八雲ふみねが選ぶ2017年ベストムービー<邦画編>

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【しゃベルシネマ by 八雲ふみね・第333回】

さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。

今回は、八雲ふみねが選ぶ2017年ベストムービー<邦画編>としてお届けします。

昨年に引き続き、アニメ作品やマンガの実写映画化作品に勢いがあった2017年の邦画界。
しかし吉田大八監督が三島由紀夫作品に挑んだ『美しい星』や、寺島修二の世界をあますところなく映画化した『あゝ、荒野』、まるで仲代達矢の俳優人生そのものを焼き付けたような『海辺のリア』など、意欲作も数多く生み出されました。

そこで、エンターテインメント作品からアート系まで、ベスト5をセレクト。
八雲ふみねの独断でご紹介します。


帝一の國:いま観ると、奇跡のキャスティング!

八雲ふみねが選ぶ2017年ベストムービー<邦画編>
映画化発表当初はあまりにも豪華なキャストと作品性のギャップに、原作ファンも驚きを隠せなかった本作。しかしフタを開けてみると、その豪華なイケメン俳優陣の“イケメン”をかなぐり捨てるかの如きなりきり度と、それが却って“男前”に見えてしまうという意外性がツボにハマってしまった人も多いのではないでしょうか。

実際、シュールなギャグを交えたマンガ原作の世界観を壊さずに実写映画化することは難しいと言われており、2017年に公開された本作と『銀魂』は、その稀有な成功例とも言えるでしょう。

また主要キャストに目を向けてみると、主演の菅田将暉や野村周平、千葉雄大の活躍もさることながら、竹内涼真、間宮祥太朗、志尊淳は今年大ブレイクした俳優たち。まさにこの2017年を象徴するメンバーが出演しているという意味でも、2017年邦画ベストの一作に挙げる価値アリ! でしょう。

彼らの2018年の活躍を期待しながら改めて本作を観ると、新たな発見もありそうですね。


散歩する侵略者:表裏一体のスピンオフドラマとともに、日本を“侵略”する

八雲ふみねが選ぶ2017年ベストムービー<邦画編>
劇作家・前川知大氏率いる劇団「イキウメ」の人気舞台を、国内外で常に注目を集める 黒沢清監督が映画化。数日間の行方不明の後、夫が侵略者に乗っ取られて帰ってくる、という宇宙人侵略モノでありながら、宇宙人に“概念”を奪われるかのように、実は私たちの日常も侵されているかもしれない…というホラー的テイストが融合した作品です。

風をうまく利用した不穏な空気感、影を意識したライティング、シーン全体を支配する独特の緊迫感と“黒沢節”も健在。

さて、本作には宇宙人の地球侵略をテーマとしたスピンオフドラマ『予兆 散歩する侵略者』が存在します。映画版と同じ時間軸で、映画版とは別の街でも侵略者たちが人間の“概念”を奪っていたら…というコンセプトのもと制作された『予兆 散歩する侵略者』は、本篇と同じく黒沢清監督がメガホンを取り、黒沢監督と共にJホラーブームを巻き起こした高橋洋が脚本を担当。

このスピンオフドラマと映画は対の関係となっており、実はふたつの作品で『散歩する侵略者』の世界観が成立しているのです。映画版はエンターテイメント性を意識し、スピンオフドラマではさらなるディープな世界観を追求。
ジリジリとした恐怖があなたに迫ります。


TAP -THE LAST SHOW-:名優・水谷豊の新たなるチャレンジに魅了される

八雲ふみねが選ぶ2017年ベストムービー<邦画編>
今年はダンスにフィーチャーした作品が多く公開されたなか、特に印象的だったのが『TAP -THE LAST SHOW-』。何しろ監督を務めたのは、あの名優・水谷豊。40年間温め続けた企画の映画化を実現。

