あけの語りびと

「幸せは人に与えてからもらうものなんだ」500円バイキング店主に心もホカホカ

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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
上柳昌彦あさぼらけ 『あけの語りびと』

群馬県桐生市を走る県道340号線沿いに、外壁をコゲ茶色の波板で囲んだ地味~なお店があります。『はっちゃん 500円ショップ』と書かれた一枚の看板・・・。ひと目見ただけでは、何のお店か分かりませんが、実はこの『はっちゃん』こそが、NHKをはじめ全国のテレビ局の取材が殺到している有名店! 500円バイキングのお店なんです。

500円=ワンコインのセルフサービスで、時間無制限の食べ放題!テイクアウトは、100グラム100円から!今ふうに言えば、何ともコスパがいい太っ腹のお店なんです。店内は30人ほどで満員。11時半の開店前から並ばなければ、『はっちゃん』のランチにありつくことは難しいでしょう。

この店を一人で切り盛りしているのは、田村はつゑさん。82歳。バイキングの台の上に並ぶのは、15種類から17種類の日替わりメニュー。サバのみそ煮、かぼちゃの煮物・煮卵・金時豆・キンピラ・イカめし・麦とろ・野菜の天ぷら・白菜漬け・うどん・そば・おにぎり・赤飯・帆立の炊込みご飯…などなど、こうしてご紹介しているだけでも、食欲がわいてきます。

遠方から来たご夫婦は、ブログにこんなふうに書き残しています。

「田舎の「おふくろの味」を想像していたのですが、一口食べてみると、どれもこれも「和食の料理屋さん」に負けない味でした」

食事を終えて店を出るお客さまに、はつゑさんの声がかかります。

「お腹いっぱいになったかい? ありがと!」

これでお客さまは、お腹だけでなく心のなかもホカホカ!
はつゑさんが言います。

「人を喜ばすことが、大好きなんだよ。店は、毎月7万円の赤字だけど、夫の厚生年金を全部つぎ込んでいる。採算がとれなくても、みんなが寄ってくれるこの店が大好きなんだ」

田村はつゑさんは小さい頃、家が貧しくて学校に行けず、子守りに出されたといいます。よその赤ん坊を背中に背負って、特にあこがれたのは、遠足や修学旅行に出かける同級生の姿。

「だから思ったんだ。いつか必ず、一人で修学旅行へ行くぞってね」

はつゑさんが、この夢を実現したのは、3人の子育てを終えた57歳のとき。

「バイクで、日本一周の旅に出かけたんです」

15年間コツコツ貯めた郵便貯金は、300万円に達していました。それを下ろして旅立とうとするはつゑさんに、ご主人はもちろん反対。

「どうしても行くんか?」「行く! 離婚してでも行く!」

こんなやり取りの末、ご主人は意を決したように「じゃあ、これも使え」と、自分の貯金から、さらに100万円を差し出してくれたといいます。

3カ月半をかけて走った日本一周の旅は、実り多いものでした。雲仙普賢岳の噴火災害の被災地や北海道の病院などへ届けた寄付・・・また、行く先々で体験した人の情けや親切のありがたさ・・・。この旅によって、はつゑさんの中では、その人生哲学が固まりました。

「人が喜べば、自分も幸せになれる」

様々なお惣菜をパックに入れて売り始めたのは、62歳のとき。

「ここに、ご飯と味噌汁があれば、店が開けるのに」

そんなお客さまの言葉から「はっちゃん 500円ショップ」が誕生しました。今も毎日、バイクで買い出しに出かけ、15種類以上の総菜を作るはつゑさんは言います。

「最初から幸せになりたいなんて、そうはいかないよ。幸せは人に与えてから、もらうものなんだ」

2017年10月11日(水) 上柳昌彦 あさぼらけ あけの語りびと より

朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ

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