未来を変える勇気の呪文“ゼロ・プラス・ワン”を唱える変な校長 「あけの語りびと」(朗読公開)

それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
上柳昌彦あさぼらけ 『あけの語りびと』

きょうは、おととしの4月、民間人校長に就任した、和栗隆史(わぐりたかし)さん、54歳のお話です。

写真1:校長室

テレビの放送作家だった和栗さんは、数々のヒット番組を生み出し「課外授業 ようこそ先輩」「たけしの日本教育白書」など、教育関係の番組も、数多く手掛けてきました。
「民間人校長」の募集を知った時、「これは、お前の仕事だぞ!」と天の声が聞こえたそうです。
一度決めたら、すぐに行動するタイプ。

まずは教育関係の本を読みあさります。その数、300冊!

知人友人のツテを頼りに、あちこちの学校を訪ねて、現役の校長先生からレクチャーを受け、アドバイスをもらいました。

「僕は、根がテレビ屋なので、テーマが決まると、ガーッと取材し、何を、どうしたら面白くなるのか、とことん、極めちゃうんです」

見事、大阪府教育庁の採用試験に合格し、任期3年間という契約で、堺市にある府立金岡(かなおか)高校に赴任します。

写真4:校舎

 

東京から単身赴任でやって来た、元放送作家の校長に、職員室の先生の多くは、オモシロイわけがありません

1年目は、郷に入っては郷に従え、ストレスと我慢の日々でした。

2年目、和栗校長が「楽しくなければ、授業じゃない」と挑んだのが「笑育(わらいく)」という、漫才やコントを「つくる」授業です。
ネタを見つけ、ストーリー展開を工夫して、最終的に発表する。
松竹芸能の芸人さんにも、協力を得ました。
その中の生徒二人が、「M1グランプリ」に挑戦することになり、生徒に負けられないと、教頭先生を誘い、「校長・教頭」のコンビ名で、M1に挑戦! ともに2回戦へ進出! 大きな話題になりました。

「ドラマでは、熱血教師が主役で、校長は地味な脇役ですが、実際の教育現場では、校長が先頭に立たないと、社会とつながりのある、生きた教育はつくれないんですよ。」

もちろん校長室は開放し、校長室の前には、生徒が、ふと思いついた提案を、メモ書きできるホワイトボードを設置。

写真2:帰宅部ホワイトボード
写真3:帰宅部ホワイトボード

去年の夏休み、こんな書き込みがありました。

「校長先生! 屋上を開放してください。みんなで花火見たいです」

毎年8月1日に開催される関西最大級の花火大会を、みんなで見ようという提案です。
校舎の屋上は、花火見物のベストポジション!

ただし、これまで学校では、屋上を開放したことがありません。
教頭先生と安全面をチェックし、いくつかの対策をとることで、屋上の開放が、出来ることになりました。
ホワイトボードに、「OK!」と書くと、生徒たちは大喜び!

さあ、花火大会の当日、100人の生徒が集まりました。

その中に、「アツシ」という生徒を見つけた和栗校長、目を丸くします。
彼は、こんなイベントに一人で来るような生徒ではなかったからです。
朝、校門に立ち、登校してくる生徒に「おはよう」と声をかけても、いっさい無視する生徒の一人でした。
来る日も来る日も無視!

和栗校長は、彼の声を聞いたことがありません。
無視を続ける彼に、和栗校長は、心の中で、こうつぶやきます。

「きょうも、学校に来てくれて、ありがとう!」

そんなアツシが、花火大会当日、一人でやって来たので、和栗校長の心の中に、ポーンと、花火が打ち上がりました。
花火大会が始まると、「ヤバイ!」「一生忘れられへん!」と大歓声!

最後の花火が盛大に打ち上がり、解散となって、生徒を見送る和栗校長の前に、アツシが通りかかりました。
相変わらず、こちらに目もくれません。
(楽しんでくれたらな、それで十分)と思っていると、一瞬、彼の顔が、こっちに向き、目が合いました。
赴任して1年と4ヶ月、目が合ったのは、この時、初めてでした。
すれ違いざま、「校長、ありがとう」と、小さな声を聞いた時、暗闇の中、和栗校長は、男泣きしました。

「ずっと心配していたけど、大丈夫! 君は、大丈夫だ!」

校長になって、よかった、と思った瞬間でした。

Profile1

和栗校長は、生徒に向かって、言い続けている言葉があります。
最後に、和栗さんの著書、『変な校長 未来を変える勇気の呪文 ゼロ・プラス・ワン』から、赴任1年目の入学式の式辞を、要約して、ご紹介します。         

自分自身で、限界を作ってはいけない。
「ムリ」とか「どうせ」なんていう言葉とは、もうサヨナラです。
限界は乗り越えるもの。
壁にぶち当たって、失敗したら、ゼロに戻ればいい。
そしてまた、初心に戻って、くじけず、辛抱強く、ゼロにプラス・ワンを、コツコツと積み重ねていく。
勉強でも、部活でも、文化祭や体育祭でも、恋をするときでも、毎日あらゆるシーンにおいて、まずはとにかく勇気を持って一歩を踏み出そう。
1日1日を大切に、今を生きる。
そうすれば、きっと、うまくいく、
きのうと違う自分に出会える魔法の呪文。
合言葉は、そう、「ゼロ・プラス・ワン!」です。

大阪府立金岡高等学校 校長 和栗隆史

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2016年7月6日(水) 上柳昌彦 あさぼらけ あけの語りびと より

朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ


セブン&アイ出版