10時のグッとストーリー

オフコースの初代ディレクターに聞いた小田和正さんの歌声にまつわる秘話

番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】

きょうは「この声、大スキ大賞」にちなんで、小田和正さんの「歌声」にまつわるストーリーです。名曲『言葉にできない』で、小田さんが見せた熱唱……その背景に、どんな思いがあったのかを、オフコースの初代担当ディレクターに伺いました。

夜明けを告げに ジ・オフ・コース

『夜明けを告げに』(1971年)初期3人時代 一番右が小田さん、中央が鈴木さん

1970年、東芝からデビューしたオフコース。最初は3人組で、4人になり、やがて小田和正さん・鈴木康博さんの2人組に。76年、ドラムスの大間ジローさん、ベースの清水仁(ひとし)さん、ギターの松尾一彦さんが加入してバンド編成の5人組となり、音に厚みを増したオフコースは、結成10年目の79年、『さよなら』が大ヒット。以後、数々のヒット曲を世に送り出しました。そのオフコースのデビューから解散までを、初代担当ディレクターとしてずっと見守ってきたのが、新田和長(にった・かずなが)さん・現在72歳です。早稲田大学時代、ザ・リガニーズを結成。東芝からデビューした縁で、卒業後、ディレクターとして東芝に入社。RCサクセション、トワ・エ・モワ、チューリップ、長渕剛さんなどを担当し、数えきれない名曲を生みだしていきました。

おさらば オフ・コース

『おさらば』(1972年)初期4人時代 左から2人目が小田さん、一番右が鈴木さん

「オフコースとの出逢いはラジオだったんです。彼らがデビュー前に出たコンテストの模様が偶然カーラジオから流れてきて、『これは凄い! すぐに契約したい』と思いました」という新田さん。そのハーモニーとセンスに魅せられ、すぐ小田さんに連絡を取って、オフコースと契約。小田さんとの、長い付き合いが始まりました。小田さんの声の魅力について、新田さんは、

「彼の歌声はいわば“楽器”なんですね。しかもいろんな表情が出せて、弦楽器に喩えると、時にはバイオリン、時にはビオラ、時にはチェロ…のように変幻自在の音色が出せるんです」

眠れぬ夜 オフ・コース

『眠れぬ夜』(1975年)2人時代の代表作の一つ 左:小田さん 右:鈴木さん

デビュー当時からアーティスト志向で、いわゆる「芸能界のしきたり」には馴染めなかった小田さん。当時、大学院で建築学を学んでおり、プロとして音楽を続けていくことに迷いもあったようです。しかし、メンバーが鈴木さんと2人だけになったとき、小田さんは音楽の道一本で生きて行こうと決意。新田さんは言います。

「建築を学んでいた影響は、歌にも表れていますね。小田君は、すべての楽器が出す音をちゃんと把握した上で歌っている。自分がどんなふうに歌えば、声の据わりがいいか、全体を俯瞰で見て歌っているのは、さすが建築家だなと思いますよ」

Three and Two オフコース

アルバム『Three and Two』(1979年) 正式に5人編成になって初のアルバム 新加入の3人 松尾さん・清水さん・大間さん

Three and Two オフコース

アルバム『Three and Two』(1979年) 鈴木さん・小田さん

メンバーが2人から5人になったとき、最初に出したアルバムにファンは驚きました。タイトルは『Three and Two』。しかもジャケットの表に、後から入った3人の写真を載せ、小田さんと鈴木さんは裏面に…「これも実に小田君らしい。普通は『Two and Three』で、前からいる自分たちが表ですよ。しかし小田君は、新メンバーの3人と対等な関係で音楽を創っていこうとした。このアルバムは、そんな彼の人柄を物語っています」という新田さん、82年、日本武道館で伝説の「10日間連続公演」を行い、頂点に立ったオフコースでしたが、翌年、結成以来、小田さんとずっと共に歩んできた鈴木さんが脱退…。またこの頃、小田さんはバックの3人から「小田さんのボーカルが前面に出過ぎている。もっとリズムセクションも聴かせてほしい」……そんな要望を突き付けられるようになっていたのです。そんな、バンドに暗雲が立ちこめていた82年に作られた曲が、『言葉にできない』でした。

「小田君が出た高校は、キリスト教系で、賛美歌にもなじみが深かったそうです。その影響かな……彼の歌は、自分の心を伝えようとする“祈り”でもあるんです」

さよなら オフコース

『さよなら』(1979年)オフコースの人気を決定付けたシングル

強い結束力を誇ったバンドが、だんだん揺らぎつつあった頃に書かれた『言葉にできない』は、小田さんの孤独、苦悩、心の叫びが、そのまま歌声に反映されている、と新田さんは言います。「哀しくて」「くやしくて」…そんな言葉にできない感情が、もっとも象徴的に表れているのが、ラストの「ウーーーー」という、3小節と1拍、10秒以上にわたる、息継ぎなしの絶唱です。

「あれは、並外れた肺活量を持つ、まさに小田君にしかできないパフォーマンスです。あそこで息継ぎを一切入れなかったのは、心の底から湧き上がってきた、嘘のない、言葉にできない思いを、そのまま、みんなに伝えたかったからじゃないでしょうか」

言葉にできない オフコース

『言葉にできない』(1982年)

新田さんによると、実は最後の、10秒以上にわたる「ウーーーー」の部分は、小田さんが当時、ライブで歌った音源を使っているそうです。「ライブの時の息継ぎなしの絶唱を、もう一度レコーディングで再現しようとしたけれど、できなかったんです。そのぐらい、あの部分には小田君の思いがこもっています」とのことでした。

【10時のグッとストーリー】
八木亜希子 LOVE&MELODY 2018年3月3日(土) より

八木亜希子,LOVE&MELODY

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