本日11月28日は、原田知世の誕生日。あの「時をかける少女」が、今日で50歳を迎えるなんて

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【大人のMusic Calendar】

本日11月28日は、原田知世の誕生日。あの「時をかける少女」が、今日で50歳を迎えるなんてと、時の流れに思いきり切なくなりそうだけど、現在の彼女を前にすると数字なんていかに無意味かを思い知らされる。特に、維持し続けた鮮度に年輪ゆえの輝きが加わり、相変わらずのエッジの強さに勇気を与えられるのがその音楽活動だ。というわけで今回は、活動初期を中心に知世の音楽ワールドについて振り返ってみたい。

1981年暮、トップアイドル女優の座を揺るぎないものとした薬師丸ひろ子が、大学受験準備を理由に突如活動一時停止を宣言。所属していた角川春樹事務所は、ポストひろ子的存在の確保に向けて、東宝と共同でオーディションを開催。グランプリを獲得した渡辺典子と共に、特別賞を受賞し晴れて角川に迎え入れられたのが、原田知世だった。ひろ子主演で大ヒットを記録した映画「セーラー服と機関銃」のテレビドラマ版リメイクに主演という大役を得て、翌年7月5日にテレビデビュー。後に長澤まさみ、橋本環奈へと引き継がれる歴代「星泉」の中では、最も地味な存在に感じられるが、この段階ですでに大器ぶりのかけらを覗かせていた。初めてのシングルは、同じく7月5日リリースされた同ドラマの主題歌「悲しいくらいほんとの話」である。作詞作曲編曲ともひろ子版「セーラー服と機関銃」と同じスタッフを起用し、相乗効果を狙ったが、チャートでは最高41位止まりで終わった。もっとも、のちの大ブレイク後改めて買ったファンも多く、チャート入りしていない期間にも相当売り上げが伸びたと思われる。続くシングル「ときめきのアクシデント」(こちらもひろ子のヒット作「ねらわれた学園」のドラマリメイクに使用された)に関しても同様で、こちらはチャート上では67位が最高順位となっている。

本日11月28日は、原田知世の誕生日。あの「時をかける少女」が、今日で50歳を迎えるなんて

そんな知世の大ブレイク作品となったのが、言うまでもない、翌年4月リリースされた「時をかける少女」だ。無事玉川大学に入学したひろ子の復帰作「探偵物語」と併映された、彼女の初主演映画の同名テーマ曲として、松任谷由実により書き下ろされた作品である。当時、熱烈な知世ファンと化していた友達に誘われて、この二本立てを観に行ったが、ナイアガラファンとして「探偵物語」のレコードをすでに買っていた位の興味しかなかった筆者は、映画館を出る頃には完全に知世の虜となっていた。古風な尾道の町中に映えるナチュラルな乙女の姿。劇中歌として歌われた「愛のためいき」の不思議な存在感(これは大林宣彦監督自らの作曲によるもの)。全てが心に訴えかけた。この主題歌もオリコン2位に達する超大ヒットを記録し、トップアイドルの座はこれで揺るぎないものとなった。
とはいえ、そのアンニュイな歌声、ユーミンの楽曲などで、当時隆盛を極めていた「アイドルポップ主流」とは異質のカリスマ性を既に運命付けられていた彼女だが、まさかその34年後の現在に至るまでそれを維持することになるとは、誰が予想しただろうか。例えば同類と思われただろう安田成美が、極僅かの歌唱作品を残しながらもトレンディドラマの女王を経て、堅実な奥さんの座にあっさり収まってしまったのとは対照的に。これ以降の歌手活動の歩みを追ってみると、何となくその要因が見えてくる。

本日11月28日は、原田知世の誕生日。あの「時をかける少女」が、今日で50歳を迎えるなんて

「時かけ」の1983年は、誕生日にリリースされた『バースデイ・アルバム』で幕を閉じる。既発のシングル曲の別ヴァージョンや限定リリースシングル曲に交じって、唯一収録された完全新曲「地下鉄のザジ」は、大貫妙子の手によるマジカルなガールポップの奇跡的一曲で、長きに渡ってそこでしか聴けないレア曲だった。翌年の誕生日にも同傾向の6曲入りミニアルバム『撫子純情』を発表しており、こちらは坂本龍一がプロデュースを担当した新曲中心の構成。最先端のデジタルサウンドに彩られた乙女の純情が眩しすぎる一枚である。
映画の方では「愛情物語」「天国にいちばん近い島」「早春物語」と大ヒット作に恵まれ、そのテーマ曲もコンスタントにヒットさせていた知世は、1987年に角川から独立。角川時代末期から、従来より冒険的な楽曲に挑み始め、アーティスティックな新生面を打ち出していた彼女だが、この「ソニー後期〜フォーライフ前期」の作品を見過ごすことは決してできない。12枚目のシングル「彼と彼女のソネット」では、フレンチ・ポップスのカヴァーに挑み、新たなファンを獲得することに成功。こうした冒険が身を結び、97年にはスウェディッシュ・ポップの大物、トーレ・ヨハンソンをプロデュースに迎え、一連の洋楽志向の強いアルバム制作へと連なる。小中学生の頃、知世を通じてユーミンや大貫妙子の世界に触れたと思われる層が、90年代渋谷系ムーヴメントの中核を成していたというのが筆者の見方なので、ここでトーレと知世が結びついたのはある意味必然だったのかもしれない。

本日11月28日は、原田知世の誕生日。あの「時をかける少女」が、今日で50歳を迎えるなんて

2007年には、実は映画「天国にいちばん近い島」で早々と共演を果たしていた高橋幸宏らと新バンド "pupa" を結成。さらに若手インディーズ系アーティストとも積極的にコラボレーションを行い、決して後ろ向きにはならない音楽活動を現在も展開している。この記事を書くために、かつてのレコードを久々に引っ張り出してみたが、初期のレコードは軒並み眩しいばかりの透明盤でプレスされており、まさにこの無色透明な感覚こそが知世の魅力なんだなと、改めて思い知った次第だ。

「悲しいくらいほんとの話」「時をかける少女」撮影協力:鈴木啓之
「彼と彼女のソネット」写真提供:ソニー・ミュージックダイレクト
ソニーミュージック原田知世公式サイトはこちら>

【著者】丸芽志悟 (まるめ・しご) : 不毛な青春時代〜レコード会社勤務を経て、ネットを拠点とする「好き者」として音楽啓蒙活動を開始。『アングラ・カーニバル』『60sビート・ガールズ・コレクション』(共にテイチク)等再発CDの共同監修、ライヴ及びDJイベントの主催をFine Vacation Company名義で手がける。近年は即興演奏を軸とした自由形態バンドRacco-1000を率い活動、フルートなどを担当。 5月3タイトルが発売された初監修コンピレーションアルバム『コロムビア・ガールズ伝説』の続編として、新たに2タイトルが10月25日発売された。
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