あけの語りびと

映画監督のひらめきから戦争の秘密基地が水曜日だけ郵便局になり人々をつなぐ

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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

鮫ヶ浦水曜日郵便局

「鮫ヶ浦水曜日郵便局」公式サイトより

今日は水曜日。週の中ほどにあるこの日を、あなたはどのように過ごす予定でしょうか? 一週間の始まりとは言えない。しかし週末には、まだ間がある。こんな水曜日には、いろんな出来事が起きるはず。ちょっと嬉しかった、楽しかった、くやしかった、淋しかった・・・。水曜日の心もようを手紙に綴って送ってみてはいかがでしょうか? あて先は、宮城県東松島市の「鮫ケ浦(さめがうら)水曜日郵便局」・・・。

数日後、誰かが書いた「水曜日の手紙」が届きます。送る手紙にも受け取る手紙にも、記されているのはペンネームと年齢、そして住んでいる都道府県名だけ。ですから文通が始まることはありません。誰かが読んでくれるあなたの小さな物語。あなたが読む誰かの小さな物語。「人の心の世界は、こんなたった一度の出逢いから広がるのではないか?」映画監督の遠山昇司さんが、「水曜日の手紙交換」を思いついたのは、2013年のことでした。

遠山昇司

「水曜日の手紙交換」を思いついた遠山昇司さん(鮫ヶ浦水曜日郵便局Facebookより)

遠山さんの出身地・熊本県の海に浮かぶ島にある廃校、赤崎小学校。この校舎に設けたポストには、海外を含め全国から、およそ一万通もの手紙が届いたといいます。

限界集落に独り住む98歳のおばあさんは「水曜日の手紙は、世の中と私を結ぶたった一つの証しです」と書いてくれました。名古屋から富山へ向かう高速バスの中でペンをとったという女性は、流産してしまった子どもへの想いと哀しみを切々と綴ってくれました。インフルエンザで部屋に隔離された主婦は、子どもたちが本を、ご主人が食事を運んでくれたこと、高熱でうなされる中、亡くなった父親と再会できた喜びを書きつけてくれました。

見知らぬ相手だからこそ、真の自分の全てをさらけ出せる。それが「水曜日の手紙」の魅力の一つです。

誰に届き誰から届くかわからない「水曜日の手紙」(鮫ヶ浦水曜日郵便局(@samegaura_wed)さん | Twitterより)

送り手の年齢や境遇に合わせて、どんな手紙を返したらいいか? それを吟味するのは、遠山さんたち局員の役目です。こうして「水曜日の手紙プロジェクト」が3年ほど続いた頃、赤崎小学校郵便局は、耐震性の問題から、とうとう立ち入り禁止になってしまいます。「水曜日の手紙」の再会を望む声が、多数寄せられる中、次の郵便局の候補地が浮かんできました。

それが、宮城県東松島市の旧「鮫ケ浦漁港」・・・。およそ500人が暮らす宮戸島の海沿いの道を、しばらく歩くと、ポッカリと口を開いた長さ60メートルほどの素掘りのトンネルが見えてきます。このトンネルを抜けた向こう側の入り江が、その候補地でした。

かつて戦争の秘密基地だった場所が人々をつなぐ役割に(鮫ヶ浦水曜日郵便局Facebookより)

この「鮫ケ浦漁港」の前身は、太平洋戦争末期に旧日本陸軍が作った秘密基地。特攻兵器と呼ばれた人間魚雷「震洋」の発信基地でした。暗い歴史を背負った場所ですが、33歳の遠山さんの目には、そうは見えなかったといいます。

「タイムスリップしたような不思議な感覚にとらわれたんです。トンネルの先にある光が、人と人をつなぐ希望の光に見えました」と振り返ります。遠山さんは1年間の期限付きで、ここに「水曜日郵便局」の開局を決めました。

「鮫ヶ浦水曜日郵便局」はこちら(鮫ヶ浦水曜日郵便局(@samegaura_wed)さん | Twitterより)

旧「鮫ケ浦漁港」に残されていた船を引き上げるウインチ小屋に手を加え、白いポストと真新しい看板を掲げたのは、去年の12月。「鮫ヶ浦水曜日郵便局」の開局でした! ポストには雨風に耐え忍ぶように、灯台に使われる漆喰を使いました。毎週水曜日の日没から、日付が変わる24時までは、ソーラーパネルシステムによって、灯りもともります。

腹を光らせて泳ぐ月夜の魚たちの群れ・・・。それを『みんな誰かの手紙です』と詠ったのは、詩人の寺山修司でした。誰かに手紙を書く。それを誰かが受け取り、また誰かに手紙を書く。手紙が決して無くならない「理由」です。

「水曜日の手紙」の宛先は、郵便番号981-0394 宮城県東松島市宮戸字観音山5番地その先「鮫ケ浦水曜日郵便局」です。「その先」という表示が、いいですよね。

出会うことのない人々が水曜日に「その先」で出会います(鮫ヶ浦水曜日郵便局(@samegaura_wed)さん | Twitterより)

上柳昌彦 あさぼらけ 『あけの語りびと』
2018年3月7日(水) 上柳昌彦 あさぼらけ あけの語りびと より

朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ

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