GO!GO!ドーナツ盤ハンター

植木等、無責任男の役作りに苦労した真面目男

昨今のアナログ盤ブームで、改めて注目されているのが歌謡曲のレコード。デジタル音源より音に厚みがあり、またCDでは味わえないジャケットの大きさも魅力の一つ。あえて「当時の盤で聴きたい」と中古盤店を巡り、昔のレコードを集めている平成世代も増えているようです。

そんなアナタのために、ドーナツ盤ハンター・チャッピー加藤が、「ぜひ手元に置きたい一枚」を、アーティスト別、ジャンル別にご紹介していきます。

 

満島ひかり主演『トットてれび』を生んだNHKの土曜ドラマ枠で、また昭和芸能史を背景にしたドラマがスタートしました。小松政夫さんの自伝的小説をベースにした植木等とのぼせもんです。

小松さんは若い頃、役者を目指して博多から上京。求人広告を見て、植木さんの運転手兼付き人になり、芸能界デビューのきっかけを掴んだことは有名な話ですが、「弟子から見た師匠・植木等」という視点は、これまでクレージーキャッツを描いたドラマとは一線を画したものになりそうで、今後が楽しみです。

まだ最初の2回分を観ただけですが、ビックリしたのは、山本耕史の声が植木さんの声とソックリなこと!声帯模写としても、松村邦洋の掛布さんに匹敵するクォリティで、しかも『スーダラ節』も“植木声”で歌っているのです!

地声が似ているわけではないので、たぶん当時の映像・音資料を集め声色を徹底研究したんでしょうが、その役者バカぶりには恐れ入りました。さすが堀北真希をゲットしただけのことは…ってカンケイないですね。

さらに語り部として、小松さんご本人が淀川長治さんの格好で登場しているほか、植木さんの父親役で伊東四朗さんが出演!『電線音頭』のコンビがさりげなく復活しているのもたまらんところで、今後の展開が楽しみです。

ところで、クレージーキャッツはあくまで「ジャズバンド」で、植木さんはギタリストでもあり、歌手が“本業”だったことを忘れてはいけません。
そこで今回は「ヴォーカリスト・植木等」の魅力が目一杯楽しめるレコードをご紹介しましょう。…エ?お呼びでない??お呼びでないね。こりゃまた失礼いたしました!(でも解説するよ!)

 


【その①】・・・『ハイそれまでョ』(1962)

映画「無責任シリーズ」の記念すべき第1作『ニッポン無責任時代』(1962年7月公開)の主題歌。前年の『スーダラ節』(1961)の大ヒットを受け、「植木主演で映画も作ろう」という話になり、鬼才・古澤憲吾監督が「無責任男」のキャラクターを創造。マジメな性格の植木さんは、役作りに相当苦しんだようですが、吹っ切れた一つのキッカケは本曲じゃないかと思います。

「あなただけが生き甲斐なの」と、ムーディーな低音で始まったかと思いきや、「てなコト言われてその気になってェ!」といきなり転調、ツイストに。
さんざ女に貢いだあげく、「ハイ、それまでョ」とオサラバされ、「ふざけやがって、ふざけやがって、ふざけやがって、コノヤロー!!」と絶叫するジェットコースターのような展開は、いま聴いても十分衝撃的です。

こんな詞を書く青島幸男もかなりイカれてますが、「最初はフランク永井で、途中からいつもの感じでヨロシク!」と植木さんに無茶振りされて、ホントに書き上げてしまった作曲の萩原哲晶も相当にクレイジー。また途中でキャラをコロッと変えて歌いきった植木さんも、みんな揃ってどうかしてます。

『スーダラ節』は歌声にまだ若干の迷いが垣間見えますが、本曲では完全に振り切れており、音楽上の「無責任キャラ」はこの曲で完成したと言っていいでしょう。日本のコミックソングのレベルを一段上げた傑作です。

通常盤は1,000円前後で入手できますが、東芝レコードならではの「赤盤」はややレアで、1,500円くらいで入手可能。

 


【その②】・・・『遺憾に存じます』(1965)

クレージーキャッツの全盛期だった1960年代前半〜中盤は、海外に目を移すとビートルズが登場。ベンチャーズも来日し、エレキブームが起こった時代でもあります。そのエレキサウンドをいち早くフィーチャーしたのが本曲で、演奏はいつものビッグバンドではなく、「エレキの神様」寺内タケシとブルージーンズが担当。そのせいか植木さんもノリノリで歌っており、全盛期の両者のバトルはぜひ聴いていただきたいところ。

ラスト、テケテケと疾走するギターを「それ行けー!!」「徹底的に行けー!!」とさんざ煽っておきながら、暴走して止まらなくなると「オイ、コラ!!調子に乗るな!」…は昭和のお約束。

これも青島&萩原作品なのですが、いきなりイントロから、ビートルズ『抱きしめたい』にクリソツなフレーズが出てくるのはご愛嬌。(ちなみにビートルズは翌66年に来日。)人生のままならなさを嘆きつつ「まことに遺憾に存じます」という政治家がよく使うワードで締めるところが、いかにも風刺が効いていて、ザッツ青島幸男です。もっとも、この数年後にご本人も参院選に出馬。政界に打って出て、やがては都知事になるのですが。

このレコードも通常盤は1,000円前後、赤盤は1,500円ぐらいで入手可能です。

 


【その③】・・・『シビレ節』(1966)

「スイスイスーダララッタ」も当時大流行しましたが、負けず劣らず流行したのが本曲の「シービレチャッタ、シービレチャッタ、シービレチャッタヨー」です。どうやら当時の青島幸男は何を書いても許されたようですが、この詞もよーく読んでいくと、実に奥深いのです。

「俺はあの娘にシビレてる」から始まり、バアさんはエレキにシビレ、カアちゃんは有名校にシビレ、社長は銀行にシビレ、社員は通勤ラッシュにシビレ、学生はマンガにシビレ…「国中みんなでシビレてる」と、気付けば痛烈な社会風刺に。経済優先、個人主義に走り、どんどん壊れていくニッポン人の方がオレよりよっぽど無責任じゃないかと、無責任男が歌うのです。そんな一筋縄じゃいかない曲をシレッと軽快に歌って、かつ流行させてしまう植木さんの歌唱力(というか人間力)には、マジでシビレます。

本曲は『日本一のゴリガン男』(1966年3月公開)の挿入歌でもあり、植木さんがクレージー映画の常連・人見明(上司役)と一緒に、ホテルの大宴会場でこの曲を踊りながら歌うシーンは必見。昭和の宴会風景がまんま真空パックされていて、これまたシビレます。作曲は宮川泰、レコードは1,000円前後で入手可能です。

Copyright Nippon Broadcasting System, Inc. All Rights Reserved.