シリーズ「駅弁屋さんの厨房ですよ!」(vol.2「丸政」編①)~小淵沢駅「甲州かつサンド」(700円) 【ライター望月の駅弁膝栗毛】

ライター望月が駅弁屋さんの厨房を訪問、駅弁作りの現場に迫っていくシリーズ「駅弁屋さんの厨房ですよ!」。
4月に訪問した静岡・伊東駅の「祇園」に続く第2弾は、山梨・小淵沢(こぶちざわ)駅の「丸政(まるまさ)」を訪ねます。
八ヶ岳・南アルプスのふもと、標高800mを超える高原の駅・小淵沢で生み出されてきた数々の名駅弁。
その伝統を守りながら、新商品の開発も積極的に行っている駅弁屋さんでもあります。
間もなく来る夏山シーズン、清里・野辺山といった避暑地への乗換駅となる「小淵沢」で、いかにして駅弁が作られているのでしょうか?

【前回】シリーズ「駅弁屋さんの厨房ですよ!」(vol.1「祇園」編)~伊東駅「いなり寿し」(600円)
http://www.1242.com/lf/articles/3084/

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小淵沢への旅立ちは、新宿8:00ちょうど発の中央本線の特急「スーパーあずさ5号」松本行。
E351系電車の12両編成で運行、新宿~松本間は途中、立川、八王子、甲府、小淵沢、茅野、上諏訪、岡谷、塩尻に停まって2時間38分で走破します。
せっかく信州・松本へ向かう「あずさ」に乗るなら、何はともあれ「8時ちょうど」の列車に乗ってみたいもの。
新宿発8時ちょうどの列車が「あずさ2号」だったのは、歌が出てから1年半あまりの間で、昭和53(1978)年10月以降は「あずさ3号」になりました。
ちなみに現在の「あずさ2号」は松本6:08発の上り列車として運行されており、新宿をスルーして、終点の東京には9:26に到着します。

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(上画像は平成26(2014)年8月の車窓)

東京~名古屋間を結ぶ「中央本線」のうち、東京~塩尻間は通称「中央東線」と呼ばれます。
「中央東線」は東京・高尾から先、通勤路線から一気に山岳路線に変貌を遂げるのが印象的。
E351系電車も小仏峠をぐいぐい登り、相模湖沿いを抜けて、大月の先で笹子峠越えに挑みます。
長い笹子トンネルをくぐって、勝沼ぶどう郷~塩山間では、眼下に甲府盆地と南アルプスの山並みを一望。
眼下にぶどう畑が広がる景色を見ると旅気分もアップ、「山梨に来たなぁ」という気持ちになります。
電車がモーターを唸らせて「山登り」に挑む様子を体感したいのと、この景色をワイドに見るために「スーパーあずさ」の指定を取る時は、いつもモーターのある車両の進行方向左側「D席・奇数番」を指名買いしています。

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特急「スーパーあずさ5号」はラッシュに伴う中央快速線内の遅れを取り戻し、定刻通り9:53に小淵沢到着。
4分の待ち合わせで小淵沢9:57発、小海線の普通列車・小諸行に接続しています。
清里・野辺山方面へは重宝な列車ですが、接続するのがキハ110系気動車の2両編成。
私の経験上、空いている時期は問題ありませんが、繁忙期は30分前に新宿を出る「あずさ3号」(千葉始発)で先行するのが無難かも。
なお、小淵沢からの小海線では清里・野辺山の2駅のみ、Suicaなどの交通系ICカードが使えます。

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そんな小海線が発着する小淵沢駅の4・5番線ホームの向こうに見えるのが、大きな「元気甲斐」の文字。
コチラが大正7(1918)年創業、小淵沢駅では昭和19(1944)年から駅弁を販売している「株式会社 丸政」です。
現在は小淵沢をはじめ、中央東線の茅野や甲府、首都圏の各駅でもすっかりおなじみとなった「丸政」の駅弁。
これらの駅弁が、小淵沢駅裏の厨房で作られて、各地へと配送されています。
東京駅などで朝から販売される商品も、深夜のうちに調製され、中央道を使って送っているということです。

