あけの語りびと

『現代の名工』フランス料理店「ヌキテパ」店主・田辺年男の数奇な半生

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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

ヌキテパ

こちらがフランス料理のレストラン『ヌキテパ』です(Ne Quittez pas ヌキテパ 五反田ー季節の海産物と畑のフランス料理Facebookより)

厚生労働省は、このほど、平成29年度の卓越した技能者「現代の名工」の表彰対象者149名を決定。今月6日、都内のホテルで表彰式を行いました。「現代の名工」というと、従来は、金属加工、建設、木工などの分野から選ばれることが多かったのですが、近年では、ソムリエ、パティシエなど飲食業、サービス業の分野からも表彰者が選ばれるようになりました。

東京・五反田の閑静な住宅街にある一軒家のレストラン『ヌキテパ』のオーナーシェフ、田辺年男さんも今年の表彰者の一人。ご当人は「何で選ばれたのか、全然分かんない。何だか照れ臭いなぁ」といたって控え目ですが、田辺さんのこれまでの数奇な半生を紹介すれば、きっと誰もが納得することでしょう。

『現代の名工』フランス料理店「ヌキテパ」店主・田辺年男の数奇な半生

右上が田辺年男さん みなさん素敵な笑顔です(Ne Quittez pas ヌキテパ 五反田ー季節の海産物と畑のフランス料理Facebookより)

田辺年男さんは、68歳。元は日本体育大学の体操選手だったそうです。当時の日体大の体操部員は、何と400名! その中から選ばれた9人のオリンピック候補の一人で、ミュンヘン・オリンピックを目指したそうです。鉄棒、平行棒、吊り輪を得意とした田辺さんですが、不運にも肩を壊し体操もオリンピックも断念しなければならなくなりました。

就職活動を始めようかという時、ふと頭をかすめたのは、「大好きだったボクシングを、思いっきりやってみたい!」という想い。田辺さんは、当時は目黒にあった名門、野口ジムの門を叩いたのです。アスリートとしての体が出来上がっていたのでしょう。たった3カ月でプロテストに合格! 日本バンタム級のボクサーとしてデビューします。

プロボクサー生活は、6年続きました。残した戦績は、5戦無敗。「体操は無理だったけれど、ボクシングでまた世界を目指せるのでは」と思い始めた矢先のこと、心臓の病でドクターストップがかかったのです。

『現代の名工』フランス料理店「ヌキテパ」店主・田辺年男の数奇な半生

ヌキテパの店内 あたたかくて優雅な雰囲気ですね(Ne Quittez pas ヌキテパ 五反田ー季節の海産物と畑のフランス料理Facebookより)

「俺は、何をやってるんだろう?」親の顔が胸に浮かんだといいます。行きつけのおでんの屋台で一杯やりながら、親父さんに愚痴をこぼしました。「あ~あ、これから一体、どーしたらいいいんだろう?」すると、親父さんは明るく笑いながら、こう言い放ったそうです。「あんた、おでんの屋台でも引いてみないか?」

ボクサーの道を断念して、歌舞伎町で引き始めた屋台。おでんは、面白いように売れたといいます。「ああ、楽しい! 俺って、飲食業に向いてるかも知れない!」とは思いつつ、心の底で頭をもたげたのは、こんな想いでした。「おでんじゃ世界は狙えない! 世界を目指すなら、フランス料理だ!」

ビストロ・ド・ラ・シテ

田辺さんの修行した西麻布のフランス料理店「ビストロ・ド・ラ・シテ」(ビストロ・ド・ラ・シテHPより)

結局、歌舞伎町とは、半年でおさらば!田辺さんは、西麻布のフランス料理店「ビストロ・ド・ラ・シテ」に研修生として入り込み、本格的なフランス料理の修業をスタートします。ちょうど、30歳になっていました。

田辺さんのチャレンジは、これだけでは止まりません。翌年、田辺さんはフランスへ単身、渡ってしまったのです。言葉も何も分からない田辺さんは、ミシュランの星付きレストラン、『ラ・マレ』へ通い、自分の願いを紙に書いて伝えようとしました。

『現代の名工』フランス料理店「ヌキテパ」店主・田辺年男の数奇な半生

こちらが素材の持つ“味のピュアさ”にこだわり続けたヌキテパの料理です(Ne Quittez pas ヌキテパ 五反田ー季節の海産物と畑のフランス料理Facebookより)

3回行って、3回とも門前払い。シャンゼリゼを歩いていると、ジャル・パックのカウンターがあって、日本人のスタッフが見えました。「ラ・マレで働きたいんです。一緒に行って通訳してもらえませんか」というあまりにも大胆な頼み。ところが、大森という男性スタッフが、この願いを聞き入れて、『ラ・マレ』での食事に付き合ってくれたそうです。

*オーナーは日本人が大嫌い *経験が無ければダメ *あきらめるべき
いろんなことが分かりました。田辺さんは、ここで宣言します。「分かりました。その代わり、このお店のメニューを全部食べます。それで、あきらめがつきます」

その店に通い、メニューを食べ尽くすには、一カ月半かかったといいます。そしていよいよ最後の日、シェフがカレンダーの12月1日を指さしました。それは「この日から、来てもいいよ」というサインでした。

『現代の名工』フランス料理店「ヌキテパ」店主・田辺年男の数奇な半生

名物のハマグリの炭火焼き 何も手を加えずに素材と火入れにこだわっています(Ne Quittez pas ヌキテパ 五反田ー季節の海産物と畑のフランス料理Facebookより)

田辺さんは、パリの星付きレストラン「エスペランス」「ヴィヴァロア」などでも修業を積み上げて帰国。銀座、六本木などでさらに修業。三浦半島の三崎まで毎日通い、徹底していい食材を手に入れました。

1994年、現在のところに売り出し中だったドイツ大使の邸宅を見つけ、『ヌキテパ』を開店。それからも、食材第一の精神は活かされています。名物は、ハマグリの炭火焼き磯魚(いそざかな)のスープスイカのケーキ、そして何と、世界50カ国から取材が殺到したという「土のスープ」や「土のアイスクリーム」も見逃せません。

田辺さんの飽くなきチャレンジ精神は、まだまだ尽きないようです。

ヌキテパ

一度はこの看板の奥にある至福の料理を味わってみたいですね(Ne Quittez pas ヌキテパ 五反田ー季節の海産物と畑のフランス料理Facebookより)

上柳昌彦あさぼらけ 『あけの語りびと』
2017年11月15日(水) 上柳昌彦 あさぼらけ あけの語りびと より

朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ

番組情報

上柳昌彦 あさぼらけ

月曜 5:00-6:00 火-金曜 4:30-6:00

番組HP

眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ

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