『マジンガーZ』主題歌をめぐる「陰と陽」

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日本のテレビアニメ黎明期から現在に至るまで、絶えることなく続いている一大ジャンルである「ロボットアニメ」。『鉄腕アトム』(1963)が自律型、『鉄人28号』(1963)がリモコン型のロボットであったのに対し、その後のメインストリームとなる「人が乗り込んで操縦する巨大ロボット」という大発明を達成し、それらのスーパーロボットの元祖として今なお君臨する存在…… といえば、テレビアニメ『マジンガーZ』(1972)の主人公ロボット:マジンガーZと言って異論はないだろう。『週刊少年ジャンプ』(集英社)1972年10月2日号で永井豪による漫画連載がスタート。フジテレビ系のテレビアニメは、約2ケ月間を置いて12月3日に放送が始まっている。物語設定上、マジンガーZは、その間にあたる1972年の10月10日に完成したとされている。要するに、本日は「マジンガーZ完成45周年」の日なのである。

「リモコンの所有者によって善にも悪にもなる」と主題歌に歌われていた鉄人28号と同様、マジンガーZもまた、善悪の行方はそれを使う人間に委ねられることになる。マジンガーZを建造した天才科学者:兜十蔵博士は、「お前は神にも悪魔にもなれる」(漫画版)と、孫:兜甲児にマジンガーZを託して死んでいく。その後の物語では、戦闘に対して恐怖し、苦悩し、葛藤する兜甲児と、それをチームワークで乗り越える仲間たちの努力が丹念に描かれていくことになる。リモコンというモノではなく、人間:兜甲児に善悪の分別を任せたことによって、物語に厚みが生まれ、巨大ロボットが登場する物語世界を格段にリアルなものにし、ひいては「ロボットアニメ」というジャンルそのものが大きく進歩を遂げることにつながっていく。そうした物語の核心を象徴しているのが、挿入歌「Zのテーマ」で歌われる「人の頭脳や人の心が加わってこそのマジンガーZだ」というニュアンスを含んだ、ズシリと重く心に響く歌詞ではないだろうか。鉄人28号からわずか9年で、ロボットアニメ主題歌はここまで進歩してきたのである。

『マジンガーZ』放送直前、主題歌として予定されていたのは、この「Zのテーマ」(作詞:小池一雄(現:一夫)、作編曲:渡辺宙明、歌:水木一郎)であった。歌詞も曲もアレンジも完成し、ヴォーカルのレコーディングも済んだ時点で、東映のプロデューサーから「パンチが足りない」と指摘が入り、急遽、作り直されたのが、あの有名なオープニング主題歌「マジンガーZ」(作詞:東文彦、作編曲:渡辺宙明、歌:水木一郎)なのである。

作編曲を担当した渡辺宙明の述懐によると、

土曜日:「Zのテーマ」レコーディング終了。
日曜日をはさんで…
月曜日:東映のプロデューサーが聴き、即座に作り直しの判断が下る。
歌詞も作りなおし、夕方に紙原稿ではなく電話による口頭で
新たな歌詞(1番のみ)が届く。
火曜日:メロディの作曲作業。
水曜日:出来上がったメロディを関係者に確認し、OKが出る。
木曜日:フルコーラスの編曲を行い、譜面化。
金曜日:演奏および歌のレコーディング。主題歌「マジンガーZ」完成。

……というとんでもない突貫工事で出来上がったのが、アニメソング歌手の第一人者:水木一郎の不変の代表曲として45年間歌い継がれる、あの名曲「マジンガーZ」だというのだから驚かされる。今年、92歳を迎えてもなお、現役でアニメ・特撮ソングを作り続けているマエストロ:渡辺宙明は、筆者が取材でこのことを尋ねると、「1日で作曲できるか? と連絡があったときはさすがに面食らいましたが、やらざるを得ないでしょうと答え、実質4日間でレコーディングまで済んでしまいました。今思えば、「『Zのテーマ』は主題歌としては悲壮感が出すぎていたかもしれない。正しい判断だったと思いますよ」と当時を振り返り、ニコニコと笑っていた。

事実上、没主題歌となった「Zのテーマ」は、お蔵入りにするには惜しい出来栄えだとの関係者の声を受け、主題歌レコードも、オープニング、エンディングと合わせ、異例の3曲入り盤でのリリースとなり、番組中でもほぼ毎回、マジンガーZの出撃シーンに流されることになる。プロディーサーに退けられた原因は「パンチが足りない」とされているが、子ども向けとしてはやや難しい言葉が選ばれた意味深長な歌詞にも原因があったのではないだろうか。だが、この交代劇があったからこそ、外向きの華々しいカッコ良さを象徴した主題歌「マジンガーZ」と、物語の内面や本質を凝縮したような挿入歌「Zのテーマ」が、太陽と月のように併存するという、重層的なマジンガーソングの世界ができあったのも、また事実。実際、番組を見ていた子ども達にとっては、いよいよマジンガーZが出現する瞬間のBGMとして、挿入歌どころか「第二主題歌」といっても過言ではない思い入れを持って受け入れられていた。あの難しい歌詞も、その幼い心にしっかり届き、響いていたはず、と信じたい。

そして、2018年1月13日には、新作映画『劇場版 マジンガーZ / INFINITY』の公開が控えている。45年前のテレビシリーズ最終話から約10年後の世界で激闘を繰り広げるマジンガーZの姿が、3DCGで描かれるという。日本からのフィルムの輸出により、70年代からマジンガー人気の高いユーロ圏では、日本に先駆けた公開が予定されているなど、現在、世界中から注目が集まっている。

この新時代のマジンガーZで音楽を担当するのが、誰あろう、あの初代の作曲家:渡辺宙明の御子息である、同じく作曲家の渡辺俊幸だ。水木一郎による新録音のオープニングテーマ「マジンガーZ」も、「作曲:渡辺宙明、編曲:渡辺俊幸」という親子二代夢の共演という形でお目見えするようだ。「Zのテーマ」をそのまま使ってほしいとまでは言わないが、初代『マジンガーZ』が持っていた「陰と陽」の重層的な歌の世界…… 明るくカッコいい「マジンガーZ」を補完する、物語の本質を垣間見せてくれるような、意味深い「もう一つの歌」の存在に、今作でもぜひ期待したいところである。

『劇場版 マジンガーZ / INFINITY』公式サイト

【著者】不破了三(ふわ・りょうぞう):音楽ライター 、 CD企画・構成、音楽家インタビュー 、エレベーター奏法継承指弾きベーシスト。CD『水木一郎 レア・グルーヴ・トラックス』(日本コロムビア)選曲原案およびインタビューを担当。
『マジンガーZ』主題歌をめぐる「陰と陽」

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