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早速「丸政」の社屋に入りますと、有名駅弁「元気甲斐」「高原野菜とカツの弁当」の幟が・・・。
「元気甲斐」は昭和60(1985)年発売で30年以上、「高原野菜とカツの弁当」は昭和45(1970)年発売で45年以上のロングセラー駅弁です。
特に「元気甲斐」はテレビ朝日の番組「愛川欽也の探検レストラン」の企画と共に作られた駅弁で、その開発過程はTVでも放映されました。
テレ朝の夜10時台というとニュース番組のイメージが強いですが、その前は「探検レストラン」とか「特捜最前線」とかやってたんですよね。
その横には、5月に「河口湖駅」で見かけた立売りのケースが・・・インバウンドのお客さんにも立売りのケースは人気だそうです。

*こちらの記事でも丸政の駅弁をご紹介させて頂いています。↓↓
成田エクスプレスで「富士山」へ行ける!~小淵沢駅「小淵沢丸政の信州牛御瓣當」(1,800円)
http://www.1242.com/lf/articles/4580/

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白衣を着用、アクセサリーなどを外して、入念な手洗い、消毒を経て、健康状態をチェックシートに記入。
衛生状態の厳重なチェックを受けて、ついに「丸政」の厨房へお邪魔しました。
「丸政」にはお客さんからの注文を受けてから作る駅弁が2種類あります。
1つは「甲州かつサンド」(700円)、もう1つが「直火炊き山菜とり釜めし」(1,000円)。
この2つの駅弁がどのようにして出来上がっていくのか、2回に分けてお届けしていきたいと思います。

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今回は「甲州かつサンド」をクローズアップ。
小淵沢駅では受け取り30分前までの予約限定駅弁となっています。(受付9:00~16:00まで、電話:0551-36-2521)
「甲州かつサンド」に使用しているのは、甲州富士桜ポークのロース肉。
ただ1枚肉ではなく、駅弁ならではの「冷めても柔らかい」を実現するために薄切り肉を重ね合わせたかつ、いわゆる”ミルフィーユカツ”にしているのが特徴です。
注文を受けますと、肉に衣をつけて・・・揚げていきますよ!

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甲州富士桜ポークのカツが油の海を泳ぎだせば、ん~!ちょっと懐かしい感じの香ばしい匂い!!
実は「丸政」のカツサンドは、味にこだわるためにラードの油を使って揚げているのです。
このため厨房には「カツサンド」専用のフライヤーが用意されています。
これと別に「高原野菜とカツの弁当」のチキンカツなどを揚げるフライヤーも・・・。
日中時間帯は、突然の注文にも対応できるようにスタンバイさせてあるそうです。

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5分ほど経って、衣がきつね色になってきたところで、カツが上げられました。
程なく揚がったばかりのカツにサッと当てられたのは、揚物の中の温度を測ることが出来る温度計。
駅弁屋さんの揚げ物にとって最も大事なコトは「キチンと中まで火が通っている」こと。
安全なモノを出すために1つ1つ、規定の温度に達しているかどうか数値でチェックしているんです。
カツ1枚、適当にカンで揚げているものではないんですね。

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揚がったカツは特製ソースにサッとくぐらせます。
ソースの匂いと黒光りが何とも言えません!

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ソースを身にまとってキラキラ輝いたカツが、ふわふわの食パンとシャキシャキの千切りキャベツの座布団に鎮座。
カツがホントに気持ちよさそう!
これまでの手間を見てきたせいか、既にこの段階でカツそのものに愛おしさを感じてきてしまいました。
八ヶ岳高原のお膝元「高原野菜とカツの弁当」を持つ「丸政」ですから、キャベツなど葉物野菜のクオリティは当たり前のように高い!
ただ、駅の売店に届くまでには「30分」の猶予のみ・・・タイムリミットが刻一刻と近づいていきます。

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パンの耳を落として「サクッ!」という音と共に、カツサンドがサンドイッチナイフによって3つに切り分けられていきます。
上から力が加わることで、表面のソース、カツから溢れ出た肉汁がパンの生地にしみ込んでいく感じ・・・。
コレだからカツサンドはたまらない!!

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形を崩さぬよう、手際よくトレーに移されました。

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かつサンドが入ったトレーが紙の容器に入れられ、ビニールのシートがかぶせられます。
まだカツがアツアツなので、シートが一瞬で曇っていくのが分かります。
その上にお手拭きとマスタードが添えられました。

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セロテープで封がされ、賞味期限などのシールが添付されて「丸政」名物「甲州かつサンド」の完成です!!
ここまでにかかった時間は30分を大きく下回って、15分から20分弱といったところ。
実は駅までの輸送時間などに10分程度の余裕をみて、注文から「30分」という時間がはじき出されていた訳ですね。
手にすると、当然ながら揚げたてのカツの温もりが・・・。
たった今、封がされたばかりですが、今スグにも剥がしてかぶりつきたい!

