ノーベル文学賞受賞の日系英国人カズオ・イシグロ氏「私の一部はいつも日本人と思っていた」

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10/6(金)FM93AM1242ニッポン放送『高嶋ひでたけのあさラジ!』今日の聴きどころ!③

「すばらしく、まったく予想していなかったニュース」と会見
7:10~やじうまニュースネットワーク:コメンテーター宮家邦彦(元外交官・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

カズオ・イシグロ

ノーベル文学賞授賞の発表を受けて記者団の取材に応じる日系英国人作家のカズオ・イシグロ氏(イギリス・ロンドン)2017年10月5日 写真提供:時事通信

日系イギリス人であるカズオ・イシグロ氏がノーベル文学賞を受賞

今年のノーベル文学賞に、長崎市生まれのイギリス人小説家、カズオ・イシグロ氏が選ばれました。日本出身の作家としては、川端康成、大江健三郎氏に次いで3人目で、23年ぶりの受賞となります。

今年のノーベル文学賞に決まった、長崎市生まれのイギリス人小説家、カズオ・イシグロさんは、62歳です。代表作「日の名残り」や「わたしを離さないで」などで知られており、スウェーデン・アカデミーの事務局長は、「完成度の高い作家だ。イギリスの作家ジェーン・オースティンと、チェコの小説家カフカの要素を併せ持っている」と評価しました。イシグロ氏は、ロンドンの出版社で記者会見をしました。英語で、「すばらしく、まったく予想していなかったニュースだ。世界で価値観とリーダーシップ、安定が揺らいでいる時代に、この出来事が起きた」と述べていました。また、別の会見では、「私の一部はいつも日本人と思っていた」とも語っています。

イシグロさんは日本人の両親の間に生まれ、海洋学者だった父親の仕事の関係で、5歳でイギリスへ渡り、80年代前半にイギリス国籍を取得しています。そして、英語で執筆しています。イースト・アングリア大学大学院で学び、1981年、27歳のときに短編小説を皮切りに、翌82年、28歳で、イギリスに在住する長崎出身の女性の回想を描いた長編小説「遠い山なみの光」で、王立文学協会賞を受賞しています。

そして、1989年の「日の名残り」で、イギリスで最も、権威のある文学賞「ブッカー賞」を受賞。貴族に仕えた執事の苦悩を描いたこの作品は、アンソニー・ホプキンス氏主演で、映画化もされています。「日本語はほとんど話せない」と言うイシグロ氏ですが、「11歳のときに、母親と一緒にテレビで見た、小津安二郎監督の「東京物語」で、長崎の記憶が蘇った」とのことです。

現在、邦訳を独占的に刊行する、早川書房のイシグロ氏の担当者は、「当然、受賞するべき作家だ。これから対応についての会議です」と、声を弾ませていたとのことです。

わたしを離さないで カズオ・イシグロ

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イシグロ氏は母国語として英語で抽象的な思考をする

高嶋)宮家さんは外交官の立場から、いかに両親が日本人であろうと、イギリスに渡って、5歳で、ずっとイギリスの風土で育った彼が作家になって、そしてここまで書き上げるような、すごい大作家になった。これに対して、その努力をいろいろなところから見ますね。大変ですか、やはり?

宮家)先ほどの英語を聞いていて、目を閉じて聞いても、まったくイギリス英語で、訛りがない。ということは、5歳で渡英して、完全にイギリスの社会にとけ込んだ。しかし、実際には両親は日本人ですから、すごく苦労したと思います。ですが、あれだけの文学を27歳で書けるということは、それは英語の表現力を、完璧に体得したということですよ。
逆に言うと、たとえば私の甥がそうですが、両親が日本人ですがアメリカにいて、「英語と日本語、両方を喋らせたい」と、バイリンガルにしたいと親は思うじゃないですか。ところが、子どもにとって、それはものすごいプレッシャーなのですよ。ですから、彼の場合、日本語は話せないかもしれないけれど、日本の魂がどこか英語に乗っかって、それが開花した、希有な例ですね。両方喋れたら、逆にあんな文は書けなかったかもしれない。だから、「面白いな、スゴい例があるんだな」と思いました。

高嶋)言葉の深さというのをね。僕は非常に上調子な人間だから、日常的な会話をフランス語やイタリア語でしていると、「あいつは3カ国語を喋れるんだ」とか。本当はそういうのは言わないらしいですね。

宮家)本当に必要なのは、抽象的な思考を、何語でやるかのなのです。それが本当の母国語になるのですよ。僕は英語を話すとき、日本語で考えてから、それを瞬時に英語に直しているわけですよ。おそらくイシグロさんは、日本のことを英語で考えて、そのまま英語にしているのです。

高嶋)つまり、完全に地は日本人だし、魂も引き継いでいるけれど、発想は完璧にイギリス人で、物事も英語で深く考えている、と。

宮家)そうです。だからこそ、英語の読者に評価される、ということなのでしょう。

高嶋)なるほど。国際社会が、いっそう深いものに見えてきましたね。

高嶋ひでたけのあさラジ!
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