“右京さん”ファンの人も水谷豊の新たなチャレンジに魅了されたのではないでしょうか。自身も身を置くショービジネス界の“光と影”を映し出した重厚感あふれる本作。

時が経っても、たとえ望む形でなかったとしても、夢はいつか必ず叶う。そんな作品のテーマと本作を手がけた水谷豊自身とがリンクするようです。

24分間にわたる迫力のタップシーンは、改めてDVD&Blu-rayでじっくり堪能する価値あり。
そして水谷豊“監督”の次回作にも期待です。


スプリング、ハズ、カム:世代を超えて共感を呼ぶ邦画

八雲ふみねが選ぶ2017年ベストムービー<邦画編>
本作が劇場公開されたのは今年の2月。12月に入っても地方の映画館で上映されている情報を目にしました。人の心に響くステキな映画は長く愛されるものなのだなぁ…と、あらためて嬉しくなりました。

簡単に言うと「娘のアパートを親子で探しに来ました」というお話。娘を手放す父の思い、そして初めての一人暮らしへの希望と不安が同居する子の思い。父と娘が東京で過ごす時間を愛おしく描き出した吉野竜平監督の優しい眼差しが、観る者の心をもじんわり。

「幸せは遠くにあるものではなく、すぐ身近にある」ということをさり気なく教えてくれる、ちょっと疲れている現代の日本人にぴったりの映画かもしれません。

年が明けて受験シーズンが終わると、この映画の父娘のような姿が東京の町のあちらこちらで見られるのでしょうね。


全員死刑:タイトルのインパクトとは裏腹、実は超絶エンターテインメト!

八雲ふみねが選ぶ2017年ベストムービー<邦画編>
タイトルのインパクトだけでなく、ストーリーも凄まじいんです。家族全員に死刑判決が下った実在の強盗殺人死体遺棄事件をモチーフに、彼らの愚かな破滅への暴走を描いた実録犯罪映画。

あまりにも凶暴すぎるのに、観るうちに、ん? 残酷系ムービーにしてはちょっぴり毛色が違う??? 不謹慎を承知のうえで言わせて頂きますと、人殺しを企てる家族の会話がとにかく無邪気。そして実際の殺人シーンでは何故か、笑いさえこみ上げてくる。

…と言っても、決してコメディタッチに描いているわけではなく、実行犯だった次男の獄中手記をベースとした原作を忠実に映像化するとこうなっちゃった…というワケなのです。

本作で初主演を飾った間宮祥太朗をはじめ、殺人家族へと化していく父・六平直政、母・入江加奈子、長男・毎熊克哉の振り切った怪演も見事。

コンプライアンスが重視されるあまり、ちょっぴり窮屈になっている映像業界に一石を投じる作品です。

<作品情報>

帝一の國
DVD&Bluray 発売中
監督:永井聡
原作:古屋兎丸(「帝一の國」集英社ジャンプコミックス)
出演:菅田将暉、野村周平、竹内涼真、間宮祥太朗、志尊淳、千葉雄大、永野芽郁、吉田鋼太郎 ほか
©2017フジテレビジョン 集英社 東宝 ©古屋兎丸/集英社
公式サイト http://teiichi.jp/

散歩する侵略者
監督:黒沢清
原作:前川知大『散歩する侵略者』(角川文庫)
出演:長澤まさみ、松田龍平、高杉真宙、恒松祐里、長谷川博己、前田敦子、満島真之介、児嶋一哉、光石研、東出昌大、小泉今日子、笹野高史 ほか
©2017『散歩する侵略者』製作委員会
公式サイト http://sanpo-movie.jp/

TAP -THE LAST SHOW-
DVD&Blu-ray発売中
監督:水谷豊
出演:水谷豊、北乃きい、清水夏生、西川大貴、HAMACHI、太田彩乃、佐藤瑞希、さな、六平直政、前田美波里、岸部一徳 ほか
©TAP Film Partners
公式サイト tap-movie.jp

スプリング、ハズ、カム
監督・脚本・編集:吉野竜平
出演:柳家喬太郎、石井杏奈、朴璐美、角田晃広(東京 03)、柳川慶子、石橋けい、平子祐希(アルコ&ピース)、ラサール石井、山村紅葉 ほか
©『スプリング、ハズ、カム』製作委員会
公式サイト http://springhascome.xyz/

全員死刑
監督・脚本:小林勇貴
出演:間宮祥太朗、毎熊克哉、六平直政、入絵加奈子、清水葉月、落合モトキ、藤原季節、鳥居みゆき ほか
©2017「全員死刑」製作委員会
公式サイト http://shikei-family.jp/

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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