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蓋を開ければ、ソースの匂いが一気に溢れ出て食欲をそそりますが・・・はやる気持ちを抑えて、まずは「甲州かつサンド」をじっくり鑑賞。
何層にも重なった「甲州富士桜ポーク」のロース肉と、しっかり刻まれた千切りキャベツがビジュアル的にも調和していて美しい!
やっぱり「駅弁」って工程がシンプルで時間をかけずに出来ること、それでいてアートのような”作品性”も両立しているんですよね。
使われている「甲州富士桜ポーク」は、山梨県が開発した「フジザクラ」の血を継ぐ雌に、平成24(2012)年に完成した「フジザクラDB」の雄を交配して生産された豚。
きめ細やかでやわらかい食感、保水性が高く、ジューシーな口当たり、ボリューム感あるロースが特徴とされる山梨のブランド豚です。

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パン生地のフワッとしたやさしい歯ざわりに迎えられ、そのままザクッといくのが何とも心地いい!
肉の旨み、キャベツのフレッシュ感、ソースの香ばしさが三位一体となって、食べた瞬間から体じゅうに浸透していく感じ。
カツの温もりがそのまま作り手の方の温もり、駅弁への思いとシンクロする感じもいいんですよね。
私は個人ブログでこの駅弁を「日本一食感のいいカツサンド」と書いたことがありますが、製造現場を見て改めてその思いは強くなりました。
しかもコストのかかる地元産食材を使った上で、出来たて手作りカツサンドが「700円」というのは十分に安い!

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小淵沢駅を後に、甲州から信州へ向かってグイグイと山を登っていく特急「スーパーあずさ」。
「かつサンド」のために、敢えて小淵沢で1本、列車を落としてみるのも悪くないハズ・・・。
下り「スーパーあずさ・あずさ」であれば、塩山付近でトンネルが無くなった辺りが予約の最終タイミング。
下り普通列車であれば、甲府駅での乗換時間や長時間停車の間に予約をしておくのがイイかと思います。

さあ、次回は駅弁屋さんの”本気の釜めし”を追っかけていきます。

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
「ライター望月の駅弁膝栗毛」
(取材・文:望月崇史)

【ごあいさつ】
はじめまして、放送作家の望月崇史(もちづき・たかふみ)と申します。
ニッポン放送には、昔の有楽町の社屋の頃から、かれこれ20年お世話になっています。
最近では、月~木・深夜24時からの「ミュ~コミ+プラス」で放送された、
ルートハンター」のコーナーに、5年ほど出演させていただきました。

そんな私がライフワークとしているのが「駅弁」の食べ歩き。
1年間に食べる「駅弁」の数は多い年でのべ500個。
通算でも4500個を超えているものと思います。
きっかけとなったのも、実はニッポン放送の番組。
2002年~05年に放送された「井筒和幸の土曜ニュースアドベンチャー」の
番組ウェブサイトで「ライター望月の駅弁膝栗毛」を連載することになり、
本格的に「全国の駅弁をひたすら食べまくる生活」に入りました。
以来、私自身のサイトや、近年は「ライター望月の駅弁いい気分」というブログで
「1日1駅弁」を基本に「駅弁」の紹介を続けています。
”駅弁生活15年目”、縁あってニッポン放送のサイトで連載させていただくことになりました。
3つの原則で「駅弁」の紹介をしていきたいと思います。

①1日1駅弁
②駅弁は現地購入
③駅弁のある「旅」も紹介

「1日1駅弁」ですので、日によって情報の濃淡はありますが、
出来るだけ旬の駅弁と鉄道旅の魅力をアップしていきますので、
ゆるりとお付き合い下さい。

【プロフィール】

望月崇史(もちづき・たかふみ)望月

1975年12月8日静岡県生まれ。
早稲田大学在学中から、ニッポン放送で放送作家に。
卒業後の2002年「井筒和幸の土曜ニュースアドベンチャー」の番組サイトで始めた
ライター望月の駅弁膝栗毛」をきっかけに、全国の駅弁食べ歩きをスタート。
以来およそ15年、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。
1日1駅弁のウェブ紹介を日課とし、これまでに食べた駅弁は4500個以上。
ニッポン放送「ミュ~コミ・プラス」ルートハンター、鉄道特番などにも出演。
丸の内朝大学・温泉クラスの講師も務める。