奨学金が生む思わぬ悲劇… “ブラック奨学金”の闇

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ブラック奨学金

ブラック奨学金(文春新書) | 今野 晴貴(Amazonより)

「奨学金」という言葉を聞いて、どんなイメージが浮かびますでしょうか。
「学費に乏しい苦学生を助けるための心優しい仕組み」…「将来性ある若者を育てるための粋な計らい」… そんなイメージがあるじゃないですか。ところが、ところが…この「奨学金」のせいで今、全国の若者たちが凄まじい借金地獄に陥ってしまう…という例が続発しているのだそうです。

先ごろ、『ブラック奨学金』(※文藝春秋)という本を上梓。「ブラック企業対策プロジェクト」共同代表でNPO法人「POSSE」(ポッセ)代表理事の、今野晴貴(こんの・はるき)さんに、「奨学金の闇」について、話を訊きます!
わざわざスタジオにお越しいただきました。

今野晴貴

【2013ユーキャン新語・流行語大賞】トップテン「ブラック企業」NPO法人POSSE代表の今野晴貴さんが受賞した 写真提供:産経新聞社

Q. 今野さんは、これまでに、200件以上に及ぶ「奨学金返済」の相談を受けてきたそうですが…いま、奨学金を借りている学生たちは、どれくらいいるのでしょうか?

A. 長引く不況や雇用情勢の悪化から、奨学金を借りる学生は増加し続け、1998年度には約50万人だったが、2013年度には144万人へと、わずか15年で3倍近くに伸びている。いまや大学・短大生の約4割が奨学金を利用しており、1人あたりの合計借入金額の平均は、無利子の場合でも236万円、有利子の場合は343万円にものぼる(2015年度)。新社会人になった若者の約4割がこれほどの借金を背負って社会に出て行くのだ。

Q. 昔は、「奨学金制度」というと、苦学生に寄り添う温かい制度というイメージでしたが…いまは随分と事情が違うそうですね?

A. 昔と比べ今は、奨学金の貸主のJASSO(日本学生支援機構)が取り立てを著しく強化している。奨学金を借りた若者たちが返済に行き詰まり、その保証人になった人がJASSOに訴えられるケースが続発しているのだ。奨学金返済の延滞者に対し、2015年度に執られた法的措置は、なんと8,713件にも及ぶ。これは、たった1年間の間に執られた件数。(※2006年には1,181件にすぎなかった法的措置が、爆発的に増加して高止まりしている…。)

奨学金が生む思わぬ悲劇… “ブラック奨学金”の闇

Q. 今野さんの本『ブラック奨学金』の帯には、実に恐ろしい文言が並んでいます。「容赦ない裁判での取り立て、親戚にまで連鎖する請求、雪ダルマ式に膨れ上がる延滞金地獄… 学生をしゃぶり尽くす“高利貸し”の正体!」奨学金の取り立ては、かつての“高利貸し”並みに厳しいということでしょうか?

A. 奨学金請求は、かつての消費者金融被害を思わせる苛烈さだ。病気で働けない場合や低賃金で支払えない若者にも、容赦なく請求が及ぶ。そして、本人に支払い能力がないと判断するや、即座に連帯保証人、保証人に請求が及ぶ…。

Q. 相談を受けてきた中で、典型的な事例とはどのようなものでしょうか?

A. 奨学金返済に関する相談は、本人以外の家族・親類からも多数寄せられている。
例えば、「甥が返済していない奨学金の請求が突然数百万円も来たが、本人とは連絡も取れない」といったケースだ。しかも大抵の場合、それは「巨額の請求」になる。返済が滞り、滞納が9か月を超えて続くと、JASSOは延滞分の金額だけではなく、借り手が将来返済する予定の金額(元本および利子)も含めて、裁判所を通じて「一括請求」を行うからだ。そのため、400万円、500万円といった莫大な請求が、「突如」、親類に及ぶことになる。
また、それらにかかる「延滞金」は年利5%が、全額に付加される。「延滞金」は、訴訟が提起され、本人が自己破産し保証人に請求が行くまでに、膨大に膨れあがっていく…。

ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪

ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪(文春新書) | 今野 晴貴(Amazonより)

Q. (※今野さんは、2013年、『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』という本を出しまして、「ブラック企業」という言葉で、流行語大賞トップ10を受賞しましたが…)奨学金の取り立てが厳しくなった背景には、ブラック企業の存在も見え隠れしているとか?

A. 現在は、非正規雇用の割合が4割近くを占めている。残りの約6割のうち、「ブラック企業」がまた相当な割合を占めているのでは、奨学金の返済もままならない若者が大量に発生するのも無理はない。

Q. 日本の奨学金と、諸外国の奨学金は、制度の中身が違うそうですね?

A. 諸外国は給付型奨学金が大勢を占める日本の奨学金はそのほとんどが貸与型であり、しかもその過半数が有利子での貸し付けだ。こんな制度は日本だけ。(※日本並みに厳しかった韓国でさえ、給付型を充実させつつある。)日本の奨学金制度は学生を「食い物」にする仕組みになっており、民間の金融機関の“優良投資先”になっている。日本の将来を担う学生を食い物にする現行の奨学金制度は、国家の政策として支離滅裂であるとさえいえる…

奨学金が生む思わぬ悲劇… “ブラック奨学金”の闇

Q. 政府は改善策を講じていないのでしょうか?

A. 日本政府もようやく、給付型奨学金制度の創設に踏み切ろうとしている。ただし、この給付型は、成績が落ちると返済を迫られることになっている。しかも、返済できない場合には、やはり訴訟で回収するという。

Q. とつぜん降りかかる、奨学金返済訴訟。誰にとっても他人事ではないそうですね?

A. 自分自身が保証人になっていなくとも、親、配偶者など、親族の誰かが背負っていることもある。また、保証人の奨学金債務は相続によって自分自身に降りかかることもある。奨学金返済問題は、非常に多くの人に関わる問題なのだ…。

奨学金制度の闇について、『ブラック奨学金』の著者、今野晴貴(こんの・はるき)さんにお話を伺いました。

今野晴貴さん プロフィール

NPO法人POSSE代表でブラック企業対策プロジェクト代表。
2013年、著書『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(文春新書)で大佛次郎論壇賞受賞。
同じ年、「ブラック企業」で流行語大賞トップ10を受賞。
著書に『ブラックバイト 学生が危ない』(岩波新書)ほか多数。
Twitter @konno_haruki

9月6日(水) 高嶋ひでたけのあさラジ!「三菱電機プレゼンツ・ひでたけのやじうま好奇心」より

高嶋ひでたけのあさラジ!
FM93AM1242ニッポン放送 月~金 6:00~8:00

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