東南アジア諸国が南シナ海問題について触れなくなったのはなぜか?

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11/17(金)FM93AM1242ニッポン放送『高嶋ひでたけのあさラジ!』今日の聴きどころ!②

中国と周辺諸国の付き合い方
7:02~ひでたけのニュースガツンと言わせて!:コメンテーター宮家邦彦(外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

ASEAN首脳会議から消えた「懸念」の文字

東南アジア諸国連合(ASEAN)は2014年5月から南シナ海問題について「深刻な懸念」という表現を使ってきた。ところが今年からこの「懸念」の文字が消えている。東南アジア諸国と中国との関係性、中国と28億円の商談をまとめたトランプ大統領について元外交官の宮家邦彦に聞く。

高嶋)南シナ海問題で忘れもしない2014年5月の首脳会議(ASEAN)の後「深刻な懸念」と。そうしたら今度はずっと毎年言っていた“懸念”の文字が消えてしまった。

宮家)そっちの方が懸念ですけどね。

高嶋)トランプさんはアメリカに帰って自慢の数々。いくら商談をまとめたとか、北朝鮮問題について中国にガツンと言ってやったみたいな。これは外交官のベテランである宮家さんの分析ではどう取ったらよろしいのですか? “懸念”が消えたというのは。

宮家)2つ理由があると思いますね。1つはアメリカの新しい大統領に中国がものすごく接近をして働きかけをするわけですよね。そして「中国に来て下さい」と言って大歓迎をして、これがホロっと来てしまうのか分からないけども、オバマさんのときも最初は「中国がそこまで言うなら」ということで中国に付き合ったわけですよ。だけど結局は訪中してもあまり中国は成果を出さないし、COP(気候変動枠組条約締約国会議)の温暖化の問題でも全然協力しないしと、段々オバマさんも「中国って変な国なんじゃないの?」と思い始めた、これが後半なのですよね。

高嶋)1回は華を持たせるというか、最初の印象は大変素晴らしいと。

宮家)だからある程度はお付き合いをしたのでしょうね。今回の場合、去年だったら人工島ができて大騒ぎをした直後でしたから「深刻な懸念」という言葉を使ったけども、そら中国だって敵もさることながらちゃんと巻き返しをしているわけですよ。フィリピンを取り込み、ベトナムを取り込み、黙らせてくる。そうすると「去年はああだったけどね……」ということになって消えてしまったのかもしれない。

ドゥテルテ

共同記者発表に臨むフィリピンのドゥテルテ大統領=2017年10月30日午後、首相官邸 写真提供:産経新聞社

東南アジア諸国の中国との付き合い方 現状維持が最優先

高嶋)皆だんまりを決め込んで、特に「えっ?」と思ったのはフィリピンのドゥテルテ大統領とか、あんなに悪口雑言を尽くしていたのに、どうしてしまったのですか?

宮家)やはり彼は現実主義者ですから、フィリピンは中国と喧嘩して勝てるわけがないですよね。下手に衝突したらまた島を盗られてしまいますよ。島を盗られてしまったら彼の国内的政治的威信というのは地に落ちてしまいますから、そんなことをするくらいだったらとにかく現状維持をしながら中国からも金を取って日本からも協力をさせてアメリカからも金を持って来て、とにかくフィリピン経済を何とかしなければならないと、その方が大事だと思っているのではないですかね。

高嶋)ベトナムも自分のところで会議をやっていたのに。

宮家)やはり相当注射が効いているのですかね。そらすごいですよ、中国は陸続きですから、東南アジアの国々に対する圧力や働きかけはとても強いですよ。

トランプ大統領

日米ビジネスリーダーとの会合で、テキサス州で発生した銃乱射事件について言及するトランプ米大統領(右)=2017年11月6日、東京都港区の駐日米大使公邸 写真提供:産経新聞社

中国と28兆円の商談をまとめたトランプ大統領 アメリカ大統領は最初は中国に騙される?

高嶋)トランプさんが国に帰って一番自慢した28兆円の中国との貿易。「やったぜ」みたいな。これは何だか“張り子の虎”という説があるようですが(笑)。

宮家)まあスカスカじゃないですか。要するに数字を寄せ集めただけですから、だってボーイング製飛行機300機買うと言ったって1年に300機なんて買えるわけがないのですからね。やはり5年とか10年かかるわけでしょう。ということは延べで何年も先のものも含めてなんぼだと言っているわけだから、あまり意味のある数字ではないということですよ。そういう意味ではトランプさんは外交をやっていたような振りをして結局内政をやっていたのだなと、そういう気がします。

高嶋)それは素人目にも、私もそう思いましたね。

宮家)もう見え見えですよね。国内の支持者に対するメッセージの方が多かったような気がします。

高嶋)ということは中国側から見れば「ああ、今度来た大統領もちょろいわ」というようなことなのですかね?

宮家)そうだと思いますけどね。だけど最初はアメリカの大統領も騙されるのですよ。だけどその内に分かってくるわけです。「あ、もしかして俺やられちゃったかな?」と。その後の方が、そういうことは織り込み済みで中国側もやっていると思うので、そこはすごいなと思いますけどね。

高嶋)傍から見れば政権の盤石度というのは習近平さんはガチガチですね。

宮家)盤石と言っても独裁ですからね。しかもそれだけどんどん牢屋に入れているのだから、そら強くなるに決まっていますよ。

高嶋)トランプさんは来年の中間選挙がありますから、それによってどうなるかという“懸念”もありますよね。

宮家)そっちの懸念の方が大きいかもしれない。

高嶋)今のところは両方とも内心「勝った勝った」と言っているのですかね?

宮家)引き分けです。

高嶋ひでたけのあさラジ!
FM93AM1242ニッポン放送 月~金 6:00~8:00

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