチ
出演:ハリー・ディーン・スタントン、デヴィッド・リンチ、ロン・リビングストン ほか
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公式サイト http://www.uplink.co.jp/lucky/

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